信号機
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信号機(しんごうき、signal、traffic signal、traffic light)とは、鉄道や道路における交通の安全の確保、若しくは交通の流れを円滑にするために、進行・停止などの信号を示す装置である。電気で動いているため、停電時には混雑や事故がある。
鉄道の信号機については鉄道信号を参照のこと。本稿では道路の信号機(交通信号機)について述べる。
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[編集] 概要
道路上において交通整理を行う色は世界共通で、緑(●)・黄(●)・赤(●)の3色となっており、緑は「進んでもよい」、黄色は「止まれるなら止まれ」、赤は「止まれ」である。 信号機には歩行者用と車用の2種類があり、車用は上記のように緑・黄・赤であり、歩行者用は緑と赤である。また、路面電車用として、黄色の矢印や赤の×印が表示される物もある。特に、赤と緑の2色のみの信号を「紅緑灯」という。
中身は電球(バンドミラー・ソフトホワイト)が主流だが、消費電力が70Wある上に定期的に電球を交換する必要がある(東京都内で年に1回)ため、2002年頃からは消費電力が15W程度に抑えられ寿命も7年程度と長い発光ダイオード(LED)式のものが普及しつつある。
以上は国際的な取り決めであるが、行政上の運用取り決めは各国で若干の相違がある(特に歩行者信号)。
[編集] 日本での取り決め
日本の道路交通法では、緑は「進んでも良い」という意味で(「進め」ではない)、黄色は緑から赤に切り替わる合間に一定時間表示するもので、「止まれ」ではあるが停止位置に近づきすぎていて安全に停止できない場合に限り進むことができるという意味であり、赤が「止まれ」である。日本ではこのほかに「周りの交通に注意」を示す黄色点滅信号や、「一時停止」を示す赤色点滅信号がある。
日本では、救急車、消防車、パトロールカーなどの緊急自動車が緊急時に出動した場合は素早く事態を解決しなければならない為、信号機がどの色でも進んで構わない。最近では緊急車輌や公共交通機関(路線バス等)の接近を感知して、自動的に進行方向の信号を一時的に青に変える公共車両優先システム(PTPS)と呼ばれる特殊な装置が装備された信号機も存在する(この場合、緊急車輌や公共交通機関の方にも無線発信機が必要)。
日本では緑色表示を「緑信号」ではなく「青信号」と呼ぶ表現が社会的に定着している。これは戦前、信号機が日本に初めて導入された際、マスメディアが「緑信号」を「青信号」と表現したことによるものであるが、背景としては一般的に赤・青・黄色が色の三原色としてよく理解されていることに加え、漢字は「緑」と「青」を厳密に区別しないため日本人は「緑色」のものを「青色」と表現することがよくあるという点が挙げられる。戦前は法令では「緑信号」としていたが、戦後の1947年に法令でも「青信号」に変更した。
なお、道路においては、信号機は、それに対面する交通に対してのみ有効である。すなわち、通常の通行方法により通行している場合に、進行方向の正面に表示されている信号機にのみ拘束される。(なお、信号機の灯器に接して、信号機が特定の交通に対してのみ表示されるものとする標示板が設置されている場合には、その信号機の表示は、その特定の交通に対してのみ表示され、その特定の交通以外の交通に対しては表示されないものとされる。(例)ランプ等の本道と側道の各信号、歩行者用信号に接する「自転車用」等の標示板
なお、信号機が消灯している場合には、信号機の効力は及ばないため、信号機が存在しないものとして通常の通行方法をとる必要がある。信号機のある見通しの悪い交差点(「見通しの悪い」とは、交差点の数10メートル手前においてその交差点の交差道路の左右数10メートルを完全に見通す事ができない交差点を言う)においては、優先道路の指定(中央線または車線境界線が交差点内に引かれている状態)が無い場合がほとんどであるため、交差点の交差する双方の車両は、交差点の直前および交差点内の必要な地点で徐行し、安全確認をしなければならない。また、横断歩道・自転車横断帯がある場合は、横断する歩行者・自転車が優先となる(これは、夜間など黄色点滅信号となっている場合も同様である)。
また、交差点で警察官が手信号で交通整理を行っていることがあるが、警察官の手信号と信号機の表示が食い違っている場合は、信号機ではなく、警察官の手信号に従うことになっている。
[編集] 設置箇所・方法
通常は交差点に設置されている。
学校の通学路や公共施設の前など、人の横断が多い場所では交差点でなくとも道路上に横断歩道を引き、信号機を設置している箇所がある。小さな村で村内に信号機を設置する必要な場所がないような地域では、子供に信号機の決まりを学ばせるため、あえて小学校の前などに設置することもある。
高速道路内で立地条件などにより立体交差ができないジャンクションやインターチェンジ、また危険防止のため長大トンネルの出入口などに設置されている箇所もある(美女木ジャンクション内、関越トンネル手前など)。このほか踏切のうち、交通量の特に多い場所では信号機が設置されている箇所もある。日本の道路交通法では車両は踏切の手前での一旦停止が義務付けられているが、踏切に信号機が設けられている場合、その信号機が青であれば一旦停止せずに踏切内を進むことができる。このため、交通量が多い踏切では、信号機を設けて踏切通過時の一旦停止をなくし、渋滞の緩和を図っている。ただし、交差点の場合と同様に、青信号であっても、渋滞などにより踏切内で停止して良いわけではなく、また踏切内で停止する事は非常に危険であるため、注意が必要である。
設置方法としては通常は交差点の各位置に分散して信号機が設置される。道幅の狭い場所では全方向向けの信号機を集約したものを1基だけ設置する例もあるが、数は少ない(写真参照)。
[編集] 種類と形状
[編集] 車両用信号機
車両用のものは横型と縦型がある。日本では横型が主流となっている。縦型のものは構造上、横型に比べて雪の付着が少ないため、積雪地で多く用いられているほか、狭い場所で見やすいので狭い路地などでも使用されていることがある。韓国・台湾でも横型が主流となっている。欧米・中国をはじめ、世界的には環境を問わず、縦型を使用するのが主流である。
灯火の配列は、横型の場合は日本など左側通行の国では左から緑・黄・赤の順に並べ、韓国・台湾など右側通行の国では逆に右から緑・黄・赤の順に並べる。縦型の場合は原則として下から緑・黄・赤の順で並ぶ。これは、「止まれ」の赤信号が目立つための配置である。特定方向のみの「進め」を指示する緑の矢印が表示されるものもある。なお、大阪周辺には「とまれ」という文字が表示される信号機もある。
特殊な例としては、信号機が本来表示すべき交通ではない他の交通が誤認を起こさないように、灯火上部のひさしが横に伸びているもの、灯火のカバーに偏光レンズを使用しているものもある。信号の誤認には、真正面以外の方向から見える場合と、同一の正面方向に短い間隔で、異なる表示をする信号機が複数あるため誤認する場合がある。いずれも、誤認は交通事故の原因となるので、一定の角度以外には信号機の灯火が見えないようにされている。
日本の車両用信号の枠(灯器)は、1960年代までは四角形であったが、1970年代以降は縁が丸い形状のものになっている。また1970年代以降のものは、「青信号」の呼び名に合致するよう、緑色部分がやや緑色がかった青色に変更されている。
また、信号機を支えるアーム部、及び信号機の上下に、交差点名(地名)表示板や時差式、押しボタン式、感応式の信号であることの表示板が設置されていることが多い。
[編集] 歩行者用信号機
歩行者用のものは縦型で、下が緑、上が赤の配置となっている物が多いが、横型のものも存在する(画像参照)。また、歩行者用のものは信号機の中にイラストが描かれており、緑は歩いている人、赤は立っている人のイラストとなっている。中身が電球のものは、周りに色がついておりイラストの部分だけが白抜きになっているが、LEDのものは逆にイラストの部分だけがイラストの形に光るようになっている。通称「青人間」「赤人間」。なお、赤の立っている人は、電球式は腕が胴体に付いているが、LEDのものは、腕が開いている。2004年に長野駅善光寺口前と松本駅東口ではイラスト部分が動く歩行者用信号機が試験的に設置されていたが、試験終了後は撤去されている。
また、信号を無視した無理な横断を防ぐ目的で、緑の残り時間や赤の待ち時間が表示される物も増えている。都道府県・交差点により、時間を5秒刻みの数字で表示するものと、横棒の表示数の減り具合で示すものがある。2006年8月には、時間表示と信号表示が一体化した新型の信号機が名古屋市に設置された。(台湾で使用されているものに似ている。)
歩行者用信号機の表示部分のカバーは、1975年頃までは合成樹脂製であったが、それ以降は経年劣化の起こりにくいガラス製に変更された。合成樹脂製のカバーは長い間使用しているうちに中の電球の発する熱により劣化し、イラストが見えにくくなる(画像を参照)。
歩行者用信号機は、昭和30年代までは車両用信号機と同じ灯器を用いて「歩行者専用」の標識を取り付けていたが、1965年頃から歩行者用信号機専用の灯器を製造・設置している。専用灯器の製造開始後も1975年頃までは歩行者専用標識を取り付けていたが、それ以後は標識を取り付けることは少なくなった。
[編集] 自転車用信号機
日本では自転車専用として製造されている信号灯器がないので、自転車専用信号機を設置する場合は、車両用または歩行者用の信号機に「自転車専用」の標識を取り付けて代用する。しかし、歩行者用信号機に「歩行者・自転車専用」の標識を取り付け、自転車用信号を兼ねさせている例が大半を占める。自転車用信号機が設置されるのは、概ね信号の近くに歩行者のみが通れる歩道橋ないしは地下道がある場合である。
なお、日本の法規では、歩行者用信号機に「歩行者・自転車専用」の標識がある場所や自転車用信号機がある場所を除き、自転車は車両用信号機に従うことになっている。
[編集] 路面電車用信号機
日本の法規では路面電車は鉄道の一種であるが、道路用信号による交通規制を受けることになっている。現在では道路交通量が増加し、路面電車が交差点で右左折を行う場合に通常の青信号に従って右左折したのでは道路上の直進車と衝突する危険性が高いため、青信号のときに右左折するのではなく、他の交通を赤信号でいったん止めたうえで路面電車が右左折を行う方式が採られている。そのため、路面電車の右左折のある交差点では路面電車用の信号機も併設されている。
[編集] 予告信号灯・補助信号灯
本来の信号機が設置されている箇所が見通しの悪い箇所などの場合、赤信号を認めて停車しようとしても間に合わないことがある。そのような場所では、その交差点の手前の見通しのよい場所に予備的に信号機が設置される場合がある。主にカーブ直後の交差点やトンネル出口の交差点などに設置される。本来の信号とまったく同じ動きをするもの、ワンテンポ早い動きをするもの、黄色点滅のものなどがある。
[編集] 一灯点滅式信号機
通常の信号機を設置するほどの交通量がなく道幅の狭い交差点に多く設置されている。灯火が一方向につき1個だけ付いており、常時黄色・赤色の点滅信号を表示する。
[編集] その他
道路が災害・工事等で通行可能な幅が狭くなっている場合、片側交互通行を行う為の簡易的な補助信号が設置される場合がある。なお、このような信号機は道路交通法上の都道府県・方面公安委員会が設置する信号機には該当しないため、無視しても交通違反では検挙できないが、事故発生時の責任は通常の信号機を無視した場合と同様に問われうる。
[編集] 海外の信号機
海外の信号機で多く見られるものは、縦型信号機。アメリカやイギリスにおいても、縦型が主流である。もちろん横型もある。カナダでは、横型の信号機に赤信号が両脇に2つある信号機などもある。さらにヨーロッパでは、信号の色が変わる際に赤と黄が同時に点灯する信号機もある。
アメリカでは信号機が黄色の塗料で塗られていて、長い棒でつるしてあるものが多い。
また、アメリカをはじめとする一部の国では、信号機が赤信号のときでも、規制された区間以外では右折(左側通行の国では左折)できる法規となっている。
[編集] 信号機の点灯パターン
車両用信号機の点灯パターンは通常、緑、黄、赤が順に一灯ずつ点灯し、このサイクルを繰り返す。交通量の少ない交差点では深夜は優先権の与えられた道路の通行に対して黄色の点滅(「左右からの進入車・横断歩行者等に注意」の意)、その道路に交差する道路の通行に対して赤色の点滅(「一旦停止、左右を確認せよ」の意)のパターンに変わる信号機もある。また、緑、黄、赤以外にも矢印での制御がある。その他、緑信号の代わりに赤の点滅信号を採用している信号機もある(赤→赤点滅→黄色→赤)。日本国外ではヨーロッパなど赤から緑に変わる前に赤と黄の同時点灯がはさまり緑へ変わることを予告する点灯パターンを採用している国も多い。
歩行者用信号機の点灯パターンは、まず緑を表示し、次に一定の時間で緑色表示を点滅(おおむね10回)させた上で赤表示に切り替えるパターンである。深夜に車両用信号機が点滅に切り替わる場所では、点滅中は併設された歩行者用信号機は消灯する事が多い。つまり、黄色点滅側の車両に対し、横断歩道・自転車横断帯を横断する歩行者・自転車が優先となるため、注意が必要である。ただし、交通事故防止の観点から、黄色点滅側に対し横断側となる歩行者用信号機を赤信号とし、押しボタン信号的動作をさせるような信号機も一部に設置されている。
[編集] 制御システム
世界的に見て、イギリスのschootもしくはオーストラリアのscatシステムが広く使われており、特にドイツの家電メーカーであるシーメンスのschootシステム(schootシステム自体はイギリスで開発されたが、実際の製造はシーメンス社)のシェアがトップである。日本ではシーメンス社の保守体制が完全でないこと、及び日本の警察庁の特殊仕様(これは、日本人の国民性に依存するものである)のため、信号六社と呼ばれる国内メーカーで寡占されている。
研究開発としては、国際的に見て、ヨーロッパが最も進んでおり、続いてオーストラリア、日本の順である。これは、信号機制御という性格上、目標値が心理的、社会的なものであり、国民性が現れるためである。このためか、アメリカではopacと呼ばれるプロトシステム以外では出遅れている。アメリカは車社会であるが、都市構造的に、フリーウェイを利用し信号はインターチェンジと職場等の間のつなぎ的意味合いが強いためである。
本来信号機制御は、電力等で用いられる現代制御を用いた制御であるべきだが、計測の問題等があり、欧州のutopia、アメリカのopac以外では、テーブル制御を用いたやや時代遅れな制御を用いている。なお、utopia、opac共に、制御の計算に多大な時間を要するため、未だ試作段階の域を出ていない。
余談だが、日本国内では信号機制御システムが1年365日全ての日にどんな天気でも稼動している電化製品ということで、東陶機器がウォシュレットの制御機器に応用したという裏話がある。
[編集] 信号機の歴史
灯火方式による信号機の世界初は、1868年、ロンドン市内に設置された信号機である。これは光源にガスを使い、緑色と赤色を表示するものであった。1918年、ニューヨーク市内に世界初の電気式信号機が設置されている。
日本では、1930年に東京市(当時)の日比谷交差点に設置されたものが最初である。これは米国製であったが、同年には国産の信号機も製造開始されている。当初は大都市の都心部にしか設置されていなかったが、戦後はモータリゼーションが進んで道路交通量が増えてきたことから、地方中小都市でも設置が進んでいった。1970年代以降は都市部では幹線道路以外の道路にも設置されるようになり、1990年代以降の現在では、離島部や山間部を除く大半の地域に信号機が設置されている。
[編集] 日本の信号機のメーカー(一部電光掲示板など)
<>内は、そのメーカーの製造している現行信号機の特徴。
- 松下電器産業(旧 松下通信工業)<京三製作所からOEMを受けて製造している。1990年頃までは樹脂製のみの製造だった。>
- 住友電気工業
- オムロン(旧 立石電機)
- 日本信号<車両用U形灯器の普及が他メーカーに比べ、遅かった。>
- 小糸工業<車両用は、庇が他メーカーに比べ、深い。歩行者用は、横から見た庇の形が三角形に見える。LED式車両用は、青灯のLEDだけ、LED素子数が多い。>
- 小糸製作所(昭和43年頃まで。その後は小糸工業に移行)
- 京三製作所<松下電器産業にOEM供給をしている。>
- 大同信号株式会社<旧京三製作所から分離独立。現在、ATC地上装置など鉄道信号システム機器の設計・開発・製造を行っている。>
- 交通システム電機(旧 陸運電機)
- 三菱電機
- 信号電材<電球式は、『多眼レンズ』という、独自のレンズを用いている。>
- 三工社
- 星和電機<最近、信号業界に参入してきた会社。今のところLED式のみの製造。>
- 東芝
- 名古屋電機工業
- 三協高分子<各メーカーに樹脂灯器を供給している。>
- 信号器材
- 岩崎電気
[編集] 信号機の機能
[編集] 標準機能により実現可能なもの
[編集] 付加機能により実現可能なもの
[編集] 交通情報の収集
以前は、主に現場警察官からの報告によるものであったが、現在では車両感知器により自動化されている。
車輌感知器には、大きく分けて「存在形」と「通過形」の2種類がある。また、近年では技術進歩に伴い画像処理により車両を感知するものもありこれを「画像形」という。
車輌感知器により収集された感知情報は、信号制御機または、感知信号送信機を経て交通管制センターへ送信される。
[編集] 存在形
感知領域内に車両が停止していてもその存在を感知できるものをいう。以下に主なものをあげる。
- 超音波式
- ループ式
- 光学式
[編集] 通過形
感知領域内であっても車両が停止している場合は感知できない。殆どの場合は、ドップラー効果を利用して接近車両を感知する。感知精度が高い。
- 超音波ドップラー式
- マイクロ波式(R形)
[編集] 画像形
カメラ等により撮影された映像を画像処理し、複数車線にある車輌を感知するもの。
[編集] 交通情報の提供
収集された感知情報を、交通管制センターで処理したものを路上機器により、ドライバーへ提供するものである。
以下に主なものをあげる。
- フリーパタン式
- セミフリーパタン式
- マルチパタン式
- 路側通信
- 旅行時間提供装置
- 光ビーコン