リアプロジェクションテレビ
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リアプロジェクションテレビ (Rear Projection TV) は、映像表示装置の1つである。略してリアプロとも呼ばれる。 プロジェクターがスクリーンの前から投影するのに対し、リアプロジェクションテレビはスクリーン(すなわちテレビの画面)の後ろから投影するのが特徴である。そのため、プロジェクターをフロントプロジェクターと呼ぶこともある。
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[編集] 特徴
大型パネルが不必要であり、また中身はほぼ空洞に近いため、液晶テレビやプラズマテレビに比べ、安価でかつ軽量な大画面テレビとして販売されている。さらに、液晶やプラズマ程では無いが、かなり薄型にすることができる。部屋の狭い日本ではあまり普及していないが、部屋の広いアメリカ、中国などでは全テレビの売上の7割程度がリアプロジェクションテレビである。
長所
- 大画面TVとしては、安価かつ軽量
- 3色混合表示による自然、かつ奥行き感のある色表現
- 応答速度が速い(ソニーSXRD搭載モデル2.5ms以下)
- 高コントラスト(SXRD、D-ILA共にデバイスコントラスト5000:1以上、セットコントラスト10000:1)
- 省電力
- ランプ交換による輝度回復可(ユーザー交換可)
- 高精細化が可能
短所
- スクリーンに直射光の当たるような場所で使うには明度が低い
- 視野角が狭い(縦方向)
- 適正視聴距離以下での4角の明度ムラ
- ランプの寿命が従来のテレビと比較して短い(ランプ購入コストが別途必要。1個あたり1万5千円~2万5千円程度)
- 奥行きがPDP、液晶に比べて大きい
- 画面表面に軟質素材を使用したモデルが多いため画面表面の清掃の際に拭き傷が付きやすい
[編集] 歴史
かつては各社ブラウン管方式のプロジェクションテレビを販売していが、1990年代後半から次々と姿を消した。その後、国内でのプロジェクションテレビは、ソニーの自社の透過型液晶パネルを用いたグランドベガのみという時代が続いた。グランドベガはそれまでのリアプロジェクションテレビの水準を大きく引き上げる革新的な商品で、北米市場では大ヒットしたものの、国内市場において当時の世間の目はプラズマテレビ、液晶テレビに向いており、かなりの苦戦を如いることになった。
2004年になり、プロジェクター向け透過型液晶パネルで圧倒的なシェアを持つセイコーエプソンが、アメリカで自社のパネルを用いたリアプロジェクションテレビを、国内では通信販売のみで販売を始め、テレビ事業に参入した。続いて三洋電機もエプソンの透過型液晶パネルを搭載したリアプロジェクションテレビの販売を開始した。しかし、どちらもデジタルチューナーを内蔵していない。
また同年、プラズマ・液晶で自社パネルを持てなかった日本ビクターも、古くから開発していた独自の LCOS(反射型液晶)デバイスである D-ILA を用いたリアプロジェクションテレビを開発、北米で発売した。透過型液晶パネルが開口率50%程度なのに対し、D-ILA は90%以上の開口率を持ち、輝度が高く消費電力も低いテレビとして日本国内でも話題になった。さらに、D-ILA は無機配向膜を用いており半永久的な素子寿命を持つという特徴もある。
2005年には、D-ILA パネルの生産力をこれまでの3倍に増強し、5月に地上デジタルチューナを初めて内蔵した D-ILA 方式のリアプロジェクションを日本国内で発売した。その後も同サイズの液晶パネルでフルHDの解像度を持つ D-ILA を開発し、量産性を高めて比較的安価でフル HD 画質を持つモデルを発売する等、ラインナップが充実しつつある。また、展示会等ではRGB3色のLEDを光源としたモデルや奥行き25cm程度の薄型のモデルを発表するなど、積極的に技術開発を行っている。
ソニーも独自の LCOS デバイスである SXRD を開発した。量産性はややビクターに劣るものの、液晶のセルギャップ(膜厚)を薄くすることによって応答速度の高いパネルを開発し、QUALIA ブランドから高級リアプロジェクションテレビとして発売した。その後も普及機としてブラビアブランドから透過型パネルのリアプロを発売しラインナップを増強する。2006年9月には日本市場に SXRD を搭載した普及機を新たに投入した。
三菱電機は変調素子に [DMD]を採用した[DLP](米TI社の商標)方式で他社と比較して若干薄型のリアプロを開発した(2006年にはレーザー光を使用した新光源を開発した)。続いてシャープも DLP 方式でリアプロに参入した。キヤノンや東芝もリアプロ参入を表明している。
液晶や DLP を用いたものは、光源に高圧水銀灯などを使用する。光源の劣化により色調が変化する。一般に液晶パネルの寿命は、光源よりも長いものの偏光板やカラーフィルタの劣化により、色調が変化する。DLP は液晶パネルよりも長寿命と言われているが、使用条件(主に温度条件)により、DMD の動作角が浅くなり、ドット欠けが発生する。
また、ランプの寿命が従来のテレビと比較して短い。特に店頭に展示されているリアプロは、ほぼ丸一日電源が入りっぱなしという過酷な条件下で使用されており、ランプが劣化して本来の輝度が出ていない場合が多い。それでも近年の製品では、家庭での通常の使用方法であれば、数年に1度の交換でよい。現在各社が開発を行っているLED、レーザー光源のリアプロが完成すれば、ランプ交換の必要もなく電源投入後すぐに映像が出るようになる。しかし、高輝度化、高効率化ではまだ課題が残っており製品化できるまでのレベルには至っていない。
[編集] 方式
かつて、リアプロジェクションテレビの方式はブラウン管だった。しかし近年は、次の3方式が急速に注目され、主流になっている。
- LCD(Liquid Crystal Display : 透過型液晶)
- LCOS(Liquid Crystal On Silicon : 反射型液晶)
- DLP (DigitalLight Processing)
以下にそれぞれの特徴を簡潔に述べる。
[編集] ブラウン管
古来から使われていた方式、古くはカラーテレビを拡大しただけの1管方式もあったが、その後モノクロのブラウン管3玉にそれぞれ赤、青、緑のカラーフィルタを付けて投影する3管方式が主流になった。
[編集] LCD
透過型液晶は後方からのバックライトの光の透過率を制御して映像を作る。光を透過させるために電極は画素の中にあるので、映し出された画面に画素の格子が目立つ。また、現在の携帯電話やデジタルカメラに搭載されているものもこのタイプの液晶が主流。
かつては、1板タイプのリアプロジェクションテレビ「ガイア」(シャープ)もあった。今は、赤、青、緑の光の三原色をランプから分離してそれぞれのパネルで制御する 3-LCD 方式のみ。
[編集] LCOS
反射型液晶の一種であるが、電極を液晶の背後に配置することにより開口率を大幅に向上したもの。表面から光源を当て、その反射によって映像を作る。LCD と同様に光の三原色をそれぞれのディスプレイで制御する。LCD 方式よりも輝度が高く(プラズマテレビより高いとも言われる)階調性も優れた映像が得られ、無機配向膜の採用により半永久的な寿命を持つが、歩留まりがやや悪くコストが高いという欠点もある。
原理自体は難しいものではないため、これまで大手の電機メーカーや半導体メーカー各社が開発してきたが、量産まで成功したのはビクター、ソニーと米Syntax-Brillianだけで、他社はみな撤退した。この3社は全て3板方式を採用している。
[編集] DLP
TEXAS INSTRUMENTSが開発した新しいディスプレイ方式。Digital Micromirror Device という微小の鏡を画素の分だけ並べ、光の三原色のカラーフィルターを回転させて映像を作る。
パネルが1枚のタイプと3枚のタイプがある。パネル1枚のタイプは色の表現力がやや弱くカラーフリッカーが若干あるが低コストであるため、こちらの方が主流である。また、画素格子が全く目立たないのも特徴である。
SmoothPicture というミラーを駆動させ水平方向の画素を2倍にする技術でハイビジョン画質 (1080*1920) を低価格で実現している機種もある。