デジタルシネマ
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デジタルシネマ(Digital cinema)とは、撮影にフィルムカメラではなくビデオ機材を使って制作される映画、もしくは上映および配給にフィルムを使わない映画。
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[編集] 概要
近年の映画製作は、特殊効果や編集作業をデジタルで作業する事が当然の事となり、撮影した映像フィルムのスキャンによるデジタル化と、加工後フィルムに戻すキネコの作業が不可欠となっている。それならば、いっそ撮影と上映もデジタル化する事で両工程を省き、時間とコスト、その他アナログが抱えるあらゆる制約を払拭してしまおうと言うのがデジタルシネマの基本構想である。
デジタルシネマの推進に最も意欲的なのが、『スター・ウォーズ』シリーズで知られるジョージ・ルーカスである。彼は『クローンの攻撃』において長編映画では史上初めて完全デジタル撮影を行うと共に、当初は「本作はデジタル上映以外は許可しない」と発言していたが、後者についてはさすがにデジタル上映環境の普及が不十分な事から撤回された。いずれにしろ、すでに大きな有利性が示された事で、今後映画全体がデジタルシネマの方向にシフトしていくのは間違い無い事であろう。
[編集] 制作
『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』や『リリイ・シュシュのすべて』などの映画はHDCAM、HD24Pと呼ばれる高精細度ビデオカメラによって撮影され、編集に使われる機材もHDTV用の物が使用されている。また、『スパイ・ゾルゲ』などはビデオテープすら使用せず、ハードディスクにデータとして記録した。
ハイビジョン(60i)がかつて使われていたが、プルダウンの必要の無いHD24P(24P)で撮影されることが多い。これは映画館に設置されている映写機としてフィルムプロジェクタが主流であるために高精細度ビデオ映像を「テレシネ」でフィルムに転写する必要があるからである。
デジタル撮影により、撮影フィルムの現像・スキャンの手間とコストが省かれ、さらに即時に再生確認ができる利点がある。
[編集] 上映
キネコされてフィルムに転写されたデジタルシネマはほとんどの映画館で上映可能である。 しかし、テレシネのためのコストとフィルムのハンドリングのコストの削減のため、ビデオ映像のまま(ビデオテープなど)での配給および上映が試みられており、一部の先進的な映画館にはDLP技術などを採用したビデオプロジェクタが導入されて、撮影から上映まで一切フィルムを使用しない映画興行が実現されている。そのような映画館は、映画の上映以外にもスポーツやコンサートの生中継の上映も行なっているところもある。
デジタル上映によって、上映用フィルムの原価やデュープ代、輸送費(デジタルならデータ回線による転送も可能である)や保管費などのコストが削減される上、フィルムの劣化や損傷も無く製作者の意図に限りなく近い状態の上映が可能である利点がある(ルーカスがデジタル上映に積極的なのもこの点が大きいと言われる)。ただし、製作者側の対応のみで済むデジタル撮影と違い、デジタル上映の普及には各映画館側の設備投資が必要であり、近年の厳しい経営状況を鑑みるにまだまだ普及には時間を要すると思われる。一方で、DVDソフト化においてはデジタルデータから直接マスタリングする事でメリットを享受する事ができる。
[編集] 配信
さらにビデオテープの複製のためのコストを削減するため、ビデオ映像をデジタルファイルにしてネットワークを通して各映画館に届け、興行を実現するという試み[1]が盛んに行なわれている。