ベルサイユのばら (宝塚歌劇)
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『ベルサイユのばら』は池田理代子の漫画作品『ベルサイユのばら』を原作として製作され、宝塚歌劇団で公演された演劇作品。
目次 |
[編集] この作品のあらまし
1974年初演。初演時に演出を担当したのは俳優の長谷川一夫。歌劇団の専属脚本家・植田紳爾が脚色し、長谷川と共に演出を担当した。
企画当初は首脳陣から「漫画が原作ではだめだ」と却下されたり、原作ファンから「イメージが壊れる」などと反対も強く、植田もたびたびカミソリを入れた脅迫の投書まで送られてしまうといった苦難を味わった。
しかし、初演当時の人気は社会現象となり、以後たびたび再演。2006年1月9日には通算上演回数1500回を突破。通算観客動員数は2006年3月17日に約400万人を記録。
この作品は初演当時テレビに押されて停滞気味であった宝塚歌劇の人気を復活させる作品となったばかりではなく、歌劇団史上最高のヒットシリーズと化し、今や「タカラヅカ」の代名詞的な作品になっている。上演すればかなりの集客を、常に期待できる演目であるため、歌劇団にとって「ここ一番の真剣勝負」というときに上演されることが多い。
長谷川は、「役者が苦労してこそ、観客には美しく見える」という彼ならではの美学により、演技を指導。彼の指導により生み出された数々の演技・所作は、長谷川の遺産ともいえる“型”として、最近の上演にまで受け継がれている。
長谷川の死後は、植田が脚本・演出を担当。最近では、谷正純が演出陣に加わっている。
[編集] あらすじ
[編集] オスカル編
貴族の出身のオスカルは、世継ぎの生まれぬ父親によって、女でありながら男として育てられた、男装の麗人である。
幼少時、オスカルの養育係となった祖母・マロングラッセに連れられてきたアンドレは、オスカルの世話役を仰せつかって以来、片時も傍を離れず影となって支える。しかし、オスカルをいつしか親友から、一人の女性として見るようになるが、アンドレは平民の身分であった……。
アンドレは、オスカルをかばって目を怪我して以来、段々と目が見えなくなってしまう。オスカルは王宮守護の近衛隊から国民を守る軍隊衛兵隊への転属を自ら志願し、隊長を務めることになる。最初は隊員の誰もが、「女の貴族には従えない」と反発していたが、オスカルの博愛精神と純粋な心に、いつしか結束が固まっていく。
アンドレは、オスカルとオスカルのかつての部下で貴族の将校ジェローデルとの結婚話にショックを受け、オスカルを殺してでも永遠に自分のものにしようとするが、寸でのところで思いとどまり、今までの自分の想いを告げる。最初はとまどったオスカルだが、そのうちに自分の中のアンドレへの想いに気づきはじめる。
そんな中、フランス国内の情勢は急速に悪くなっていった。貧富の差が拡大し、平民の不満は頂点に達し、いつ貴族と平民が血と血で争うことになっても、おかしくない状況となっていく。ついにオスカルは、衛兵隊の指揮官として、パリ出動の先陣に立つことになる。
いま、パリにゆけば、生きて帰れるかわからない。パリ出動前夜オスカルはアンドレに自らの思いを吐露し、二人はついに結ばれる。
しかしアンドレは目が不自由なためにセーヌ河畔の橋上でオスカルの身を案じながら銃弾に倒れる。 翌7月14日、悲しみを振り切り、気丈にも衛兵隊を率いてバスティーユに向かうオスカル。後に「フランス革命」と呼ばれた、平民が絶対王政の象徴だった、バスティーユ監獄を篭絡した日。オスカルは、弱き者の力になると、平民の盾となって貴族の部隊と戦うのだった。
激戦の中、銃弾に倒れたオスカルは「バスティーユに白旗が!」と叫ぶ部下アランの言葉を妹同然の娘ロザリーの腕の中で聞く。フランス革命がなされたその瞬間に、生涯の幕を閉じるのだった。
[編集] フェルゼンとマリー・アントワネット編
オーストリア女帝マリア・テレジアの娘、皇女マリー・アントワネットは、政略結婚で14歳の時にフランス王太子後のルイ16世の元に嫁ぐ。
アントワネットは18歳の時にパリ・オペラ座の仮面舞踏会にて生涯の恋人、スウェーデン貴族のハンス・アクセル・フォン・フェルゼンと遭遇する。その時、アントワネット付きの近衛仕官だったのが、金髪の男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ。異国に生を受けた三人はその夜、運命の出会いを果たす。
フェルゼンとの道ならぬ恋に思いを募らせるアントワネットに「国家の母としての義務を忘れるな」といさめるオスカル。アントワネットは「軍服を着ているうちに女の気持ちを忘れてしまった」とオスカルをなじった。しかしオスカルもまたフェルゼンへのかなわぬ思いに悩んでいた。親友として親交を暖めていたオスカルとフェルゼンだったが、オスカルの胸のうちには女としての想いが芽生えていたのだ。
フェルゼンはアントワネットを深く愛していた。二人の愛が醜聞となりアントワネットを破滅させると感じたフェルゼンは男らしく身を引く決心をする。彼は、愛を胸に秘めてスウェーデンに帰国した。
フランス国内の不穏な空気は高まり、貧しい民衆達の不満は爆発寸前だった。
近衛隊から衛兵隊へ転属したオスカルは民衆達の暴動に備えて1789年7月12日、パリ出動を命じられる。
オスカルの養育係の孫である平民のアンドレ・グランディエは護衛として常にオスカルに寄り添ってきた。彼は身分違いと知りながら心密かに長年オスカルを愛していた。オスカルも常に自分を支えてくれるアンドレの大きな愛に気づき、彼を愛するようになる。パリに進駐することになれば身分を捨て命をかけて戦ねばならないと覚悟したオスカルはアンドレとの結婚を決意し、ついに二人は結ばれる。
オスカルは貴族の身分を捨て民衆と共に戦うことを宣言し、貴族側の軍隊との戦闘に突入した。 アンドレはオスカルの身を案じながら戦死し、翌7月14日(フランス革命記念日)、民衆達はバスティーユ監獄を襲撃した。愛する人の死を耐えながら気丈に軍隊を指揮するオスカル。 しかしオスカルも銃弾に倒れ、部下の衛兵隊員アランの「バスティーユに白旗が!」という言葉を聞きながら息絶えた。
革命の勢いにおされた群集はベルサイユに押し寄せ、マリー・アントワネットは民の声にベルサイユを離れパリに行くこととなる。
アントワネットの窮地を知ったフェルゼンは彼女を救うべく、命がけで急遽スウェーデンからフランスにやってきた。
国王の処刑後、コンシェルジュリ牢獄に囚われていたアントワネットのもとにフェルゼンは彼女を脱獄させるためにやってくる。「別に囚われている子供たちを置いては行けない」と脱獄を断るアントワネットにフェルゼンは涙ながらに説得するが、アントワネットは拒み通す。アントワネットはフェルゼンが見守る中、フランスの女王らしく誇り高く毅然として断頭台へと向かうのだった。
[編集] 登場人物
- オスカル
- アンドレ
- マリー・アントワネット
- フェルゼン
[編集] 歴史
- 1974年(初演、昭和ベルばら) 月組初演を皮切りに4組で上演。
- 月組・マリー・アントワネット : 初風諄、フェルゼン : 大滝子、オスカル : 榛名由梨(原作に忠実に作られた)
- 花組・オスカル : 安奈淳、アンドレ : 榛名由梨(原作で人気のあったアンドレとオスカルのカップルを中心とした内容)
- 雪組・オスカル : 汀夏子、アンドレ : 麻実れい
- 星組・マリー・アントワネット : 初風諄、フェルゼン : 鳳蘭
- 長谷川の演出という事も加わりファンが急増、空前のタカラヅカブームを巻き起こす。
- この作品の成功に対し1974年には文化庁芸術祭優秀賞、1976年には菊田一夫演劇賞特別賞が贈られた。
- 雪組(1989年)アンドレ・オスカル編。
- 星組(1989年)フェルゼン・マリー・アントワネット編。
- 花組(1990年)フェルゼン編。76期生初舞台公演。
- 月組(1991年)オスカル編。
- 2001年に『ベルサイユのばら2001』として再々演。
- 新装なった東京宝塚劇場のこけら落としを記念し、宙組(フェルゼンとマリー・アントワネット編)(フェルゼン:和央ようか、アントワネット:花總まり) と星組(オスカルとアンドレ編)(オスカル:稔幸、アンドレ:香寿たつき、湖月わたる、樹里咲穂)が宝塚大劇場と東京宝塚劇場とで同時上演。尚、宙組大劇場公演は87期生初舞台公演、星組はトップコンビ(稔幸&星奈優里(アントワネット役)の退団公演。
- ここまでの通算観客動員が356万4千人を記録した。
- 2005年11月11日~11月13日に星組が韓国で日韓国交正常化40周年記念「日韓友情年2005 宝塚歌劇韓国公演」でフェルゼンとマリー・アントワネット編を上演。
- 2006年、マリー・アントワネット生誕250年を記念して、星組公演「フェルゼンとマリー・アントワネット編」(フェルゼン:湖月わたる、アントワネット:白羽ゆり)(2006年1月~2月宝塚大劇場、2月~4月東京宝塚劇場)と雪組公演「オスカル編」(オスカル:朝海ひかる)(2006年2月~3月 : 宝塚大劇場、4月~5月東京宝塚劇場)を上演。7月に全国ツアー(オスカル編)(オスカル:水夏希アンドレ:壮一帆)を上演。
雪組大劇場公演中に、通算観客動員400万人を記録した。
- 星組公演には、オスカルに雪組トップスター朝海ひかるや雪組から貴城けい、水夏希、月組から霧矢大夢、大空祐飛が、雪組公演には星組トップスター湖月わたる、花組トップスター春野寿美礼、月組トップスター瀬奈じゅんがそれぞれ特別出演。
[編集] 上演に当たっての課題
- 男役トップスター中心主義の宝塚歌劇版では、主演するトップスターに合わせて脚本が作られる。(初演時は原作同様アントワネット、フェルゼン、オスカルの三人が主役)しかし主演者の個性が必ずしもこれにあてはまるとは限らず、アントワネットやフェルゼンが登場しないヴァージョンや、オスカルの相手役がロザリーというヴァージョンがあるなど、宝塚版のストーリーは原作とはかけはなれたものになってしまっている場合がある。
- また、
- 上演時間の制限があるため、いかにその範囲内で可能な限り無理のないストーリー展開にするか、
- 初演から30年あまりを経ているので、初演当時の演出形式へのこだわりをどこまで捨てられるか・目新しさが残っているか、
なども演出家には要求される。
再演回数も多く初心者受けのよい作品であるが、長年のタカラヅカファンから批判を受けない工夫を要求される作品でもある。
[編集] 歴代の大劇場キャスト一覧
サブタイトルなど | オスカル | アンドレ | フェルゼン | アントワネット | |
---|---|---|---|---|---|
1974年 月組 |
(初演) | 榛名由梨 | 麻生薫 | 大滝子 | 初風諄 |
1975年 花組 |
アンドレとオスカル | 安奈淳 | 榛名由梨 | 松あきら | 上原まり |
1975~1976年 雪組 |
アンドレとオスカル | 汀夏子 | 麻実れい | 美里景 | 高宮沙千 |
1976年 星組 |
III | 榛名由梨 安奈淳 汀夏子 順みつき |
但馬久美 | 鳳蘭 | 初風諄 |
1976年 月組 |
III | 榛名由梨 | 瀬戸内美八 | 鳳蘭 | 初風諄 |
1989年 雪組 |
アンドレとオスカル編 | 一路真輝 | 杜けあき | 朝香じゅん 紫苑ゆう 麻路さき |
仁科有理 |
1989~1990年 星組 |
フェルゼンと マリー・アントワネット編 |
涼風真世 一路真輝 大輝ゆう 安寿ミラ 紫苑ゆう |
麻路さき | 日向薫 | 毬藻えり |
1990年 花組 |
フェルゼン編 | 涼風真世 紫苑ゆう 真矢みき 安寿ミラ |
朝香じゅん | 大浦みずき | ひびき美都 |
1991年月組 | オスカル編 | 涼風真世 | 杜けあき 日向薫 天海祐希 大浦みずき |
― | ― |
2001年 宙組 |
フェルゼンと マリー・アントワネット編 |
彩輝直 水夏希 |
彩輝直 水夏希 |
和央ようか | 花總まり |
2001年 星組 |
オスカルとアンドレ編 | 稔幸 | 香寿たつき 湖月わたる 樹里咲穂 |
安蘭けい | 星奈優里 |
2006年 星組 |
フェルゼンと マリー・アントワネット編 |
朝海ひかる 貴城けい 水夏希 霧矢大夢 大空祐飛 (大劇場) |
安蘭けい (大劇場) |
湖月わたる | 白羽ゆり |
安蘭けい (東京) |
立樹遥 柚希礼音 (東京) |
||||
2006年 雪組 |
オスカル編 | 朝海ひかる | 湖月わたる 春野寿美礼 瀬奈じゅん 貴城けい 水夏希 (大劇場) |
― | ― |
安蘭けい 貴城けい 水夏希 (東京) |
ピンク枠は主演のトップスターが演じた役。
1970年代は固定トップスター制が確立されていない。
[編集] 使用曲
- 愛あればこそ
- 愛の面影
- 愛の巡礼
- 愛の怯え
- 結ばれぬ愛
- 駆けろペガサスの如く
- 青きドナウの岸辺に
- ばらのスーヴェニール
- 白ばらのひと
- 我が名はオスカル
- ばらベルサイユ
- 青きドナウの岸辺
- アン・ドゥ・トロア
- 心の白薔薇
- 心のひとオスカル
- ばらのスーベニール
など
[編集] その他
- 2005年12月6日、NHK総合テレビの番組プロジェクトX~挑戦者たち~にて、初演が行われるまでの経緯、ドラマが特集された。