マカロニ・ウェスタン
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マカロニ・ウェスタンとは、1960年代~1970年代前半に作られたイタリア製西部劇のことである。大半のものはユーゴスラビア(当時)やスペインで撮影された。英米伊などでは、これをスパゲッティ・ウェスタンと呼んでいるが、セルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』が日本に輸入された際、「スパゲッティでは細くて貧弱そうだ」ということで、映画評論家の淀川長治が「マカロニ」と変名した。日本人による造語であるため、マカロニ・ウェスタンという言葉は他国では通用しない。ただ、例外として韓国では「マカロニ・ウェスタン」と「スパゲティ・ウェスタン」両方の呼称が使われているが、多く使われているのは「マカロニ・ウェスタン」である。ドイツでは、イタロ・ウェスタンという呼称もある。
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[編集] 発祥とその特徴
1960年代初期からイタリアでは西部劇が作られていたが、それが世界的に知られるようになったのは、『荒野の用心棒』だった。制作費を安く上げるために、当時のユーゴスラビア南部やスペインなどでロケをし、ハリウッドのまだ駆け出しの俳優などを使って、残忍で暴力的なシーンを多用した斬新な作風が、当時の西部劇の価値観を大きく変えた。
本場アメリカ製西部劇には、ドラマ性、叙情性などが見られたのに対し、マカロニ・ウェスタン(以下マカロニ)は、正義感のない主人公、残虐性、乾いた作風、激しいガン・ファイトなどを売り物にしていたからである。また、本場西部劇の劇中音楽がフル・オーケストラ演奏だったのに対し、マカロニのそれはエンニオ・モリコーネによるエレキギターサウンドのスコアが特徴である。
役者としては、ハリウッドのB級俳優を招いていた。その中には、まだ売り出し中のクリント・イーストウッドやバート・レイノルズの姿もあり、また、ハリウッドでは悪役専門だったリー・ヴァン・クリーフが主人公に据えられたりした。
[編集] よくある誤解
マカロニ・ウェスタンをよく「ヨーロッパ製の同じ白人が演じる西部劇の、いわゆるパチ物」と見る人も多いが、これは誤解である。一部例外を除き、マカロニ・ウェスタンの舞台設定のほとんどがメキシコ近隣などの中米あたりを舞台にしている作品が多い。これは作品設定の時代背景として中南米がまだヨーロッパ植民地時代の影響が色濃くあったためで、実際一部のヨーロッパ人も当地では同様の文化風俗を共用していたためである。従ってヨーロッパ人の歴史観からみても新大陸での、かのような西部劇風の文化風俗に対しては違和感がないためである。(西部劇という言葉は、本来米国の”西部”開拓時代に使われる物語の語であって、しいえていうならマカロニ・ウェスタンは本来は「中米劇」とでも言うべきものである。しかしながら文化風俗的に正統派西部劇と同様の物で演じられるので、マカロニ・ウェスタン(スパゲッティ・ウェスタン)は、このように呼ばれるようになったものと推察できる)
[編集] 黄金期と衰退期
『荒野の用心棒』が世界中で爆発的な人気を博すると、イタリアでは1965年あたりからマカロニ作品を量産していくようになる。後年、セルジオ・レオーネは「マカロニは通算500本ほど製作されたと思う」と語っているほどである。
量産体制となると、ハリウッドの俳優だけではローテーションを回すことが困難になってきた。そこで、イタリア本国の俳優も使われるようになり、そこからスターになったのが、ジュリアーノ・ジェンマ、フランコ・ネロたちである。また、近隣のヨーロッパ諸国の俳優も招かれ、フランスからはジャン=ルイ・トランティニャン、西ドイツからはクラウス・キンスキーらが招かれた。
年に1、2本は大型予算を投じた作品も撮られるようになり、その代表的なものに、レオーネ監督の『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』、そしてハリウッドからヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソンらのA級スターを招いた『ウエスタン』などがある。
しかし、1970年代に突入するや、急速にそのブームは失速していくことになる。あまりにも量産されて観客が食傷気味になってきたためである。全盛期に映画の撮影が行われたスペインの村が、ロケセットを西部村として観光化するも、それすら寂れていくというマカロニ・ウェスタンの楽屋落ち話のような映画も製作されている。『マカロニ・ウェスタン800発の銃弾』(2005年、スペイン映画)
[編集] 主な作品
- 『荒野の用心棒』(1964年/監督 : セルジオ・レオーネ 出演 : クリント・イーストウッド、ジャン・マリア・ヴォロンテ)
- 『夕陽のガンマン』(1965年/監督 : セルジオ・レオーネ 出演 : クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、ジャン・マリア・ヴォロンテ)
- 『荒野の1ドル銀貨』(1965年/監督 : カルヴィン・J・バジェット 出演 : ジュリアーノ・ジェンマ、イヴリン・スチュアート、ピーター・クロス)
- 『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(1966年/監督 : セルジオ・レオーネ 出演 : クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、イーライ・ウォラック)
- 『続・荒野の用心棒』(1966年/監督 : セルジオ・コルブッチ 出演 : フランコ・ネロ、ロレダーナ・ヌシアク、エドゥアルド・ファハルド)
- 『真昼の用心棒』(1966年/監督 : ルチオ・フルチ 出演 : フランコ・ネロ、ジョージ・ヒルトン)
- 『群盗荒野を裂く』(1966年/監督 : ダミアーノ・ダミアーニ 出演 : ジャン・マリア・ヴォロンテ、クラウス・キンスキー)
- 『ガンマン無頼』(1966年/監督 : フェルディナンド・バルディ 出演 : フランコ・ネロ、コレ・キトシュ、ホセ・スアレス)
- 『情無用のジャンゴ』(1966年/監督 : ジュリオ・クェスティ 出演 : トーマス・ミリアン、ロベルト・カマディエル)
- 『新・夕陽のガンマン 復讐の旅』(1967年/監督 : ジュリオ・ペトローニ 出演 : ジョン・フィリップ・ロー、リー・ヴァン・クリーフ)
- 『拳銃のバラード』(1967年/監督 : アルフィオ・カルタビアーノ 出演 : アントニー・ギドラ、アル・ノートン)
- 『さすらいのガンマン』(1967年/監督 : セルジオ・コルブッチ 出演 : バート・レイノルズ、ニコレッタ・マキャベリ)
- 『殺しが静かにやって来る』(1968年/監督 : セルジオ・コルブッチ 出演 : ジャン=ルイ・トランティニャン、クラウス・キンスキー)
- 『復讐のガンマン』(1968年/監督 : セルジオ・ソリーマ、出演 : リー・ヴァン・クリーフ、トーマス・ミリアン)
- 『ウエスタン』(1968年/監督 : セルジオ・レオーネ 出演 : ヘンリー・フォンダ、クラウディア・カルディナーレ、ジェーソン・ロバーズ、チャールズ・ブロンソン)
- 『豹/ジャガー』(1969年/監督 : セルジオ・コルブッチ 出演 : フランコ・ネロ、ジャック・パランス)
- 『ガンマン大連合』(1970年/監督 : セルジオ・コルブッチ 出演 : フランコ・ネロ、トーマス・ミリアン、ジャック・パランス)
- 『夕陽のギャングたち』(1970年/監督 : セルジオ・レオーネ 出演 : ジェームズ・コバーン、ロッド・スタイガー)
- 『進撃0号作戦』(1973年/監督 : セルジオ・コルブッチ 出演 : ヴィットリオ・ガスマン、パオロ・ヴィラッジョ、エドゥアルド・ファハルド)