将棋の駒
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将棋の駒(しょうぎのこま)は、平安時代から五角形の板に墨で字を書くという形式を保ち、ほとんど変化していない。現在一般に行われている将棋は本将棋だけなので、本稿では本将棋の駒について解説するが、書かれる字が違うだけで他の将棋の駒も基本的に変わりがない。
山形県天童市が全国の9割以上を生産する。天童の将棋駒は1996年、伝統工芸品に指定された。
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[編集] 材質・木地
高級品はツゲ(本黄楊)で作られる。なかでも、東京都の御蔵島に生息している御蔵島黄楊と、鹿児島県の薩摩黄楊が最高級品とされる。
本黄楊の代用として、東南アジア原産のシャム黄楊(「黄楊」とついているがアカネ科で、ツゲ科の本黄楊とは異なる木材である)が普及品として用いられている。また、天童市を含む東北地方に生息しているホオノキやカエデなどを用いることもある。
また、とくに本黄楊の木地には、「斑」(ふ)あるいは「杢」(もく)と呼ばれる、木地の色が一部違う部分が入っているものがあり、その入り方によって虎斑(虎の斑点のような模様)・根杢・くじゃく杢(孔雀が羽を広げたような模様)などと呼ばれる。斑や杢の入っているものは、工芸的価値も高く、より高級品となる。また、柾目にも種類があって、「赤柾」(柾目が赤いもの)「糸柾」(糸のような柾目のもの)などがある。
プラスチック製の駒も安価な普及品として利用されている。磁石を埋め込んで鉄製の将棋盤の上で使うものもあり、動揺があっても駒がずれない。
[編集] 書体
普及品は並・中・上と呼ばれる簡素で無骨な書体であるが、中級品から高級品になると、書体ごとに銘がつけられている。これらの駒は「銘駒」と呼ばれる。
代表的な銘として、錦旗(きんき)・水無瀬(みなせ)・菱湖(りょうこ)・清安(きよやす)などがあげられる。
[編集] 彫り方
プラスチックの駒やスタンプ駒(木地に書体をスタンプしたもの)などの普及品は工業的に生産されるが、一般的な彫り駒は駒師とよばれる専門職人の手作業によって工芸的に制作されている。
彫り駒の一般的な製法として、原料となる木を駒の大きさに切って整えたあと、書体に合わせて木地を彫っていく。その表面に漆を塗り、サンドペーパーで研ぎ出して駒となる。
彫り方と漆の書き込み方によって、書き駒・彫り駒・彫り埋め駒・盛り上げ駒に分けられる。
- 書き駒……木地の表面に直接漆を書き込んだもの。現在ではほとんど生産されていない。
- 彫り駒……木地を彫った部分に漆を塗ったもの。普及品から中級品として用いられる。
- 彫り埋め駒……木地を彫った部分に、漆を木地の高さまで埋め込んだもの。高級品である。
- 盛り上げ駒……漆を木地の高さよりさらに盛り上げて作ったもの。最高級品で、タイトル戦にも用いられる。
書き駒 | 彫り駒 | 彫り埋め駒 | 盛り上げ駒 |
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[編集] 作者
中級品以上になると、手作りのものがほとんどで、よって作者が存在する。作者によっても値段の違いがある。 作者は、王将(または玉将)の駒の底に名前を彫る。(またもう一方には書体を彫りいれる)
作り方としては、分担して作るのがほとんどである。それによって、彫り師、盛り上げ師などと言われる。
以下に、職人の雅号を載せる(一部)
王将は、上位者が持つものとされるが、たまに、双玉(どちらも玉将のこと)の駒も存在する。このときは上位者が書体が入った方をもち、下位者が作者の銘が入ったほうを持つ。
[編集] 並べ方の作法
- 上座に座る人が駒箱から駒袋、駒袋から将棋駒を盤上に出す(このときは、一つ一つ取るのではなく逆さにして出すが、あまり散らばらないようにする)。
- 上座の人が駒袋を駒箱に、駒箱を盤の下に(足付きの場合)入れる。
- 上座の人が王将を所定の位置に置く。下座の人がこれに対して玉将を置く。
- ここからは、大橋流と、伊藤流に分かれる。(「大橋」「伊藤」は江戸時代の将棋の家元)
- いずれにしても、上座の人、下座の人交互に並べていく。
- 大橋流:玉将以下、左金、右金、左銀、右銀、左桂、右桂、左香、右香、角、飛車、5筋の歩、6筋の歩、4筋の歩、7筋の歩、3筋の歩、8筋の歩、2筋の歩、9筋の歩、1筋の歩(先手の場合)となる。
- 伊藤流:伊藤流は、右桂を並べるまでは大橋流と同じだが、以下、左から順に歩を並べて、左香、右香、角、飛車となる。並べている途中で、走り駒である香車・角行・飛車が敵陣に直射しないように配慮した並べ方といわれている。
- 下図の番号順に駒を並べる。
- 終局後
- 終局後は、上座の人が、玉、金、銀、桂、香、角、飛、歩の順に、ちゃんと枚数があるか確認しながら駒袋にしまう。
しかし、上記はあくまで作法であって、守らない場合もある。また、大橋流、伊藤流は代表的な並べ方であるが、双方とも玉将を並べ終わったあとは並べ方は自由である。(この二つの並べ方は『伝統的な』でもある)