ロングボウ
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ロングボウ(Long bow)は武器の一種で狩猟などにも用いられた弓。直訳すると長弓となるが、英語でロングボウと表記する場合は、日本の和弓など他の長弓類から区別して、主にグレートブリテン島のウェールズおよびイングランドで使用されたものを指す。名前のとおり長さが4-6フィート(1.2-1.8メートル)程もある長大なものだった。
中世、13世紀末から14世紀にかけてロングボウはその絶頂期を迎えたが、銃火器の普及により廃れる事となった。 弓の長さにとくに指針と言うものは無いが、ヨーロッパ大陸においては大体長さ4ft(1.2m)以上のものがロングボウと呼ばれる。 その材質はイチイの木が主で、遊牧民の動物性素材と木材を張り合わせた短弓や、鎌倉時代以降の改良されて複合素材から成るようになった和弓と異なり、単一の素材で作られている。
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[編集] 起源
イギリスで新石器時代のロングボウがすくなくとも二つ発見されている。 文献上の記録としては633年にノーサンブリア王であったエドウィンの息子のオフリドがウェールズ人とマーシア人との間でおきた戦闘の最中に矢によって殺されたのを見る事ができる。 にもかかわらず、この武器はブリテン島外のヨーロッパ人にとって、ウェールズの弓としてよりイングランドの弓として良く知られている。
[編集] 歴史
13世紀頃、イングランドがウェールズに侵攻した際にウェールズ弓兵は侵略者にたいしてこの武器を用いて重い損害を与えた。 その被害者であったイングランドは、ウェールズ公国の併合後に、この強力な武器を素早く自軍に取り入れた。十字軍遠征で名高いリチャード1世もこの弓を使用したとされ、シチリア島のメッシナ攻略の際の敵に言わせると、“矢を撃とうにもその前に目を射抜かれてしまえば、誰も城壁の外を見ることができなかった”という。しかし長弓が現在一般に知られるような完成度に達するのは、もっと後の話である。 この武器はスコットランド独立戦争においてスコットランド軍を大いに苦しめ、百年戦争のクレシーの戦いやアジャンクールの戦いをはじめとする数々の戦いでフランス軍相手に目覚しい効果を挙げた。
[編集] 用法
ロングボウを引くために必要な力はしばしば45kg(100ポンド)を超過した為その習熟は困難を極めた。 イングランドでは自由農民に給料をだして修練させ、その結果として弓兵の体格は左胸等が発達し左右の体型に著しい差異が生ずるほどであったといわれる。
戦争時にロングボウに使われた矢は、鑿(のみ)や鏨(たがね)を意味するチゼル(chisel)や千枚通しを意味するボドキン(bodkin)を冠して呼ばれ、その鏃は縦長の四角垂型をしていた。 この非常に鋭い鏃はメイルの輪の隙間等に突き刺さり相手に酷い傷を与えた。 その為、平和な時代には、一部地域においてこれらの鏃を持ち歩く事は、絞首刑に処される程の犯罪行為とされた。
[編集] 戦術
ロングボウを利用した戦術は歴史の項で述べたとおり、現在のイギリスで発展し、スコットランド独立戦争を通じて洗練され、百年戦争でその効果を如何なく発揮した。
弓兵は接近戦を苦手とし、特に騎兵による突撃戦法には非常に脆い一面がある。 この弱点を補うために、地面に木の杭を打ち込んで簡易バリケードにするなど、相手の突撃を防ぐ備えを作ってその後方に弓兵隊を配置した。
ロングボウを利用する陣形は中央に歩兵部隊を配置し、その両翼に相手を包み込むようにハの字に弓兵を配置する。 イングランドではこの際に大量の弓兵を集中投入し狭い間隔で立って並ばせ、狙いを定めず一分間に10-12射という速さで次々と矢を放ち、敵陣に矢の雨を降らせて弾幕を張る戦法をとった。
以上のように、ロングボウを利用した戦術は、障害物等の設置にある程度の準備期間を必要とし、また障害物を迂回されないような地形を戦場として設定する必要があるため、必然的に受身の戦いを余儀なくされた。 また、準備を整えられる前に攻撃を受けることにも弱く、夜襲や朝駆け等の奇襲攻撃には十分な効果を発揮できなかった。
[編集] 関連項目
[編集] 参考資料
- 『アイテム・コレクション』 安田均・グループSNE 富士見文庫 ISBN 4829142278
- 『図説 西洋甲胄武器事典』三浦権利 柏書房 ISBN 476011842X
- 『武器辞典』 市川定春 新紀元社 ISBN 4883172791
- 『武器と防具・日本編』 戸田藤成 新紀元社 ISBN 4883172317
- 『武器と防具・中国編』 篠田耕一 新紀元社 ISBN 4883172112
- 『武器と防具・西洋編』 市川定春 新紀元社 ISBN 4883172627
- 『武勲の刃』 市川定春・怪兵隊 新紀元社 ISBN 4915146235
- 『魔導具事典』 山北篤・稲葉義明 新紀元社 ISBN 4775300350
- 『図説・日本武器集成』決定版 歴史群像シリーズ 歴史群像シリーズ編集部 編 学習研究社 ISBN 4056040400
- 『図説・中国武器集成』決定版 歴史群像シリーズ 歴史群像シリーズ編集部 編 学習研究社 ISBN 4056044317