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下津井電鉄線 - Wikipedia

下津井電鉄線

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

下津井電鉄線(しもついでんてつせん)は、かつて岡山県茶屋町駅と下津井駅とを結んでいた下津井電鉄鉄道路線である。

モータリゼーションの進行による乗客の減少のため、1972年4月1日付で茶屋町と児島の間を廃止、1991年1月1日付で児島から下津井の間が廃止された。

目次

[編集] 路線データ

(茶屋町~児島間廃止前のデータ)

  • 路線距離(営業キロ) : 21.0km
  • 駅数 : 15駅(起終点駅含む)
  • 軌間 : 762mm
  • 複線区間 : なし(全線単線
  • 電化区間 : 全線(直流600V)
  • 閉塞方式 : タブレット閉塞式

[編集] 歴史

[編集] 初期の経緯

下津井は古くから風待港として栄えた港町である。下津井~丸亀間航路は航路が短いことから本州四国とを結ぶ「四国往来」と呼ばれる主要ルートの一部とされ、金比羅参りの人々などが古くから多く利用していた。

しかし、1910年に国鉄宇野線が全通し、これに接続する形で、宇野~高松間で宇高連絡船の運航が開始されると、下津井~丸亀間航路の利用者は激減した。そこで四国渡航客を取り戻すために、下津井から国鉄線までの鉄道路線が計画された。

下津井だけでなく、当時塩田王として知られた野崎家を筆頭とした児島の有力者らや、対岸にあたり、下津井~丸亀航路の盛衰が直接街の経済に影響を及ぼすことになる丸亀の有力者らの出資も受け、1910年に下津井軽便鉄道期成同盟会を結成、岡山県児島郡下津井より岡山県都窪郡茶屋町に至る軽便鉄道の旅客・貨物営業許可申請を行い、免許を取得した。

これにより、1911年に下津井軽便鉄道会社を設立し、全線の建設工事を着工した。

もっとも、終端に当たる琴海-鷲羽山付近に大規模な岩盤開削工事が含まれ、その完成までには時間を要したため、児島郡最大の都邑であり、しかも下津井軽便鉄道にとって大口の出資者にして路線用地提供者でもあった野崎家が本拠を構える児島までの早期開業が要請され、これに応じて茶屋町-味野町(後の児島)間14.5kmが1913年に先行開業し、翌1914年に味野町-下津井間6.5kmが開業して茶屋町-下津井間21.0kmが全通した。

しかし、山陽本線の支線である宇野線から、さらに茶屋町駅で乗り換えねばならないという立地条件の不便さのため、本来の目的であった四国連絡の利用者は少なく、当初は経営難が続いた。打開策として、山陽本線との直結を企図した倉敷への路線延長や、国鉄線との直通を可能とする1067mm軌間への改軌も検討されたが、部分開業の原因ともなった児島半島の縦断に起因する狭隘かつ急峻な線路条件と、これに伴う巨額の工事費を捻出できなかったことから、いずれの計画も断念している。

大正末期より沿線、特に児島周辺で繊維産業が発達し、客貨分離とフリークエントサービスの充実を目論んで気動車(ガソリンカー)を導入、輸送力を大幅に増強した。戦前に導入したガソリンカーはのべ14両に達し、戦前の短距離軽便鉄道としては異例の大量導入であった。

[編集] 電化による近代化

戦中および戦後の混乱期は気動車にガス発生炉を搭載して木炭ガス燃料で走行させ、さらに釜石製鉄所から中古のドイツ製蒸気機関車を購入してしのいだ。しかし、石油・石炭等の燃料供給事情は戦時中から戦後にかけて極端に悪化し、燃料費暴騰で運行経費が著しく増大した。

対策として一時は全線バス化も検討されたが、経営陣は電化しての鉄道存続を決定、困難な状況下で1949年に全線の電化工事を完了し、社名も下津井電鉄に変更した。

電化当初は既存の大型気動車6両を電車に改造し、それらに制御車化された他の気動車を組み合わせた総括制御運転を行ったほか、必要に応じて蒸気機関車時代以来の客貨車を電車牽引することで対応した。日本の762mm軌間の電化軽便鉄道で総括制御方式を導入したのはこの下津井電鉄が最初の例である。

そののち完全な新車の電車増備や、1955年に改軌した栗原電鉄からの中古電車導入、あるいは気動車改造電車の車体更新によって車両整備が順次進められた。

風光明媚な鷲羽山への観光客増加も手伝って、昭和30年代に全盛期を迎え、重要拠点ゆえに老朽化が目立った児島・下津井両駅の新築による建て替えなどの大がかりな設備投資も順次実施されている。特に児島駅は鉄筋コンクリート2階(一部3階)建ての堂々たるビルに建て替えられ、児島市の玄関口としての役割を倉敷市との合併まで担うこととなった。

[編集] 部分廃止から廃線に至るまで

昭和40年代から道路網が整備され、岡山・倉敷へは乗り換えの必要がない自社のバスを利用する客が多くなってきた。このため、1972年3月末限りで茶屋町~児島間14.5kmが廃止された。

この際、下津井周辺の道路状況が極端に悪く、バスへの代替が困難であったため、末端の児島~下津井間6.5kmは存続した。残された区間では、全線を1閉塞区間とするスタフ閉塞に変更、ワンマン運転、下津井駅以外の全駅を無人化という徹底的な合理化を行い、更に車両についても短縮前に在籍した電車21両中、手のかからない新造車を中心に6両のみ(※)を残して後は全て廃車し、鉄道部門は従業員10人のみで運営を行った。その結果、鉄道の赤字をバス事業などの他の事業で補填できる額まで減らすことができた。

(※)当初、7両が残されたが、これは新造制御車のクハ23をワンマン運転用の両運転台式電動車に改造するまでの間に合わせとして、両運転台式のモハ110が残されていたためであり、クハ23がモハ1001として改造完了後は、モハ110は長期休車からそのまま廃車となっている。

1983年には旅客誘致策として車両内外に乗客が自由に落書きできる電車「赤いクレパス号」が登場、「落書き電車」として有名になった。映画『悪霊島』の撮影で東下津井駅舎が使用されたこともあったが、利用客の長期低落傾向は1980年代を通じて続き、鉄道部門は赤字を出しながらようよう存続していた。

1988年の瀬戸大橋開通を機に、橋にほど近い下津井電鉄では観光鉄道への転身を図った。琴海駅の交換設備を復活させて増発に備えるとともに、奇抜なメルヘン調デザインの冷房付展望電車・2000系「メリーベル号」3両編成1本を新造した。駅舎の改造やイベント列車の運行などの増収策も図られた。

しかし目当ての観光客のほとんどは四国や瀬戸大橋に流れた。そもそも乗換駅となる児島駅の立地条件が不利な上、沿線で瀬戸大橋が眺望できる区間が鷲羽山周辺のごくわずかな区間に限られることから、下津井電鉄に目を向ける客はわずかでああった。さらにJRの瀬戸大橋線が児島~岡山間をわずか30分で結ぶようになると、自社のドル箱であった児島~岡山線のバス乗客が減り、しかも自社が開設した瀬戸大橋経由の都市間高速バスが主として大橋通行料金高額さゆえに失敗に終わったため、鉄道の赤字を補填することができなくなった。また、瀬戸大橋建設工事のために建設された資材搬入道路が一般開放されて下津井周辺の道路状況が改善され、バスへの代替が可能になったこともあって鉄道線はその歴史的使命を終え、1990年末限りで全線廃止された。

廃線跡は部分廃止時と残存区間の廃止時の2度に分けて倉敷市に譲渡され、その大半が自転車道に転用された。

[編集] 年表

[編集] 駅一覧

[編集] 1972年廃止区間

茶屋町駅 - 天城駅 - 藤戸駅 - 林駅 - 福田駅 - 稗田駅 - 柳田駅 - 児島小川駅 - 児島駅瀬戸大橋線児島駅とは別)

[編集] 1990年廃止区間

児島駅 - 備前赤崎駅 - 阿津駅 - 琴海駅 - 鷲羽山駅 - 東下津井駅 - 下津井駅

なお児島駅は、部分廃止直後と最終期との2度に渡り移転している。2006年現在残されている児島駅は、最終期の児島駅であり、部分廃止前・部分廃止直後の児島駅とは場所が異なっている。

[編集] 接続路線

  • 茶屋町駅(1972年廃止) : 宇野線

1972年の茶屋町~児島間廃止により、接続する鉄道路線がなくなった。

[編集] 車両

低規格な軽便鉄道ではあったが、首脳陣は常に本格派を志向し続けており、堅実な設計で目立たないながらも高級品を多用した車両が多いのが特徴である。

[編集] 蒸気機関車

1913年の開業に当たっては経営陣の判断で、対岸である四国の伊豫鉄道や別子銅山鉄道と同じく、ドイツ・ミュンヘンのクラウス社(Locomotivfabrik Krauss & Comp.:現在のクラウス・マッファイ社)製蒸気機関車が刺賀商会経由で3両輸入された。周辺の両備井笠西大寺・三蟠の軽便鉄道各社が、同じドイツでもオットー・ライメルス商会経由で廉価なコッペル社(オーレンシュタイン&コッペル-アルトゥル・コッペル社。Orensteim & Koppel-Arthur Koppel A.-G.)製蒸気機関車を導入していた中にあって、珍しい例である。

開業に当たって用意された蒸気機関車は10.2t B型ウェル・タンク機の1形1および13.2t C型ウェル・タンク機の11形11・12の計3両で、いずれもクラウス社ゼントリンク工場で1913年に製作されている。

これらはクラウス社から日本へ輸入された蒸気機関車としてはほぼ最終期の製品(最後は1914年3月完成の塩原軌道6)で、第一次世界大戦勃発前の余裕がある時期に製作されただけに非常に丁寧に作られており、長年の酷使にも良く耐えたと伝えられている。

その後第一次世界大戦後に増備車として13t C型ウェルタンク機の13が新製されたが、これは同じドイツでもアーノルト・ユング社(Arnold Jung Locomotivfabrik GmbH)の製品で、軸距や軸重の関係からか下津井の軌道条件に上手く適合せず、またやや粗製濫造気味であったために不評で常に予備車の地位に置かれ、主力はクラウス製の3両のままであった。

蒸気機関車としての最後の増備車となったのは15t C型ウェルタンク機の15型15で、これは日本製鉄釜石製鉄所が戦時中に20t級大型機を導入して余剰となった同社の164を譲受したものである。これは1910年にハノーマグ社(※)で製造された老朽車であるが、軸重が大きく牽引力があった為に戦中戦後の混乱期には重宝された。

(※)Hanomag:正式名称はハノーヴァ機械製作所((Hannoversche Maschinenbau A.-G.)で、日本ではハノーヴァあるいはハノーファーなどの名で呼ばれることが多い。

[編集] 気動車

気動車は1928年から、日本車輌製造製の単端式(片側一方のみに運転台を備え、起終点では蒸気機関車同様に転車台で方向転換する)の4輪小型気動車を導入したのが最初である。1929年までに製造されたカハ1~4が該当するが、最終増備車のカハ4は他の3両と車体断面や扉構造などに差異があった。

当時日本車輌が私鉄向けに供給していた、T型フォードの動力装置を利用したこの種の超小型気動車は、下津井鉄道の近隣路線である井笠鉄道(1927年)が試作車を最初に導入していたこともあり、同社もいち早く注目してこれを導入したものである。そして井笠で先鞭を付けていた車掌省略運転(ワンマン運転)でも追随し、1928年3月に気動車に限った車掌省略許可を得、5月から実施した。

ただし下津井鉄道には、稗田付近と琴海付近に1000分の25という急勾配区間があり、公称出力20馬力/1,500rpmに過ぎない非力なフォードT型エンジン車での運行にはたいへん苦労があった模様で、「非力で坂が上れず、乗客を降ろして後押しさせた」との証言が残されている。このため1931年以降、フォードT型エンジンはその特殊な変速機ともども公称出力40馬力/2,200rpmと遙かに強力なフォードAに載せ替えられている。なお、その後のボギー車導入で余剰となったカハ2が、井笠鉄道に1939年に売却されて同社のジ13となっている。

ほどなく小型の単端式では輸送力不足となり、1931年からは同じく日本車輌製の中型両運転台ボギー気動車3両を導入した。このシリーズからは手動式ブレーキに加えて空気圧によるSME非常弁付直通空気ブレーキが装備され、保安性が格段に向上した。また、急勾配区間対策としてクラス最強級のアメリカ製ガソリンエンジン(ウォーケシャ6MS(縦型6気筒 排気量315Cuin≒約5160cc 公称出力41.78kW≒約56馬力/1,000rpm 定格出力約45馬力)を搭載、また勾配区間での空転防止を目的として、動軸にかかる荷重を大きくするため、台車の心皿位置を動軸寄りにずらした「偏心台車」と呼ばれる特殊な構造の鋳鋼製台車を動力台車に導入していた。これは日本車輌が当時取り組んでいた気動車大型化の成果の一つである。1931年上期に先行導入された最初のボギー車カハ5は下降窓装備であったが、続いて年末に増備されたカハ6・7では二段上昇窓・鮮魚台付となり、台車間寸法を500mm拡大している。

この時点で大阪に工場のあった零細メーカーの加藤車輛製作所が新たに営業を図って日本車輌に競り勝ったらしく、同社は日車製の中型車をそのまま延長・大型化したような形態のボギー気動車を製作した。

加藤車輌は、まず従前のカハ6・7をほぼ同設計で1,000mmストレッチしたような構造のカハ8を1933年に製造した。このカハ8ではエンジンが出力70%アップと大幅に高出力化されたウォーケシャ6MK(縦型6気筒 排気量381Cuin≒約6240cc 公称出力73kW≒約97馬力 定格出力約78馬力)へ変更されており、以後の増備車もこれにならった。急峻な下津井の線形では、一般の中小私鉄では強力型と取り扱われていたウォーケシャ6MSでさえ出力不足であったことがうかがえよう。

続いて1934年からは、大型ボギー車カハ50形を加藤車輌で増備した。カハ8を一回り拡大したようなスタイルで、運転台側にのみ乗務員扉を設置した(車掌台側には通常の2段窓が設置された)このグループは、日本国内の762mm軌間軽便鉄道向け気動車としては最大級の10,800mm・定員78人という大型車体にカハ8と同じウォーケシャ6MKと偏心台車を備えていた。1934年から1937年までにカハ50~55の合計6両が増備されて下津井鉄道の主力車となった。

なお、この加藤車輌製作所は中国鉄道(現在のJR吉備・津山線の前身)向けにも日本車輌と気動車を毎年のように競作していた事が知られており、中国鉄道がウォーケシャ社製エンジン(ウォーケシャ6RB(縦型6気筒 排気量677Cuin≒約11100cc 定格出力85馬力))を最初のキハニ100から最後のキハニ210まで一貫して採用していたことは、下津井のエンジン選定にも少なからぬ影響を与えていたと推測される。

下津井が採用したウォーケシャ6MSおよび6MKは、その名の通りアメリカ合衆国ウィスコンシン州ウォーケシャに本拠を置いたウォーケシャ発動機会社(Waukesha Motor Co.現ドレッサー社ウォーケシャエンジンディビジョン(Waukesha Engine Division. Dresser,Inc.))の製品で、本来は農業トラクター用として開発されたものであり、それ故に自動車用のフォードA等とは比較にならない程の強トルク大出力機関であった。中でも6MKは当時の軽便鉄道向けとしては破格の強力機関であり、1067mm軌間の地方鉄道を含む他社では客貨車牽引を目的に本機を採用した例がみられたが、ここ下津井ではボギー式気動車の連結器に当初は俗に朝顔形として知られる簡易なピンリンク式連結器を、途中からは日本車輌が新たに開発した軽量の簡易連結器を採用しており、客貨車に採用していたバッファー付きピンリンク式連結器とは互換性がなかった。つまり、気動車によるトレーラーの牽引は当初から構想外であったということであり、線形の厳しさがここでもうかがい知れよう。

これらボギー車は俗に「鮮魚台」と呼ばれるバスケット状の荷台を車外両端に装備しているのが特徴で、下津井港からの鮮魚輸送や航路利用者の荷物搬送に有効活用された。最初のボギー車であるカハ5のみ当初は荷台なしだったが後に改造で追加装備し、単端式車4両も1932年に車体後部に鮮魚台を取り付けている。

[編集] 電化と気動車改造電車導入

戦中および戦後の混乱期は燃料不足から気動車を木炭ガスで走行させるため、気動車の鮮魚台に代燃炉を搭載して対処した。この際、燃料として必要となる木炭は、自社で工場を建設して確保している。

さらに前述の通り、戦時中の大型機関車大量導入で余剰が発生していた釜石製鉄所から中古蒸気機関車を購入してしのいだが、石炭を含む燃料供給事情の極端な悪化と、これに伴う価格の高騰の対策として一時は全線のバス化も検討される有様であった。だが、最終的に経営陣は起債の上で電化して鉄道を存続する事を決断し、1949年に全線の電化工事を完了、社名も下津井電鉄に変更した。

この電化工事に当たっては、対岸の丸亀に発着していた琴平参宮電鉄から同社が1948年に琴平線の複線区間を単線化した際に不要となった機材を譲受するなどの手段で、資材難の中にあっても可能な限り良質な機材の調達に努めたことが伝えられている。例えば、架線の支持に細いながらも木柱ではなく鉄塔を用い、架線そのものも軽便鉄道にしばしば見られた路面電車並みの直接吊架ではなく、国鉄線等と同様に吊架線で間接的に吊り下げたシンプルカテナリ構造を、当初より採用していた。

※本鉄道の電力供給は電化以来全線廃止まで、下津井駅に設置された変電施設によって賄われたが、ここには日本国内で地方鉄道用として現役で使用されていたものとしては確認されている限りでは最後の1台となる「回転式変流機」が廃線時まで現役で使用され続けた(ただし、2006年現在、熊本市交通局大江変電所にゼネラル・エレクトリック社製回転式変流機が1台現役にある他、動態保存として明治村に北陸鉄道より寄贈された1台が現存している)。

電化当初は従来の加藤製大型気動車6両(カハ50~55)を対象に電車化(電動車化)改造を図り、モハ50~55とした。改造内容は床下のエンジン・変速機・減速機を撤去し、吊り掛け式22kW/hモーター4基を台車枠を補強し端梁追加の上で装架、手動式単位スイッチ制御器(HL制御器)およびその補機一式を搭載してパンタグラフを屋根上に取り付けるというもので、ブレーキは新造以来の非常弁付直通空気ブレーキ(SME)のままとされたが、定格出力が合計で約120馬力(気動車時代の約1.5倍)、しかも4軸駆動となって牽引力が大幅に向上した。

これにより、電気機関車代用としての使途が発生したモハ50~55には、台枠に補強を施した上で、従来の簡易式連結器と上下に並べてバッファ付きピン・リンク式連結器が追加搭載され、非常に物々しい外観となった。

また、中型のカハ5~8はいずれも駆動系を撤去してマスコンを装備し、クハ5~8へ改造、当時まだ残存していた単端式のカハ1・3・4については同型のカハ1とカハ3を、ボンネット撤去の上で背中合わせに接合して車体を延伸し、台車も元の足回り2両分を巧妙に組み合わせてボギー式台車へ改造、クハ9として制御車の不足を補った。これに対して接合されるべき相方の存在しないカハ4はそのまま廃車解体されている。

運行に際しては、それらの改造電動車と改造制御車を組み合わせた総括制御運転、あるいは蒸気機関車時代以来の客貨車を電動車が牽引することで対応し、電気機関車は導入しなかった。

日本の762mm軌間の電化軽便鉄道で総括制御方式を導入したのはこの下津井電鉄が最初の例であり、機械式気動車の重連運転における複数運転士搭乗が解消されている。

当時、栗原鉄道や栃尾電鉄といった電化の実施に伴い電車を導入した鉄道の多くでは、路面電車並みの直接制御電車で付随車を牽引し、終点では機関車同様に入れ替え作業を伴うことが普通であった。これに対し、この時期に電化した地方私鉄では、下津井の他に淡路交通および和歌山電鉄(共に1067mm軌間 直流600V電化)が総括制御を導入しているが、淡路も和歌山も下津井同様に第二次世界大戦以前より自社発注あるいは他社からの譲受による中型以上の機械式気動車が多数在籍しており、これら3社はいずれも機械式気動車による連結運転の問題の多さを痛感していたと思われる。先に挙げた直接制御電車を導入した2社が東日本に所在し、気動車時代から短編成列車の高頻度運転による旅客サービス向上に対してさほど積極的でなかった(そればかりか、両社共に電化時に貨物用のみならず客車牽引を考慮した設計の電気機関車を導入している)ことを合わせて考えると、これらの瀬戸内沿岸各地方私鉄における電化および旅客サービスに対する取り組みの積極性は高く評価出来よう。

なお、この電化時の電車化改造においては、偏心台車はそのままで主電動機の装架工事が実施されており、後に台車枠の新造による振り替えが実施されるまでは、気動車改造電動車は6両とも、各軸の軸重不均等に起因する空転が発生しやすい傾向があった。

[編集] 新造電車導入

1951年より新製電車の投入が開始された。いずれも、小さいながらもその時々の大手私鉄のトレンドが反映されており、興味深い。

第1陣となったのは、ドッジ・ラインによる緊縮財政の余波で国鉄向けの仕事を失って地方私鉄へセールス活動を展開していた日立製作所笠戸工場の手になるモハ101-クハ21の2両で、同社独特のMMC自動加速制御器を備えた最新型の設計であった。もっとも、この自動加速制御器はメンテナンスに手がかかり、しかも在来のモハ50~55のHL制御器と互換性が無く相互間で制御車の使い回しも出来なかった為に大変不評で、限定的な運用に就けざるを得なかった。

第2陣となったのはモハ102、クハ22・23の3両で、1954年にモハ102とクハ22がナニワ工機で、クハ23が帝国車両で建造された。これらはいずれも当時のナニワ工機が得意とした上段Hゴム支持の側窓を持つ軽量設計のスマートなデザインの車体を備え、車体の全長が伸びて13m級(鮮魚台を含めたモハ50の全長とほぼ同一)となった。これらはモハ101-クハ21の反省からHL制御器に戻されており、特に制御車は在来車と混用されてラッシュ時の混雑改善に大きな威力を発揮した。

第3陣はモハ103-クハ24で、1961年にナニワ工機で建造された。車体寸法や窓配置の基本は第2陣に準じるが、乗務員扉が新設され、連結面は切妻化されて貫通路を設置し、初の2両固定編成車として登場した。デザイン面でも、当時のナニワ工機の主力製品の一つであったアルミサッシが全面的に導入され、前面デザインも湘南型をベースに前照灯を左右に振り分けて2灯装備する近代的な造形となり、紅白2色の塗り分けで鮮烈な印象を見る者に与えた。もっとも、機器は第2陣と共通で、電動車の台車が変更された程度にとどまっている。

[編集] 栗原鉄道からの車両譲受

1955年には、改軌した宮城県の栗原電鉄からモハ2401・2402(1950年日本鉄道自動車工業製)・2403(1951年日本鉄道自動車工業製)を譲受し、電装解除の上でサハ1~3として竣工した。

折角の電動車を付随車化したのは、これらが直接制御車であり、在来車と共通運用可能とするには電装品の大半を新製して交換せねばならなかったためであった。これらの就役により、蒸気機関車時代以来の客車はその大半が淘汰された。

[編集] 気動車改造電車の更新

モハ103登場後、陳腐化が進み、また明らかに見劣りするようになったことから、気動車改造電車の車体更新が自社下津井工場で開始された。

工事内容は制御車の車体延伸、各車の鮮魚台部分の客室化、偏心台車の均等化などで、モハ51・54・50→モハ104・105・110、クハ8・7→クハ25・26となった。

この内モハ110以外は形状はモハ102-クハ22に似せつつ貫通路を設置した固定編成車とされたが、モハ110に限っては電気機関車代用や早朝・深夜の単行運転を前提に両運転台のまま更新工事が実施され、乗務員扉が設置されている。

なお、貫通路の設置はこの他モハ101・102、クハ21・22、サハ2・3に対しても実施されており、当時の輸送単位の急激な増大ぶりがしのばれる。

[編集] 路線短縮に伴う電車改造

1972年の路線短縮後、モハ102・103・110、クハ22・23・24、サハ2の7両が残された。

実際に運用上必要な車両数は6両であったが、単行運転用としてクハ23を電装するのに時間がかかったことから、その間のショートリリーフ用として両運転台の更新車であるモハ110も残されたものであった。

クハ23については、窓配置を変更して客用扉を両端に寄せ、廃車となったモハ52から発生したとされる電装品を用いて電装するという大工事が実施され、あわせてワンマン化改造の上でモハ1001として1973年に竣工し、モハ110を長期休車→廃車へと追いやった。

モハ103-クハ24はしばらくそのままの姿で使用されたが、1973年12月~1974年1月にかけての定期検査の際にワンマン化改造が実施され、モハ1001同様に運転台寄り客用扉が移設され、更に乗務員扉も廃止されて変則的な窓配置となった。

[編集] 最後の新造電車

1988年の瀬戸大橋完成に合わせ、老朽化が深刻になっていたモハ102-サハ2-クハ22の代替用としてモハ103-クハ24以来実に27年ぶりの新車が用意された。

アルナ工機でモハ2001-サハ2201-クハ2101の3両が建造されたこの久々の新車は、「大正ロマン電車」をデザインコンセプトとするいわゆるレトロ調電車で、屋根がダブルルーフ(レイルロード・ルーフ)で前面にはカウキャッチャーと飾りのベルをぶら下げたダミーのデッキを設けていた。更に、運転台寄り半室が冷房付きでセミクロスシート配置の密閉型、残り半室とサハの全室がカラーパイプを並べた座席が車窓向きに配されたロングシートの開放型、という非常に特徴的なアコモデーションを備え、「メリーベル」という愛称が与えられていた。

もっとも、外観の奇抜さとは裏腹にその構成機器群は非常によく考えられており、制御器(東洋電機製HL制御器)と主電動機こそ下津井工場に長らくストックされていた予備品が流用されたが、主電動機は在庫品を絶縁強化して出力アップ、台車は住友金属FS538と呼称される片押し式ユニットブレーキにメンテナンスフリーの密封式円錐コロ軸受、そしてオイルダンパを組み込まれた防振台車を採用、路面電車向けに生産されていた当時最新鋭の東洋電機製Z型パンタグラフをモハとクハの前頭部寄りに搭載し、離線対策として両者間を母線結合、補助電源装置は静止型インバータを初採用、ブレーキも電気指令式電磁直通ブレーキ(HRD-1)とするなど、当時の最新技術を積極的に、しかもメンテナンスフリーに重点を置いて合理的な形で導入していた。

この「メリーベル」は中間のサハを抜き取ってモハ-クハの2連でも運用可能で、瀬戸大橋博覧会終了後はその状態でしばらく運行されており、その間サハ2201は下津井駅構内に留置されていた。

久々の新造車両であったが、路線の廃止により実運用期間わずか3年未満と非常に短期間の使用にとどまり、後年三岐鉄道北勢線に譲渡される話もあったが、立ち消えとなり実現しなかった。

[編集] 参考文献

  • 鉄道廃線跡を歩く(宮脇俊三編著、JTB、1995年、ISBN 4-533-02337-1
  • 私鉄廃線25年(寺田裕一著、JTB、2003年、ISBN 4-533-04958-3
  • 別冊歴史読本11 列島縦断 消えた軽便鉄道を歩く (軽便倶楽部編、新人物往来社、1999年、ISBN 4-404-02711-7
  • 別冊歴史読本32 現存線・廃止線 ローカル私鉄探訪 (寺田裕一著、新人物往来社、1999年、ISBN 4-404-02732-X

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