ワークステーション
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ワークステーション(英語:workstation、WSとも略される)は、パーソナルコンピュータ(PC)とほぼ同程度の規模のハードウェアを持ち、組版、科学技術計算、CAD、グラフィックデザイン、事務処理等に特化した業務用の高性能なコンピュータのことをさす。汎用コンピュータ(メインフレーム)などで構成されたサーバとネットワークで接続され、事務専用端末として使用されることもある。
なお、JIS X 0001 (ISO/IEC 2382-1)では、「通常、専用の計算能力をもち、利用者向きの入出力装置をもつ機能単位(ハードウェア・ソフトウェアからなる指定した目的を遂行できるもの)」と定義しており、これに従うとパーソナルコンピュータが含まれるが、通常はパーソナルコンピュータとは分けて考えることが多い。
1990年代前半までは、マルチウィンドウやアイコンなどによるGUI、ネットワーク機能の標準装備、マルチタスク、SVGAを超える高解像度のディスプレイなどがワークステーションのPCと比べた特徴であった。 その後、これらの特徴はWindows95の登場とPCの普及によって、ワークステーションのみの特徴ではなくなった。
特に、科学技術計算、CAD、グラフィックデザイン等に使用されるものはエンジニアリングワークステーション(EWS)と呼ばれ、これらの作業を円滑に行う為、専用ソフトウェア、専用のハードウェアを有する事が多い。
また、事務処理や、組版などの編集作業に使われるものはオフィスワークステーションなどと呼ばれる。
ワークステーション(WS)の中にはユーザー専用に開発されたマザーボード、PCIボード、周辺機器などを組み替える事で様々な制御機器のセンターマシン、監視装置などとして使用される事もある。これらの多くはリモートセンシングなど特殊な分野で利用されている。
POSシステムなどに代表される流通システムでは、全国規模に及ぶネットワーク化されたシステムを、メインフレームとサーバ専用機などの中規模なコンピュータ、ワークステーションなどを組みあわせて使用する事が多く、数十台から1万台単位の規模でソリューションとして販売される。このような場合、EWSなどと違いシステム構築の容易さと通信処理能力や、レジスタやバーコードリーダーなどの専用ハードウェアへの対応が必要とされ、ワークステーションは端末としての機能もはたす。一度の大量発注による製造・販売・輸送コストの削減などが行われる。
なお、かつては、LAN内でサーバに対してユーザの手元にあるコンピュータのこともワークステーションと呼ばれていた(例: Windows NT ServerとWindows NT Workstation)。これは、コンピュータ自体の機能や性能による区分ではなく、もっぱらネットワーク内での役割による区分であり、ハードウェアとしてはPCそのものである場合も多かった。近年ではクライアントと呼ぶことが多い。
コンピュータを製造・販売するメーカーがそれぞれの販売戦略により、ワークステーションやパーソナルコンピューター、サーバ等の名称を使い分けていることも、これら各カテゴリの境界を曖昧なものとする要因となっている。
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[編集] 端末型ワークステーション
主に複数の人員により作業を行うデータ入力端末が最も多く使用されている。特に、PCの様な単独で動作する機能は必要なく、必ずセンターマシンが介在する。 また最近は、入力端末としてPCが代用される事が多い。
[編集] 歴史
端末型のワークステーションは1980年代前半に始まる。 メインフレームを中心に複数の端末機器を接続したもので、ディスプレイを内蔵した端末機をワークステーションと呼んだ。これらの多くは後に、大規模なグラフィック専用のメモリを搭載する事により、高度な漢字処理能力を有し、組版処理などのグラフィカルな処理を行える機能を有していた。これらの一部は後にワードプロセッサとして分化していった。またこれに伴い、レーザープリンターが接続されるなど高度な組み版処理が行える様に進化していった。これらは現在でも端末型のワークステーションとして、ホテル、POSシステム、金融機関などで使用されている。
[編集] エンジニアリングワークステーション
2004年現在、エンジニアリングワークステーションの上位機種においては64bitマルチプロセッサや、64bitPCIインターフェースに対応したグラフィック系の処理能力を持つハードウェアを有することが多い。Intel系のPCではワークステーションに導入されたハードウェアが少し遅れてPCでも使われ、ワークステーションとPCのハードウェアに於ける性能的な境界は曖昧になっている。この為、メーカーに於いてはIntel系のワークステーションはパーソナルコンピュータの上位機種として位置づけられている事もある。
エンジニアリングワークステーションでは、アプリケーション、グラフィックボード、SCSIボードなどに専用ハードウェアを組み込んでいる場合が多い。また、OS自体に各メーカーがカスタマイズを行っていることも多い。それらのワークステーションは専用のハードウェアゆえに、パーソナルコンピュータに比べ非常に高価なものとなっている。
[編集] 歴史
1980年代、UNIXをベースとしたクライアントサーバーシステムのクライアント機として、OSがUNIXによる「UNIXワークステーション」が登場した。 これらは、CADなど光学ペンやタブレットなどの入力やプロッタなどの多数のインターフェースを有する事と大規模なメモリを搭載するなど、設計、学術計算などに使用された。
1990年代後半、一部のCADなどの高度なグラフィック処理を必要とする物はUNIXワークステーションが主流で、パーソナルコンピュータとは異なり各社独自のアーキテクチャを使用した専用ハードウェアを使用するものが多く、性能面でもPCを凌駕していた。しかし、PCの爆発的普及に伴う大量生産効果などがありintel製のプロセッサの性能が急激に向上したため、従来、ワークステーションで行われていた業務のうち、専用のハードウェアを必要としない物がパーソナルコンピュータで行われる様になった。intel製のプロセッサのマルチプロセッサ化が遅れた事や64bitPCIバスなど大規模データを取り扱う事を必要とするワークステーションのニーズが高まり、専用の周辺機器などが開発された。
Windows NTの性能向上と共に、同OSを採用するWindowsワークステーションが登場した。パーソナルコンピューターの性能の向上と共に差は少なくなると思われたが、Windowsの64ビットCPU対応など高性能処理を行う事が出来るOSが開発された事やマルチCPU化などにより大幅に性能が向上し、3Dモデルや画像解析などの新たに多くのニーズが登場し専用のアプリケーションが開発されている。
これらの多くはワークステーションの性能に合わせカスタマイズされた物が多く、ワークステーション専用のグラフィックアクセラレータなどのハードウェアやドライバ類が専用化されているため、一般のパーソナルコンピューターとは一線を画している。また多くのワークステーションでは64bitのPCIバスを持っている物が多い。 プロセッサは64ビットが主流だが、32ビット製品も採用されている。
現在、エンジニアリングワークステーションのMPUではRISC系(PA-RISC、POWER、SPARC、MIPS、Alphaなど)、AMD64、Intel系(x86、IA-32)、IA-64など様々な種類が使用されているが、UNIX系ではそれぞれに対応したものがあるのに対して、Windows系ではRISC系はPowerPC、MIPS、Alphaをサポートするものが存在するのみである。
[編集] 流通システム用ワークステーション
流通などを目的とした物で、出荷台数では、EWSを上回る。ハードウェア、OSなど主に端末系とエンジニアリング系の一部を流用した製品と言える。 主に、ミニコン、オフコン又はサーバーとセットになった端末型か、EWSのハードウェアを内包し外観は別製品となっている物が多い。 EWSを内包した物の中には、EWS本体又は同一のマザーボード、CPUなどを内蔵しているが、ファームウェアの変更を行ったり、状況に応じ専用のLSIをマザーボード上に搭載するなど構成の多くは専用にカスタマイズされたハードウェアを持つ。この為、OSがWindows系であっても、BIOSなどが異なる為、他のEWSやPCとの互換性は全くない。 1990年代前半は独自OSの物が殆どであったが、1990年代後半に於いて、UNIXやWindows系のサーバ用マシンをベースに設計された物が多い。 その殆どは顧客のニーズに合わせ設計されている為、専用のアプリケーションを使用する。特に高度なGUIは必要とされず、容易に業務を実行できる様カスタマイズされている。またこれらの多くは、制御を兼ね備えている為、多くのインターフェースを有している。
[編集] 関連用語
- エンジニアリングワークステーション(EWS)
- 漢字ワークステーション(KWS)
- グラフィックワークステーション
[編集] 主なワークステーション
[編集] 端末型
- N6300
- POSシステム
[編集] 先進型
- Domain (Apollo)
- PERQ (Three Rivers Computer)
[編集] オフィス向け
- J-Star (富士ゼロックス)
[編集] UNIXワークステーション
- Sun-1/2/3/4, SPARCstation, Blade, Ultra (Sun; SPARC/Solaris)
- HP XW8000, HP9000, HP c8000(HP; PA-RISC/HP-UX)
- DECstation, AlphaStation (DEC(現HP); Alpha/Tru64 UNIX, OpenVMS)
- RS/6000, IntelliStation POWER (IBM; POWER/AIX)
- Personal Iris, Indy, Indigo, O2, Octane, Fuel, Tezro (SGI; MIPS/IRIX)
- NeXTcube, NeXTstation (NeXT)
- PowerMac G5 (Apple;POWER4ベースPowerPC 970MP/Mac OS X)(ワークステーションではないがUNIX互換OS, 64bit CPU, PCI-X等ワークステーション並みの機能・性能を誇った)
- MacPro (Apple;Intel Xeon/Mac OS X) (特殊x86又はx64機)
- EWS4800 (NEC; MIPS/EWS-UX)
- 2050, 3050 (HITACHI; 680x0/HI-UX)
- Luna (オムロン)
- NEWS (ソニー; MIPS)
※太字は現行機種(2006年10月現在)
[編集] その他
- BeBox (Be社)
- Silicon Graphics 320 / 540 (特殊WindowsNT機)(Silicon Graphics)