引き伸ばし機
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引き伸ばし機とは、写真フィルムの像を拡大し投影する機械である。 ただし、ポジフィルムの場合はプロジェクターと呼ばれ、引き伸ばし機といった場合はネガフィルムが前提となる。 さらに、引き伸ばし機によって拡大された像を印画紙に焼き付ける事が一般的である。
引き伸ばし機がいつ頃発明されたのかは判然としないが、普及の一翼を担ったのはライツ社のライカシステムであろう。 それまでのカメラが比較的大きなフィルムないし乾板を使ってい印画紙に密着させポジ像を得ていたのだが、ライカカメラは35mmサイズのフィルムを使うため、このままでは鑑賞が難しい大きさなので、どうしても拡大するシステムが必要だったのだ。(→フォコマート)
初期の引き伸ばし機は太陽光を使うものもあったが、現在では引き伸ばし専用の電球を使うものが主流である。ただし、プラチナプリントなど露光に紫外線を使う場合、紫外線蛍光灯を使う場合もある。
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[編集] フィルムフォーマットの違い
使うフィルムのフォーマットにより35mmフィルム(135)専用、35mm~6×9フィルム、4×5フィルム以下の大きく3つに分けられる。
35mmフィルム専用の機種は各社のラインナップで入門用として位置づけられていることが多い。また、4×5フィルム以下のものは35mmフィルムなどのプリントが可能であるが、光学的にロスが多く、引き伸ばし機自体が巨大であり、35mmフィルムなどのプリントに使うには取り回しがしづらいため、プロや写真学校、レンタル暗室などでは事実上4×5フィルム専用としていることが多い。
またこれらの引き伸ばし機以外にも、8×10以上のフィルムの引き伸ばしが可能なものや、ミノックス判専用の引き伸ばし機なども存在する。
[編集] ネガキャリア
引き伸ばし機にはネガキャリアと呼ばれるフィルムをセットするためのホルダーが付属もしくは別売されている。 各種フォーマット専用のものからユニバーサルネガキャリアという様々なフォーマットに対応できるものまで様々である。 ユニバーサルネガキャリアはフィルムの四辺を囲む羽根がついておりこれをスライドさせることにより開口部の面積を可変させることが できるものである。
またガラスなし、片面ガラス付、両面ガラス付などのタイプに分かれる。
- ガラスなしタイプは値段が手頃な上取り扱いが容易であるが、面積の大きいフィルムを使う場合、ネガの平面性が問題になることがある。
- 両面ガラス付タイプはネガの平面性を保つことができるが、ガラス面にホコリが付着したりニュートンリングを生じることがある。また値段が高い。
- 片面ガラス付はガラスなしタイプ、両面ガラス付タイプの双方の利点を得ようとするものである。
[編集] 引き伸ばしレンズ
引き伸ばしレンズは通常マウントにライカマウントというものを使っており、カメラに使うレンズが互換性が低いのとは異なり、様々なレンズメーカーの レンズを使うことが可能である。 使用する引き伸ばしレンズの焦点距離は、それぞれのフォーマットに応じたものを使うことが一般的である。撮影時に標準レンズと呼ばれる焦点距離のものが基本となり
- 35mm:40mm~63mm
- 6×4.5:75mm~80mm
- 6×6:75mm~80mm
- 6×7:80mm~90mm
- 6×9:90mm~105mm
- 4×5:130mm~150mm
が目安となる。これらより長い焦点距離のレンズを使うことも可能であるが、プリントできるサイズが小さくなる。また引き伸ばし機のヘッドの位置が 高くなるため、ピント合わせがしづらくなるというデメリットもある。 逆にこれらより短い焦点距離のレンズを使うことは縮小プリントなどの場合を除き一般的ではない。
[編集] 照明方式の違い
照明方式の違いから集散光式、散光式、反射集散光式などに分かれる。
- 集散光式は光量が大きく、適度なコントラストを持ったプリントを作ることができるというメリットがあるが、ネガのホコリや傷が目立つというデメリットがある。機種にもよるが散光式より0.5号程度硬調になる。
- 散光式ではネガのホコリや傷が目立ちにくいプリントを作ることができるというメリットがあるという反面、光量の大きな引き伸ばし機を作ることが難しい、コントラストの低いプリントになりやすいなどのデメリットがある。
モノクロ引き伸ばし機では集散光式、カラー引き伸ばし機では散光式を採用していることが多い。機種によっては、ヘッドの部分を変えることにより 集散光式、散光式のどちらでも使うことができるようになっていることもある。
[編集] カラー引き伸ばし機
カラー引き伸ばし機は、ダイヤルを回すことによってCP(色調整)フィルター(イエロー・マゼンダ・シアン)の値を簡単に変えることができるようになっている。 モノクロ引き伸ばし機であっても、フィルターポケットと呼ばれるフィルターをセットする場所が存在する機種であればカラー引き伸ばし機として使うことも 可能である。ただし、作業は若干煩雑になる。 フィルターポケットが存在しないモノクロ引き伸ばし機の場合でも撮影用のCC(Color Compensating)フィルターを 引き伸ばしレンズの前に置くなどの工夫によって作業をすることは不可能ではない。
また、モノクロ多階調印画紙ではカラー引き伸ばし機の色調整機能を使うことによって、階調のコントロールが可能である。
[編集] 大伸ばし
多くの引き伸ばし機では大きく引き伸ばしたい場合、ヘッドの部分を支柱を中心に180度回転させて床面投影、もしくは90度回転させて壁面投影させることができる。こうすることで全紙やロール紙などのサイズの印画紙への引き伸ばしが可能となる。この場合イーゼルマスクを使用することができないため、テープなどで壁面もしくは床面に直接印画紙を固定して使用する。
[編集] その他オプション機材
引き伸ばし機とセットで使うことができるオプション機材としては以下のようなものがある。
- タイマー
印画紙に露光する時間を調整するものである。通常×10秒、×1秒、×0.1秒の3つのダイヤルがついており、表示形式はアナログ式の物と デジタル式の物がある。引き伸ばし機によってはタイマーを内蔵している機種もある。
- フットスイッチ
上記のタイマーに接続し、露光を足で踏むことによりスタートさせることができる。セーフライトの点灯・消灯も同時に制御できるものもある。
[編集] デジタル化の影響
最近では、デジタルカメラの普及でフィルム式カメラの需要が少なくなった事、 自動的に焼き増しをするミニラボ装置が普及したため、引き伸ばし機単体の需要は少なくなりつつある。