セレノシステイン
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セレノシステイン(Selenocysteine)はアミノ酸の一種である。3文字表記はSec、1文字表記はU。システインに似た構造を持つが、システインの硫黄がセレンに置き換わっている。セレノシステインを含むタンパク質はセレノプロテインと呼ばれる。
セレノシステインは、酸化・還元に関わるいくつかの酵素(グルタチオンペルオキシダーゼ、テトラヨードチロニン-5'-脱ヨウ素化酵素、チオレドキシン還元酵素、ギ酸デヒドロゲナーゼ、グリシン還元酵素や一部のヒドロゲナーゼなど)に存在する。
タンパク質に含まれる他のアミノ酸と違い、直接遺伝コードされているわけではない。セレノシステインは、普通はストップコドンとして使われるUGAコドンによって、特別の方法でコードされる。すなわちmRNA中のUGAコドンはSecIS(SElenoCysteine Insertion Sequence、セレノシステイン挿入配列;非コードRNA参照)がある場合にのみセレノシステインをコードする。SecISは特徴的なヌクレオチド配列と塩基対パターン(二次構造)で決められる。
真正細菌ではSecISはmRNAの翻訳領域内、目的とするUGAコドンのすぐ次に位置している。古細菌と真核生物ではSecISはmRNAの3'側非翻訳領域にあり、複数のUGAコドンにセレノシステインをコードさせることができる。また古細菌では5'側非翻訳領域にSecISがある例が少なくとも1つ知られている。セレンがない場合には、セレノプロテインの翻訳はUGAコドンで終止し、短くて機能のないタンパク質ができる。
他のアミノ酸と同じくセレノシステインに対しては特有のtRNAがある。しかしセレノシステインtRNA(tRNA(Sec))の一次・二次構造は標準的なtRNAといくつかの点で異なり、特に8塩基対(細菌)または9塩基対(真核生物)からなるacceptor stem、長いvariable region arm、また他のtRNAではよく保存されているいくつかの塩基における置換がある。
tRNA(Sec)は、まずセリンtRNAリガーゼによってセリンと結合されるが、これによってできるSer-tRNA(Sec)は普通の翻訳伸長因子(細菌のEF-Tu、真核生物のEF1α)に認識されないため、翻訳に用いられない。その代わりtRNAに結合したセリン残基はセレノシステイン合成酵素(ピリドキサールリン酸を含む酵素)によってセレノシステイン残基に変換される。最後にこうしてできたSec-tRNA(Sec)は特殊型の翻訳伸長因(SelBまたはmSelB)に特異的に結合し、これはセレノプロテインのmRNAを翻訳中のリボソームを標的にしてSec-tRNA(Sec)を送り込む。この輸送は、セレノプロテインmRNA内のSecISのつくるRNA二次構造に結合するタンパク質中の特別のドメイン(細菌のSelB)、または、特別のサブユニット(真核生物mSelBのSBP-2)によって行われる。