タガメ
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タガメ | ||||||||||||||||||
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北米産のタガメ Lethocerus griseus |
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分類 | ||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||
Lethocerus deyrollei Vuillefroy, 1864 | ||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||
Giant water bug |
タガメ(田亀)は、カメムシ目・コオイムシ科に分類される昆虫の一種。日本最大の水生昆虫である。
[編集] 特徴
体長50-65mm。雌の方が大型で、雄の個体で60mm以上に達するものは稀である。
体色は暗褐色で、若い個体には黄色と黒の縞模様がある。タイコウチに似るが、本種の方が尻の呼吸管が短いことで識別できる。前肢は強大な鎌状で、獲物を捕獲するための鋭い爪も備わっている。中・後肢は扁平で、遊泳のために使われる。
肉食性で、魚やカエル、他の水生昆虫などを捕食する。鎌状の前脚で捕獲し、口吻を突き刺して消化液を送り込み、消化液で溶けた肉液を吸う。自分より大きな獲物を捕らえることも珍しくない。その獰猛さから「水中のギャング」とも呼ばれる。
北海道を除く日本全土に分布するが局所的。国外では台湾、朝鮮半島、中国に分布する。なお中国では漢方薬の原料として用いられる。
水田や水草が豊富な止水域に生息するが、農薬の普及や護岸などの環境破壊によって近年その数を急激に減らし、絶滅危惧II類(環境省レッドリスト)に分類されている。都府県によっては絶滅危惧I類に指定している自治体もある。豊かな自然環境下でしか生息できないため、水辺の自然度を測る時の指標になる種と言える。
ミズカマキリなどに比べ、基本的にあまり飛行しない昆虫だが、繁殖期には盛んに飛び回り(同族生殖を避けるためだと考えられる)、走光性が強いこともあってこの時期は夜になると強い光源に飛来することが多い。飛行の際には前翅にあるフック状の突起に後翅を引っ掛け、一枚の羽のようにして重ね合わせて飛ぶ。この水場から水場に移動する習性から、辺りには清澄な池沼が多く必要で、現代日本においてその生息域はますます狭められることとなっている。
冬になると陸に上がり、草の陰や石の下など水没しない場所を選んで成虫越冬をする。
[編集] 繁殖行動
春に越冬から目覚めた成虫は5~6月頃に性成熟し、繁殖活動を開始する。この頃には、雄が腹で水面を一定リズムで叩く求愛行動が見られ、この音で遠くの雌まで呼び寄せる。交尾、産卵は深夜から明け方にかけて何度かに分けて繰り返し行われ、水面上にある杭や植物の茎などに合計60~100個程度の卵を産み付ける。この卵塊は雄によって給水、保護されて約10日で孵化する。幼虫は5回ほどの脱皮を繰り返し、40~50日で成虫となる。
繁殖に成功した個体は死亡することが多く、寿命は1、2年と考えられるが、飼育下では3年目の繁殖を行った例もある。雌は1シーズンで4回ほどの産卵を行う。
時に、雄が世話をしている卵を別の雌が破壊することがある。これはその雄を獲得するための行動で、本種の習性としてよく知られている。ただしタガメ亜種の全ての雌が卵塊破壊をするわけではない。
[編集] 近縁種
世界には20種以上の近縁種が確認されており、中でも最大のものは南アメリカに分布するナンベイオオタガメ(Belostoma grandis)で、その体長は100mm以上にも達する。
東南アジアに分布するタイワンタガメ(Lethocerus indicus)も日本の種より大型で、ベトナムやタイなどでは食用にもされる。