ダイカスト
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ダイカスト(だいかすと、die casting)とは、金型鋳造法のひとつで、金型に溶融した金属を圧入することにより、高い精度の鋳物を短時間に大量に生産する鋳造方式のことである。ダイキャストとも言われる。またこの鋳造法だけでなくダイカストによる製品をもいう。
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[編集] ダイカストの歴史
奈良の大仏に見られるような古代より行われてきた砂型鋳造法に比べ、ダイカストの歴史は比較的新しい。砂型鋳造やそれから発展した石膏型鋳造は、鋳込んだ鋳造品毎に型を破壊しなければならなかった、その後同じ型から製品を大量に生産出来るよう金型が考案され、やがて溶解金属を圧力をかけて注入する方法、つまり、ダイカスト法の誕生をみた、1838年米国のバースによるダイカスト活字の製品化であった。以後1950年頃より合金素材、ダイカストマシンの改良が急速に進展し2000代年には、マシーンのコンピューターコントロール化、大型化もあいまって生産性の向上と製品の多様化が顕著になっている。
[編集] ダイカスト製品
使用素材として、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの非鉄金属とその合金で、優れた寸法精度の製品を短時間に大量生産できることから、自動車関連部品に多く使用されてきた。近年金型技術の発達、合金素材の改良により通信機器、建築材料、産業機械など急速な需要の広がりをみせている。特に、マグネシウム素材の開発でデジカメ、パソコン、携帯電話他、事務用品、日用品等、身近な雑貨から最先端機器にいたるまで、用途を拡大している。従来のダイカストはパワートレイン関連の自動車部品の製造に多用されている。代表的な部品は以下の通りである。
- エンジン
- シリンダーブロック
- クランクケース
- トランスミッション
- ミッションケース
- トランスファーケース
また、自動車へのアルミニウム部品適用拡大の流れから、従来板金部品が大半であった車体へのダイカスト部品適用も広がっている。
自動車部品以外の鋳造品の代表例。
- 玩具
- ミニカー・超合金玩具
- 家電関連
- 冷蔵庫・洗濯機・VTR・ミシン・掃除機
- 事務用品
- パソコン・プリンター・ファクシミリ・複写機
- 日用品
- カメラ・釣具・ファスナー・装身具
[編集] 製造方法
ダイカストは、原材料である合金と成型加工する金型そして原材料を金型に充填する機械(ダイカストマシン)の3要素から成り立っている、原材料が製品となるまでの工程が最短の方法である。すなわち(合金⇒溶解⇒鋳造⇒トリミング⇒仕上げ加工⇒検査出荷)という経過をたどる。鋳造時に金型を使用するが近年金型専門業者を介在させず設計から金型製造を自社製作の会社も増加傾向にある。
[編集] ダイカストマシン
現在のダイカストマシンの主流となっている横型ダイカストマシンは、アメリカのドーラによって開発された。主として亜鉛合金、錫合金などの鋳造に使用され、ホットチャンバーといわれる。一方コールドチャンバーは、アルミ合金、マグネシウム合金等高融点の金属鋳造に使用され、大型の製品の鋳造が可能である。鋳造サイクルタイムはホットチャンバーの方が短い。
[編集] 金型
金属製の精密鋳型で一般的に固定型と可動型で構成され、二つをあわせることで掘り込み面や、空間、変化をもたせる。素材は、炭素鋼・熱間工具鋼等特殊鋼が用いられる。
[編集] ダイカスト用合金
ダイカスト用合金には、各種の非鉄金属がある。すなわち、アルミ合金・亜鉛合金・マグネシウム合金である。以上の3合金は、JISに規定されている。そのほかに、銅、鉛、錫の合金も使用され、それぞれ異なった特徴を持つ。
- アルミニウム合金--もっとも経済的で鋳造しやすいため生産量が多い。機械的性質や成型鋳造性に優れている。
- マグネシウム合金--実用金属中もっとも軽量である。耐食性に弱いので防食処理が必要である。近年高純度の耐食強化合金が開発された。
- 亜鉛合金------------アルミに次いで生産高が多く他の合金に比較して、肉薄で精密な精度が得られる。微量不純物混入により、経年後劣化することがある。光沢鍍金が容易に出来る利点がある。
- 銅合金--------------ダイカスト用合金として黄銅がある。アルミに比し硬度・耐摩擦・耐食性に秀でている。
- 鉛・錫合金---------使用例は、ごく少ないが錫合金は超精密部品や食物・科学薬品と接触する部品に使用され、鉛合金は高比重を必要とする場合に用いられる。
[編集] 他の鋳造法との比較
ダイカスト鋳造法は量産性や製品肌の美しさにおいて優位である反面、高速で溶湯を金型に圧入することに起因する空気の巻き込みや金型隅部への不充填による不良の発生率が高い。また、砂型に比べ金型は熱伝導率が高いため溶湯の冷却(凝固)速度が高く、湯境(ゆざかい)が発生しやすいので大型品や肉厚品、高い強度を必要とする部品等への適用が難しい。2000年代に入り、より高い品質を目指し技術向上が顕著で、いわゆる特殊ダイカスト法が開発されている。即ち真空ダイカスト法・局部加圧法・酸素置換法等である。
ダイカストに対し
[編集] 砂型鋳物
- 大物が作れる
- ダイカストに出来ぬ鉄や銅が使える
- 少量の生産に経済的
[編集] 金型鋳物
- 金型費が安い
- 使用される合金種が多い
- 熱処理、溶接が容易
[編集] 鍛造鋳物
- 肉厚部品が出来る
- 密度が高く機械的性質に優れる
- 内部品質が安定
部品製造においては、ダイカストは経済的にも機能的にも優れている点が多いが、他の製造方法もそれぞれ固有の長所をもっている。部品精度・コスト・強度/靭性・大きさ・外観。等各項目を検討して決定することが必要である。工程の短縮とリサイクルの要請から自動車業界を中心にダイカストへの依存度がたかまっている傾向にある。