ウォシュレット
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ウォシュレット(Washlet)とは、東陶機器(以下、TOTO)が発売する、温水洗浄便座の名称である。
1980年6月に発売以来、2005年6月には累計販売台数が2000万台を突破した。温水洗浄便座では高いシェアを誇り、INAX(同社の名称は「シャワートイレ」)や他社製の同種のものも含め、ウォシュレットと呼ばれるほど、名称も定着している。
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[編集] 概要
TOTOでは、1960年代に米国からの輸入によって温水洗浄便座(ウォッシュエアシート)の発売を行っていた。主に病院向けに医療用や福祉施設用に導入されていたものである。1969年にはこれを国産化したが、当時は販売価格も高く、なおかつ温水の温度が安定しないために火傷を負うユーザーもいた。
TOTOは独自に研究開発を進め、清潔好きな土壌がある日本での普及が見込めることなどから、1980年に2機種の設定によって発売を開始した。特に、肛門部分については、体格などの個人差なども考慮する必要があるため、社員などの協力を得て噴出位置を設計するという苦労があった。のちにビデ機能の追加では、着座時の局部の位置を確定するために、女性社員や家族などの協力を得たほか、ストリップ劇場などでダンサーの局部を確認するなどの研究もあった。
温水貯蔵式でおしり洗浄のほか、乾燥と暖房便座機能を持つ「Gシリーズ」(Gはゴージャスの意)と、水を瞬間式で温水にし、おしり洗浄と暖房便座機能に絞った「Sシリーズ」(Sはスタンダードの意)の2種類があり、以後現在まで基本モデルはこの2種類で、これにコンパクトシリーズが1992年以降追加されるようになった。また、便器の大きさによって、レギュラー(標準)サイズとエロンゲート(大型)が用意されている。
1982年には、当時話題のタレント・戸川純を起用したCMで、コピーライター仲畑貴志による「おしりだって洗ってほしい」のキャッチコピー、(第2弾コピーは「なにをかくそう、おしりもキレイ」)そしてその独特のCM中の歌によって一気に存在を広めることとなった。CMについては、おしりという言葉を使用したこともあり、批判もあったが、それを乗り越えるだけのインパクトがあったのである。
以後、すべてのラインナップで着座センサーを導入(それまでは着座していなくても温水が噴出した)。フタの自動開閉や便器洗浄、さらには消臭、脱臭、芳香の機能の搭載にも成功した。
ウォシュレット装備した一体型便器(商品名「ネオレスト」「NEW Zシリーズ」など)の登場、また住宅用に限らず公共施設やオフィス、ホテル用のラインナップも整備された。
抗菌・防汚にも配慮がなされ、ノズル部分については肛門から跳ね返ってきた温水が周囲に掛からないような角度(43度、ビデは53度)としたうえで、格納時やおしり洗浄前にノズルを温水で洗浄する衛生的な機能になっている。また、おしり洗浄とビデ洗浄では吐水する配管も変えた。他にも、省エネルギーにも配慮して節電機能を設けたほか、操作部も一部機種では壁付けの別体リモコンの採用で使いやすくするなどの改良が加えられている。また2005年10月には音楽のMP3再生機能が備わったウォシュレットが発売されるなど多機能化が進んでいる。このトイレの多機能化は世界的に見ても日本独特のものであり、海外ではこのような便座はまだ普及しているとはいえない。事実、歌手のマドンナが2005年に来日した時も彼女は「日本の暖かい便座が懐かしかった」とコメントしている。2006年10月現在、中国・香港・台湾・韓国・ベトナム・シンガポール・インド・ドバイなどの中東地域・アメリカ・カナダで販売されている。(同社HPより)
また、変わったところでは1996年に和式便器用の機種も発売されている。しかし、和式では使用しにくいことや、一般家庭が洋式への移行が進んだことから普及せずに終わった。一方で、旅行先などで使用できる携帯タイプは現在も発売されている。
1998年には累計販売台数1000万台を突破したが、この頃から多くの便器で装備するようになり、以後7年で倍の2000万台に達した。他社製品も含めれば、普及率は6割程度まで伸び、新規に建設されるオフィスビルでも標準的に取り付けられるようになっている。
[編集] 歴史
- 1964年 東洋陶器(現・東陶機器)が、米国から温水洗浄便座「ウォッシュエアシート」を輸入、販売を開始
- 1969年 「ウォッシュエアシート」を国産化
- 1980年6月 初代ウォシュレット(G、S)を発売
- 1982年 「おしりだって洗ってほしい」のキャッチコピーを使ったCMが話題に。11月にビデ機能追加(ウォシュレットGB)
- 1983年7月 ウォシュレットGII、SIIを発売 セルフクリーニング(ノズル洗浄)機能(GII)、水量調節(SII)
- 1985年4月 ウォシュレットGIII、SIIIを発売 カラーバリエーションの追加、乾燥機能の追加(SIII)
- 1987年11月 ウォシュレットQueen(ウォシュレット一体型便器)、ホテル向け商品を発売
- 1988年9月 ウォシュレットGXI・II、SXI・IIを発売 ビデ標準装備(Sシリーズ)、消臭機能、着座センサー、便座ソフト閉止、リモコンなどを追加(Gシリーズ)
- 1991年6月 ウォシュレットP(パブリック、オフィス向け)を発売
- 1992年2月 ウォシュレットGαI・II、SαI・IIを発売 オゾン脱臭(Gシリーズ)、ムーブ機能・着座センサーを追加(Sシリーズ)
- 1993年3月 コンパクトシリーズとして、ウォシュレットCαI・IIを発売
- 4月 タンクレス便器・ネオレストを発売、ウォシュレットも装備
- 1995年3月 ウォシュレットGNI・II、SI・II・IIIを発売 ワンタッチ脱着など清掃機能の充実
- 1996年 和式便器用ウォシュレットWを発売
- 1997年11月 ウォシュレットGA・Bを発売 やわらか洗浄を追加
- 1998年1月 ウォシュレットSA・B・Cを発売 便座の座面を拡大
- 5月 ウォシュレットSSを発売 袖部分がなくなる リモコンなしのウォシュレットGPも追加
- 7月 累計販売台数1000万台を突破
- 9月 ウォシュレットアプリコットC4を発売 室内暖房機能を装備
- 2001年11月 ウォシュレットSA・B・Cをモデルチェンジ、節電機能を装備
- 2002年7月 ウォシュレット一体型便器ネオレストEXを発売 便器部にフチなしトルネード洗浄を装備
- 2003年2月 ウォシュレット一体型便器ネオレストSDを発売
- 7月 ウォシュレットアプリコットN1・N2・N3・N4を発売 便ふた自動開閉、自動便器洗浄機能を搭載
- 2005年2月 NEWネオレストシリーズを発売 上位機種に音楽機能、芳香機能を搭載
- 4月 ウォシュレット一体型便器NEW Zシリーズを発売
- 6月 累計販売台数2000万台を突破
[編集] 現在の製造機種
[編集] シートタイプ
- ウォシュレットアプリコット
- グレード N1A・N2A・N3A・N4A・N5A(オート便器洗浄機能付き)
N1・N2・N3・N4・N5(オート便器洗浄機能なし)
- ウォシュレットS
- グレード S2・S1・SB・SC
- ウォシュレットG
- グレード GA・GB・GP
- ウォシュレットAR
- ミドルシルエット便器(2005年10月発売)専用
- ウォシュレット NEW P(パブリック・オフィス向け)
- 男性用と女性用がある。男性用はおしり洗浄と脱臭機能、女性用はこれにビデと擬音装置(商品名「音姫」)が追加される。
- ホテル用ウォシュレット
- ホテル全体の給湯設備から温水の供給を受ける。洗浄機能のみの場合は電装がノズル駆動部分のみとなるため、バッテリ駆動が可能。
- トラベルウォシュレット・プチウォシュレット
- 携帯用のウォシュレット。プチウォシュレットは女性用
- 量販店向け製品
- 量販店で販売し、取り付けはユーザーが自ら出来るよう、工具や接続用フレキホースを添付。賃貸住宅などでの設置にも対応する。なお、上記の一般商品は総合カタログに掲載されるが、これら量販店用は掲載されない。また、専用カタログも別個に用意されている。
- アプリコットKNシリーズ
- KSシリーズ
- Kシリーズ
[編集] ウォシュレット一体型便器
ウォシュレット一体型の便器。従来は機能部の老朽化による取り替え時には、便器も含めた取り替えが必要であったが、機能部のみの取り替えも可能になった。
- ネオレストSD
- ローシルエット(タンクレス)・ダイレクトバルブ洗浄による高級機種、最上位機種はリモコン部に音楽機能を搭載
- ネオレストSD-G
- ネオレストSDのコンパクトモデル
- ネオレストEX
- ネオレストSDの上位機種
- レストパルDX
- キャビネット一体型便器
- レストパルSX
- 住宅用システムトイレ
- NEW Zシリーズ
- ハイシルエット(タンク付)、基本機能はネオレストSDに準じる 2005年4月発売。
- ウォシュレット一体形取替機能部
なお、ネオレストシリーズは、2006年8月10日にモデルチェンジし、新たにA typeを追加、SDはD type、EXはX typeにそれぞれ改称。同時に洗浄水量を大6リットル・小5リットルに改良する。
[編集] 他社の温水洗浄便座
TOTO以外のメーカーも温水洗浄便座を製造する。衛生陶器製造メーカーのほか、電機メーカーも参入しており、電機メーカーのものは多くが量販店での販売となる。
[編集] INAX
INAXの商品名はシャワートイレ。同社はTOTOより先に製造を開始しており、1967年に温水洗浄便座一体型便器の「サニタリーナ61」を発売、1976年にはシートタイプの「サニタリーナF1」を発売している。TOTO同様、総合カタログにも掲載される一般の工事店向けと掲載されない量販店向けがラインナップされている。
ウォシュレットとの相違点としては、おしり洗浄ノズルの角度が70度と真下からの洗浄に近く、このためビデ用のノズルは別個に設けられている点が大きい。同社では「レディスノズル」と称してアピールしている。リモコン付きモデルには、ペーパーホルダーに取り付けできる「インテリアリモコン」がオプション設定されている。一部は便器自動洗浄にも対応する。
なお、2003年9月に限定商品として、下記Kシリーズに阪神タイガースのロゴマーク入りモデルが発売されている。
また、PASSOシリーズには、一般向けと量販店向けがあり、部品の一部が松下電器製品と共用とされる。
- シャワートイレシートタイプ
- 瞬間式
- PASSO E49・47・45タイプ(上記機種)
- 貯湯式
- PASSO E43・41タイプ(下位機種)
- Kシリーズ
- アムゼット(量販店向け)
- RSシリーズ(同上)
- パブリック用Pシリーズ
- ホテル用US・UH・
- 湯水混合式
- U・U3Eシリーズ
- 温水は給湯・給水配管から直接給水する。なお、U3Eシリーズは無電源タイプ
- U・U3Eシリーズ
- シャワートイレ一体型便器(サティスとPitaの上記機種は瞬間式、他は貯湯式)
- サティス
- サティスアステオ
- Pita(一部モデルはシャワートイレ別)
- リラステージiシリーズ
- アメージュVシャワートイレ
- アメージュCシャワートイレ
- アメージュMシャワートイレ(2006年3月末で廃番)
[編集] ナショナル(松下電器産業・松下電工)
松下電器産業の商品名はビューティ・トワレ、松下電工の商品名はクリーンシャワレ。共に同じナショナルブランドである。多くは電器量販店での販売であるが、シェア的には小さいものの便器も発売しており、一体型も発売されている。ノズルはINAXと同様の2本ノズル式で、ステンレス製ノズルや、お湯だけでは落ちにくい油分の汚れを落とせる洗剤を噴出する、おしりシャンプー機能を備えた機種も発売されている。
- ビューティ・トワレ GWシリーズ
- ビューティ・トワレ SWシリーズ
- クリーン・シャワレ
- 温水洗浄便座一体便器
- エシェル・セオ
- エシェル
- トレス
- シャワレインSシリーズ
また、以下メーカーの製品は松下電器のOEM(ビューティー・トワレと同一)製品が多い。
[編集] 三洋電機
三洋電機は、ki・re・iの商品名で発売。ノズルは2本ノズル式。3シリーズ6機種が発売されている。リモコン式もラインナップされる。
[編集] 東芝
東芝はクリーンウォッシュの商品名で、2006年7月現在、3機種が発売されている。ノズルは一本ノズルだが、おしり洗浄とビデ用は位置を変えた2段ノズル式となっているのが特徴。
かつては松下電器産業「ビューティ・トワレ」のOEM品を細々と販売しており、一時撤退していたが、近年になり、サムスン電子からのOEM供給により韓国製の廉価商品を発売。価格の割に多機能であることから人気を呼び、シェアを伸ばしている。 しかし韓国製であることから品質、性能が若干劣るとの声もある。
[編集] 日立ハウステック
名称はファミレット。日立化成グループの日立ハウステックが製造している。ノズルは2本方式である。貯湯方式・リモコン付き(本体にも操作部はある)モデルで6機種が発売される。
[編集] アサヒ衛陶
衛生陶器メーカーのアサヒ衛陶は、サンウォッシュの商標で、2006年7月現在3シリーズが発売されている。同社が得意とする簡易水洗便器にも装着可能である。 なお、以前から一部商品は松下電器産業のOEMであり、一体型の「アミーゴ」は、OEM兄弟機の松下「マイドルフィン」が廃盤になってからも継続販売されている。(ただし、旧来から、松下電器産業の便器はアサヒ衛陶が、アサヒ衛陶の暖房便座・温水洗浄便座は松下電器産業がそれぞれ製造して相互にOEM供給しているため、両社の製品の組み合わせであるアミーゴとマイドルフィンの場合は、どちらがOEM元かは判断しかねるところである。)マイドルフィン亡き今、「アミーゴ」は唯一の冷房機能付便器である。
- DLGMシリーズ
- DLSシリーズ
- 温水洗浄一体型便器「アミーゴ」
[編集] ジャニス工業
同じく衛生陶器メーカーのジャニス工業は、サワレットの商品名で発売している。また、温水洗浄便座一体型の「ジーナ プリモ」も2005年4月から発売している。なお、同社は以前から日立ハウステックより製品のOEM供給を受けている。
[編集] 東建ナスステンレス
不動産業の東建コーポレーション傘下にある住宅設備機器メーカー・東建ナスステンレス(旧・ナスステンレス)は、シャワレッシュの名称で発売している。本体スイッチ式で、ビデ用ノズルを別に装備する。なお、同社では上記ジャニス工業からのOEM供給により便器も発売している。
[編集] その他
簡易水洗式便器のメーカーも温水洗浄便座を発売している。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
全国ウォシュレット・データベース ウォシュレット設置箇所のデータベース