天下り
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天下り(あまくだり)とは、もとは神道の用語で、神が天界から地上に下ることをいい(天孫降臨など)、「天降る」といった。
転じて、退職した高級官僚が、関連する民間企業や特殊法人・公社・公団・団体などの高い職に就く(迎えられる)事を指して使われる。民間企業の上位幹部が子会社の要職に就く際にも使われる場合がある。
官僚の天下りの範囲については、中央省庁の斡旋・仲介がある場合のみを含めるとする意見と、斡旋・仲介などの手法に関係なく、特定企業・団体に一定の地位で迎えられる場合全てを含むとする意見がある。官民癒着を問題視する視点からは、後者の立場を採り、中央省庁の人事担当部局による斡旋がない場合でも再就職を制限又は禁止する意見が多い。
目次 |
[編集] 天下りの問題点
天下りは、多くの点で問題を指摘されている。
- 人材の仲介・斡旋について、中央省庁の権限が暗黙に使用されている。その結果、必ずしも有能でない人物が要職につくことがある
- 公社・公団の退職・再就職を繰り返す人物に対して無駄に退職金が支払われている
- 官民の癒着、利権の温床化
民間企業に再就職した元官僚から見ると、旧所属官庁の官僚は後輩にあたるので、情報を貰ったり、権限に便宜を図ってもらったりしやすい。これが不適切な癒着の原因になりやすい。
最大の問題は、各官庁が天下り先の確保を第一目的にしてしまっている点である。天下り先を確保するために、民間企業と不適切に癒着してしまうと、公正な行政ができなくなり、結果として国民を軽視して不公正な行政になる可能性が高い。また、不必要な事業に財政支出してしまい、国や地方自治体の財政を圧迫してしまうという問題も発生する。
[編集] 天下りの原因
天下りが起こる原因として指摘されているのが、官僚の早期勧奨退職制度である。 官僚は、程度の差こそあれ、同期入省者はほぼ横並びに昇進していく。その過程でポストにあぶれたものが退職していく仕組みが早期勧奨退職制度(※)と呼ばれる。事務方のトップである事務次官は1名であるから、同期から事務次官が出た場合、その他の同期入省者は全て退職することになる。この仕組みの元では、60歳の定年を待たずに退職するものが多いため、その後の職業を用意するために必要とされる。
※早期勧奨退職は法律で決められたものではなく法定の制度ではない。官僚制の歴史の中で形成された慣習である。
民間企業側に人材を迎え入れるニーズがあることも指摘されている。[1]
[編集] 天下りの実態と対応
中央省庁の斡旋や仲介で民間企業に再就職した国家公務員が2003年までの5年間で3,027人にのぼったことが、2004年8月31日の閣議決定で分かった。省庁別では、国土交通省の911人をトップに法務省629人、総務省313人、文部科学省261人、財務省251人、農林水産省245人、警察庁127人、防衛庁85人、会計検査院64人、経済産業省46人、人事院29人、公正取引委員会23人、厚生労働省19人、宮内庁17人、内閣府3人、外務省2人、内閣官房・金融庁は今回の集計ではなし、である。
2004年12月27日、政府は、2003年8月から一年間に退職した中央省庁の課長・企画官以上の国家公務員1268人のうち552人が独立法人・特殊法人・認可法人・公益法人へ再就職したと発表した。天下りの温床と批判されることの多いこれらの団体への再就職比率は43.5%にのぼっていることになる。
天下り構造の解消は国の財政再建や公正な行政への要になると国民からの期待も高い。天下りを根絶するのに最も単純な方法は、公務員の再就職を一律に禁止することであるが、再就職の禁止は、個人の就業の自由を不当に制限するもので問題があるという点と、「官庁を退職した優秀な人材を雇用したい」「雇用により、官庁に対する必要な情報を得たり、コネを作ったりしたい」などのニーズがあることから実施は困難である。そのため、特殊法人改革や再就職禁止規定の厳格化など各種政策が検討・実施されているが、名目を変えながら実質的に天下りは官庁の利益として存続しているとも指摘されている。
- 再就職の制限
- 国家公務員法では、退職者が、退職以前5年間の地位に関係する民間会社へ再就職することを退職後2年間禁止している。この再就職制限は公務員として知りえた機密情報漏洩を防止するための規定である。そのため、人事院により退職者の再就職が機密漏洩につながらないと判断された場合は、退職後2年経過していなくても、再就職をすることが可能である。また承認が得られなくても、退職後2年経過したら当時知りえた情報に価値がなくなるとみなされるため、民間企業への再就職が可能となる。この規定は、そもそも機密情報漏洩を防止であるため、天下り構造の問題点の解決策になっていないという指摘も多い。
人事院は、毎年「営利企業への就職の承認に関する年次報告」(「天下り白書」)を公表している。この報告は、中央省庁の斡旋・仲介のあったもののみで、中央省庁の斡旋・仲介のないものは含んでいない。そのため、報告書に表れない再就職の中に多くの天下りが含まれている可能性が指摘され、だとすると、天下りの有無をチェックするには当報告書では十分でないと言える。
[編集] 道路公団関係
高速道路整備計画で、1998~2002年度の5年間に契約された10億円以上の工事361件のうち、予定価格に対する実際の契約金額の割合を落札率とすると、落札率99%は25件、98%は227件、97%は75件、94%以下は4件で、ほとんど95%以上である。この異常に高率な落札率の背景には、落札企業に公団幹部の天下りがあると言われている。工事を受注する企業には、発注する側の公団から天下りした者が多い。受注企業のおよそ200社に約300人が天下りしていると推定されている。
建設企業が国土交通省や道路公団のOPを受け入れて工事を受注し、金儲けをする。工事の予定や予算を知るために政治献金する。献金を受け取った政治家が、国交省や道路公団に圧力をかける。役所・公団から企業へ、企業から政治家へ、政治家から役所・公団へという関係は「政」「官」「財」のトライアングルと呼ばれる。トライアングルを循環する時、金がついて回るので汚職・談合・贈収賄の温床となりやすい。
道路関係四公団を民営化するための「高速道路株式会社法案」などの概要が決まり、六つの新会社にするが、国の出資率が三分の一以上となる。天下り先が増えるだけという指摘も多い。
[編集] 郵政関係
郵政関係の天下りは調達関係を通じて行われる場合などが多かった。しかしながら、郵政事業庁の廃止に伴い、日本郵政公社となり、企業会計及び連結会計の導入が行われたことから、調達コストの削減、連結対象会社の効率化、職員福祉団体の統合(郵政弘済会、郵政互助会が合併し郵政福祉を設立)などが進み、現在では天下り先は急激に減少しているとされる。
[編集] 民間企業
民間企業に対しては普通、天下りという言葉を使用しないが、次のような雇用調整を揶揄して「天下り」と呼ぶ場合がある。
親子関係にあるグループ企業において、親会社の従業員が子会社に出向し、子会社は管理職として迎える。かつては、対象者に子会社で管理職の経験を積ませて、将来親会社に呼び戻すことが行われてきたが、最近ではリストラの一環として行われる場合が多くなっている。この場合、管理職としての資質を持たない人が子会社の要職に配置されることが多くなる。子会社としてはいい迷惑であるが、会社の資本関係から親会社の意向に従わざるを得ず、事業への影響を避けるため「部下を持たない管理職」として受け入れざるを得ないなど、業務効率の悪化や無駄な人件費の増大など経営への影響が懸念されている。
余談だが、このようなリストラは俗に「片道切符」と呼ばれる。企業によっては、定年退職するときに親会社に籍を戻し、親会社の従業員としての退職を認める所もある。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ↑ 人脈作りや情報収集といった目的が指摘される。また、官僚は本業の好不調で研修予算が減らされたりすることが民間に比べて少ない。また、若いうちから大きな権限をもって活動することが多いので、技術や見識を持っているとみなされることがある。