SH-60K (航空機)
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概要 | |
分類 | 哨戒ヘリコプター |
乗員 | 3・4名、最大12名 |
製造者 | 三菱重工業 |
寸法 | |
全長 | 19.8m(ローター回転時) |
全幅 | 3.3m(ローター折りたたみ時) 16.4m(ローター回転時) |
全高 | 5.4m |
メインローター直径 | 16.4m |
テールローター直径 | 3.4m |
重量 | |
全備重量 | 10,650kg |
最大設計重量 | 24000ポンド(約10.9t) |
機関 | |
エンジン | GE/IHI T700-IHI-401C2 ×2 |
出力 | 2,055SHP×2 |
性能 | |
最大速度 | 139ノット |
航続距離 | ? |
実用上昇限度 | ? |
武装 | 固定なし 7.62mm機銃 Mk46/97式魚雷 AGM-114M 対潜爆弾 |
初飛行 | 2001年3月27日 |
SH-60Kは、シコルスキー社の哨戒ヘリコプターであるSH-60Jをベースにして、三菱重工業と防衛庁で独自に改造開発を行い、哨戒能力を大幅に向上させた哨戒ヘリコプターである。2005年(平成17)から日本の海上自衛隊に配備されている。
目次 |
[編集] 概要
[編集] 開発までの経緯
SH-60 シーホークは元々対潜哨戒専用に作られたヘリコプターであり、1991年(平成3)から配備したSH-60Jでは捜索用電子機器を大量に搭載したため機内スペースが狭く、ヘリコプターが本来持つ汎用性に欠ける面があった。また武装はMk46短魚雷2本のみであり、7.62mm機関銃を搭載する場合は装備品の一部をを取り外さなければならなかった。通常の潜水艦捜索任務に加え、不審船など脅威対象の変化や、阪神・淡路大震災を教訓として大規模災害など突発的な事態への対処など、任務の多様化が求められ、SH-60Jの老朽による代替を機に、能力向上を図るべく、同機をベースとした日本独自の改造開発が行われた。なお、独自の改造開発の例としては、川崎のP-2J 対潜哨戒機が挙げられる。
[編集] 機体開発
SH-60J後継機に求められたのは、「対潜戦・対水上戦能力の向上」、「人員物資輸送・警戒監視など多用途性の向上」、「安全性の向上」であった。これらを実現する為、搭載機器類の追加・変更にとどまらず、機体形状の変更やローター、エンジンまで手が加えられた。SH-60Kはキャビンを拡大したほか、エンジン転載、新開発の高性能ローター、着艦誘導支援装置、戦術情報処理表示装置を装備している。対水上レーダーは分解能の高い逆合成開口レーダー(ISAR)に、ディッピングソーナーは探知距離の長い低周波ソナーに変更した。また、対潜魚雷以外にも対艦ミサイル(AGM-114M ヘルファイアII)や対潜爆雷の装備も可能となり、探知能力とともに攻撃能力も向上した。これらの新技術の導入により、SH-60Jとは全く別種の機体と呼べるものとなり、開発にも長い時間を必要とした。
すでに研究は、SH-60Jが配備された翌年の1992年(平成4)に始まっており、1997年(平成9)にSH-60J改として正式に開発・試作を開始した。防衛庁ではUS-1A改と同列の改造開発扱いであったが、三菱では新規開発なみの体制であった。2001年(平成13)に試作機がロールアウト、3月27日に初飛行した。2002年(平成14)に2機(8401・02)が防衛庁技術研究本部(TRDI)へ納入され、2004年(平成16)度まで技術・実用試験が行われた後、2005年(平成17)3月に防衛庁長官の部隊使用承認を受け、SH-60Kとして制式採用、同年8月10日に量産初号機(8403)と2号機(04)が海上自衛隊に納入された。
[編集] 機体
[編集] 形状の変更
機首は赤外線探知装置(FLIR)や各種アンテナ搭載の為に再設計されたが、空気抵抗を考慮して各部分を滑らかに配置、長くとがった形状となった。FLIR(AN/AAS47)は機首右側に設置され、AGM-114M ヘルファイアII空対艦ミサイル誘導用のレーザー・デジグネーター機能を有する。また、ヘルファイヤミサイルは元々対戦車用に開発されたものなので大型艦船の撃破はできないが不審船対処にはかなりの能力を発揮できるものであろうと期待されている。機首前方左右にはESMアンテナ、機体下部の円形アンテナの横にはMWS(AN/AAR)用のセンサーが設置された。また。機首の延長により、ピトー管も伸ばした。
キャビンは前方に33cm、上方に15cm拡大した。キャビンレイアウトは、対潜戦ではソナーやソノブイを搭載、人員輸送では9名分の座席、災害時には担架、警戒・監視では7.62mm機銃を配置するなど、様々な仕様があるが、これらは簡単に交換が可能であり、高い多様性を有している。胴体右舷キャビンドア開口部も拡大し、救難や輸送任務に対する適応性も向上した。それに伴い、右舷キャビンドアは従来の1枚式から分割2枚式に変更、ドアの上部には救助用のホイストを設置し、救難作業にも対応する。また、ドアスライドが長くなった為、右舷のウェポン・パイロンが後方に移設された。同時に、テール右舷のMAD(磁気探知装置)パイロンも後方へ移設された(このため、MAD投下ポイントに若干の変更が生じている)。胴体左舷のウェポンパイロンは外側へ大きく張り出し、M299ランチャーを介してAGM-114Mミサイル2基を搭載できるほか、従来のMk46魚雷に加えて国産の97式魚雷や対潜爆弾が搭載可能となった。左舷バブルウィンドウも大型化され、目視での警戒・監視がしやすくなった。
テールの両舷にはESMアンテナを装備、前方のアンテナと合わせて周囲360度の電子情報をくまなく収集できる。左舷後方にはチャフ/フレア・ディスペンサー(CMD)装着用のマウントを通常装備、さらに後方には多機能型フライトレコーダーが装備、基本的な飛行諸元だけでなく、機体の各部に追加されたセンサー情報や振動データも記録できる。
[編集] コックピット
飛行情報統合表示装置(IFDS)用15インチディスプレイ5基と、戦術情報処理表示装置(AHCDS)用の大型多目的ディスプレイ1基で構成された、完全なグラスコックピットである。飛行情報統合表示装置(IFDS)は、飛行情報が統合されたPFD(Primary Flight Display)、航法情報が統合されたND(Navigation Display)、エンジン関連情報が統合されたEICAS(Engine Indicating Crew Alerting System)などで構成され、通常はパイロットの正面にPFDとND画面、計器板の中央右にEICAS画面が表示されている。AHCDS用大型画面は計器板中央に置かれ、戦術情報やデジタル地図、レーダーや赤外線探査装置(FLIR)による探知映像、逆合成開口レーダー(ISAR)の解析画像が表示される。
[編集] エンジン
エンジンは、試作機の2機(8401・02)はSH-60Jと同じジェネラル・エレクトリック T700-IHI-401C であったが、量産型は石川島播磨重工業で改良された T700-IHI-401C2 に転載された。エンジン出力は2055軸馬力(SHP)となり、耐久性も向上した。
[編集] 武装
SH-60JはMk46魚雷しか携行できなかったが、SH-60Kでは加えて国産の97式魚雷、対潜爆弾、AGM-114M ヘルファイアII空対艦ミサイル、警戒監視用に7.62mm機銃を携行できる。SH-60Jが重量制限によって携行できなかった97式魚雷は、高速・深深度潜航を行う現代の潜水艦を攻撃することができる。また、対潜爆弾によって魚雷が機能を発揮できない浅い海域での攻撃を行うことができる他、海上警備行動での威嚇や警告として有効な手段となる。AGM-114M ヘルファイアIIは敵の警備艇やミサイル艇といった小型艦船への対水上戦において使用する。機銃はこれらとの接近戦で使用する。
[編集] 新技術
[編集] 高性能メインローターシステム
メインローターブレードが新開発の特殊な形状に変更された。翼端は内側から外側へ向かって、まず10度の上半角、次いで20度の下半角、50度の下半角が付けられている。これらの部分には40度の後退角と先細り(テーパー)が付けられ、翼端の翼弦はコードの約30パーセントとなっている。前縁や翼端を除いて複合材料で形成されており、スパー部分にケブラー繊維(AFRP)を使用したことによって、軽量かつ高強度のブレードが仕上がった。このシステムは、ローター直径を変更することなく、構造や形状の変更によって効率向上を図るもので、ホバリング可能重量を約10.9t(24,000lb)へと、SH-60Jの約9.9t(21,884lb)から1トンも引き上げることができた。翼端の特徴的な形状によって、翼端から発生する渦の干渉による抵抗が低減し、また高速飛行時の後退側ブレードの失速と、前進側ブレードの衝撃波の影響を軽減できた。
同時に、メインローターのハブ構造も改良が加えられ、8本ボルト固定式から2本のシェアボルト固定式となり、ブレード交換時の作業効率が格段に向上している。
[編集] AHCDS
戦術情報処理表示装置(AHCDS)は、SH-60JのHCDSが有する探知情報表示機能に加え、知識データベース(人工知能)技術を使用した戦術判断支援機能が追加されたもので、敵潜水艦の行動に対し、最も効果的な捜索計画を自動的に提供する。また、地図表示機能や、GPSと飛行制御基準装置を組み合わせた複合航法システムが組み込まれており、パイロットの負担が大幅に軽減される。さらに、編隊内での戦術情報の自動で行う僚機間情報交換機能が付与され、自機が潜水艦を探知してから僚機が捜索海域に到着するまでの時間が短縮され、より高速化した現代の潜水艦に対抗する能力が向上した。
[編集] ソナー
SH-60Kの高性能ディッピングソナーは、発振周波数を低周波とすることにより、吸音素材を使用して無反響化した現在の潜水艦に対抗、探知距離も延伸した。海上自衛隊のSH-60Jが使用しているHQS-103に対しHQS-104に変更されている。このシステムは機上搭載が前提となっているゆえ、小型化と低周波発振という相反する要求を満たす為、送受波機は折りたたみ式を採用した。
また、従来のヘリはソノブイの情報を中継するだけで、データーリンクによって搭載艦上で解析を行っていたため、搭載艦とヘリの位置によってはデーターリンクが断絶し、連続した目標探知を行えなくなることがあったが、新たにソノブイ機上解析能力が追加されており、データーリンクが途絶した際も、自機のみで継続して追尾が可能となり、攻撃精度の向上にも貢献できる。
[編集] 捜索装置
捜索装置には、従来のレーダー、ソノブイ、磁気探査装置(MAD)、電子戦支援装置(ESM)に加え、赤外線探知装置(FLIR)、逆合成開口レーダー(ISAR)が追加された。ISARは、目標に反射したレーダー波のドップラーシフトを解析し、目標の映像化を可能としたレーダーである。これらを組み合わせることにより、捜索・識別能力、監視能力が格段に向上した。取得した情報は従来からデーターリンクによって搭載艦や僚機に伝送されているが、新たに画像伝送機能を追加し、詳細な情報提供が可能である。
[編集] 防御システム
敵のミサイル攻撃からの生残性を高める為、ミサイル警報装置(MWS)とチャフ/フレア・ディスペンサー(CMD)を組み合わせた自機防御システムを装備した。MWSは機体の前後左右に設置された紫外線光学パッシブ式センサーによってミサイルを感知し、到来方向を検出、パイロットへ警告する。また、CMDと連動することにより、自動的にチャフやフレアを放出して機体を防衛する。CMDはテールの両舷に3基設置され、MWSと連動する自動・半自動モードのほか、手動による射出も行う。
[編集] SLAS
着艦誘導支援装置(SLAS)は、搭載艦に自動でアプローチできる、世界で初めて実用化されたシステムである。ディファレンシャルGPSの位置情報によって搭載艦から60ヤード付近まで自動案内、着艦までは赤外線とレーザーによって自動誘導される。この装備によって、夜間や悪天候時におけるパイロットの負担を大幅に軽減できる。
[編集] 運用
[編集] 配備と発展
平成17年度中に03・04号機が厚木航空基地の第51飛行隊に、05~09号機が館山航空基地の第121飛行隊に配備された。平成18年度(2006年)には5機が配備され、以後、毎年5機から7機程度が納入されて、平成21年度(2009年)から減数を開始するSH-60Jを置き換える計画である。近年重要性が高まる哨戒任務においては、GPS対応電子海図表示装置、AIS:自動船舶識別装置、AN/ASR-3ソノブイ自動位置表示装置、ビデオ画像転送装置、LLLTV(低光量テレビジョン)などの追加装備が求められている。
[編集] 任務
機器類の精度・性能向上によって、任務遂行能力は格別に良くなっている。武器搭載量が増加し、突発的な事態にも柔軟に対応することが可能である上、防御システムによって生残性も向上し、より実践的な機体となった。また、拡大したキャビンによって輸送や救難など様々な任務が行える。任務の多様化に対応して、SH-60Jではセンサーマンが1名配置であったのに対し、SH-60Kでは常時2名配置と増員された。また、SH-60Kのセンサーマンは、降下救助員(レスキュースイマー)の資格取得が義務付けられており、泳力上級者であることが必須条件である。
- 対潜戦
敵潜水艦をソナーやソノブイで検出した情報を機上で処理すると共に、搭載艦や僚機とのデーターリンクによって情報を共有する。SH-60Jよりも大量の情報を迅速に交換することができ、高性能化した現代の潜水艦に対抗する。時に応じて魚雷や対潜爆弾で攻撃するなど直接対処を行う。
- 対水上戦
敵艦船を探知・識別し、データーリンクによって搭載艦へ情報を伝達すると共に、味方艦船による艦対艦ミサイル(SSM)攻撃の支援を行う。これまでは情報収集や行動の監視のみが任務であったが、敵が小型艦船の場合は、時に応じてヘルファイアIIや魚雷、対潜爆弾で攻撃・警告するなど直接対処を行う。
- 警戒・監視
ISARやFLIRにより、不審船など対水上目標に対する識別能力や暗視能力が向上した。携帯対空ミサイルなど突発的な攻撃を受けた場合も、防御システムによって自動的に回避でき、時に応じてヘルファイアIIや機銃による攻撃、対潜爆弾による警告を行うなど直接対処する。
- 輸送・救難
ペイロードを拡大した為、物資や人員の輸送能力が格段に向上した。事故や災害あるいは有事の際には、画像伝送機能を使用し、リアルタイムで画像を提供することができる。
[編集] 後継機計画
SH-60Kの総生産数は約50機になる予定であるが、SH-60J(約100機)の半分と少なく、J型全てを置き換えるわけではない。SH-60J/Kの将来後継機としてイギリス海軍哨戒ヘリEH101、NATO軍次期哨戒ヘリNH-90、V/STOL機V-22 オスプレイ哨戒型、米海軍次世代ヘリS-92、国産ヘリMH2000が候補としてあがっている。さらに監視任務などをUAV無人航空機によって実施することも計画されている。無人航空機については、近未来的な印象も受けるが、海上自衛隊では昭和40年代にDASHと呼ばれる無人回転翼機を実用化していた。
[編集] 参考文献
- JWings No.087(2005年11月号) イカロス出版