コーヒーサイフォン
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コーヒーサイフォンは、蒸気圧の差によって湯を吸引する仕組みを利用した、コーヒーを抽出するための装置である。19世紀のヨーロッパで発明されたものであり、日本には大正時代に「コーヒーサイフォン」として紹介され、その後、「サイフォン」という略称で呼ばれている。なお英語ではsiphonはサイフォンを指し、日本でもっとも普及している型のコーヒーサイフォンはvacuum coffee maker(吸引式コーヒー抽出器)と呼ばれることが多い。この他の英語での呼び名として、siphon coffee maker や coffee siphonという名称が存在する。
1840年にイギリスのロバート・ナピアーが考案したという説が広まっているが、実際にはそれ以前からヨーロッパ各地で使われていた。詳細については歴史を参照。
日本では、ドリップ式と並んで良く知られたコーヒーの抽出方法の一つである。ドリップ式に比べて手技によるぶれが少ないため味の再現性がよいことと、抽出時にコーヒーの香りが強く出ること、器具の形状や抽出のときの湯の動きから理科の実験を連想させる独特の雰囲気を提供できること、などの特長があり、コーヒー愛好家や一部の喫茶店に用いられている。ただし味の面ではドリップに劣ると評価する人も存在し、また抽出器具としては手軽さに劣るため、使用している人口はドリップに比べると少ない。
見た目の美しさから、喫茶店などでインテリアとして展示されていることもある。
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[編集] 構造
蒸気吸引を利用したコーヒー抽出器具は大きく分けて、(1)ガラス風船型、(2)ナピアー式、(3)天秤式サイフォン の3つのタイプが存在する。このすべてが広い意味ではサイフォンと呼ばれることがあるが、一般には(1)のガラス風船型のものを指すことが多い。これ以外の2つのものについてはサイフォンに類する抽出器具で後述する。
日本で最もよく知られている形のサイフォンは、ガラス風船型(glass balloon、あるいは French balloon)と呼ばれる形状のものである。耐熱ガラスで出来た上下2つのパーツ(漏斗およびフラスコ)と、漏斗に取り付けるフィルター、およびこれらを支える台、で構成される。抽出を行うには、加熱するためのアルコールランプやガスコンロなどが別途必要となる。また、加熱部分を電気式にしたガラス風船型サイフォン式の電動コーヒーメーカーも販売されている。
[編集] 抽出の実際
サイフォンによるコーヒーの抽出は、以下のようなステップで行われる。
- フラスコ(下側のガラスパーツ)に湯または水を入れ、アルコールランプで加熱する。
- 漏斗(上側のガラスパーツ)にフィルターを装着し、粉砕したコーヒーを入れておく。
- 湯が沸騰しはじめたら一旦火を外し、漏斗を差し込む。
- 再び加熱すると、フラスコ内での沸騰によって湯が上に移動し、コーヒーの粉と混ざって抽出が行われる。
- 一定時間後火を外すと、フラスコ内部が陰圧になり、漏斗に上った湯が再び降りてくる。その際、コーヒーの粉はフィルターで除かれる。
- フラスコ内に回収された抽出液を、コーヒーとして飲用する。
出来上がるコーヒーの味は、コーヒー豆の挽き具合、抽出時間、火力などによって調整される。用いるコーヒーの粒子が細かいほど、また時間を長く取るほど、成分が抽出されやすく味が濃くなる。火力は湯の温度に影響を与えるだけでなく、湯が上に移動する速度に影響して抽出時間などにも作用する。なおアルコールランプの場合、火力の調整は出す芯の長さと火を当てる位置によって行うことが多い。
湯が漏斗内に上った時、コーヒーの粉は湯に浮かんだ状態になるので、竹べらなどを使ってほぐすように撹拌する。このときの撹拌の仕方によっても味が若干変化し、荒っぽく混ぜすぎるのはよくないと言われている。通常言われている抽出時間は漏斗に湯が上がってから2〜3分程度で火から下ろすというものであるが、抽出時間によって味が変わり、味に対する好みは人それぞれであるため実際の抽出時間はさまざまである。
これらの、抽出に影響する要素の計測や再現が比較的容易なことが、サイフォンの味が安定し再現性がよい理由の一つだと考えられている。
なおフラスコの外が濡れた状態で火にかけるとガラスが破損する原因となるため、注意が必要である。
[編集] サイフォンに類する抽出器具
ナピアー式抽出器(Napierian brewer)は、1840年にイギリスの海軍でエンジニアを務めていたロバート・ナピアーが考案したものである。アメリカや日本では、これが最初のサイフォンだと考える人も存在している。ガラス風船型で上下に配置していたパーツを左右に並べて配置した形になっているのが特徴。加熱されるフラスコのみがガラス製で、抽出槽は金属製であった。抽出槽の上部から水管を通して液体をやりとりするため、見た目からサイフォンが想起されやすい。
天秤式サイフォン (balancing siphon)は、ナピアー式とほぼ同時期に考案されたものである。ウィーン式サイフォン装置(Viennese siphon machine)、あるいは考案者のルイス・ガベットの名からガベットとも呼ばれる。日本では、ウィーンで19世紀に作られた、代表的な商品の名前からオデットという名前で呼ばれることもある。外見上はナピアー式と酷似していて、左右にパーツが並んでいるが、この2つのパーツが天秤上でバランスを取っているのが特徴である。加熱する側のフラスコの下には、アルコールランプのキャップが取り付けられており、お湯が完全に抽出槽に移動すると天秤が傾いてランプの火が消され、温度が下がって抽出済みのコーヒーがろ過される。なお、この自動消火のアイデアは古いガラス風船型にも既に見られる。当時はまだ耐熱ガラスがなく過熱による事故が相次いだため、自動消火の機能を備えたものは少なくなかった。
[編集] 歴史
サイフォンは19世紀の初め頃にヨーロッパで開発されたと言われている。しかしその正確な起源については判っていない。ただし、1830年代にはすでにドイツでガラス風船型のサイフォンが使われていた。
1835年にはフランスで、1839年にはイギリスで、それぞれ独自の改良を施したサイフォンの特許が取得されている。
1840年、イギリスでロバート・ナピアーがナピアー式サイフォンを考案する。以後、20世紀初め頃までイギリスで愛用されつづける。
1841年、フランスのヴァシュー夫人(Madame Vassieux of Lyons)が特許取得した改良型のガラス風船型サイフォンは、現在とほぼ変わらない形状のものであった。
1844年、ルイス・ガベットが天秤式サイフォンの特許を取得。
20世紀に入って、アメリカで相次いで「新しい吸引式コーヒー抽出器具」の特許が取得される。ただし、これは既にヨーロッパで用いられていたものとほぼ同様のものであった。特に1914年に特許取得されたものはヴァシュー夫人が1841年に発表したものとほぼ同一のものである。なお、当時のアメリカにおいては「サイフォンの考案者はロバート・ナピアー」という主張が出回っており、それ以前のガラス風船型の歴史は語られなかったと言われる。
1915年、初めてパイレックス製のサイフォン「Silex」が作られる。以後、Cona、Coryなどのブランド名で耐熱性のガラス風船型サイフォンが製造される。
1925年、日本の珈琲サイフォン社が、国産として初めての「コーノ珈琲サイフォン」を開発・販売を開始する。