ハンニバル・レクター
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ハンニバル・レクター(Hannibal Lecter)は、『羊たちの沈黙』等、作家トマス・ハリスの複数の作品に登場する架空の人物。精神科医にして連続猟奇殺人犯。殺害した人間の臓器を食べる異常な行為から「人食いハンニバル」(Hannibal Cannibal、ハンニバル・カニバル)と呼ばれる。
非常に高度な知的能力を持ち、専門の精神科以外にも高等数学、理論物理学、古文書学などに深い造詣を見せる。
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[編集] 履歴
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
1938年リトアニア生まれ。彼自身の認識によると、父方の祖先はイタリアの名門貴族、フィレンツェのマキャヴェッリ家とミラノのヴィスコンティ家の血を受け継ぐジュリアーノ・ベヴィサングエという12世紀トスカーナの人物に遡る。また母方もやはりヴィスコンティ家の末裔らしい。スイスの高名な画家バルテュスとは従兄弟の関係であると言われる。先天的に多指症という障害があり、指が6本あった。ただし多指症の部分は、映画では一切描かれていない。
第二次世界大戦中の1944年、ドイツ軍に家族を惨殺される。特に最愛の妹ミーシャを敗残のドイツ兵たちによって殺され食料にされた体験が、彼の異常な人格を決定的にしたとされる。ただし、このことのみによって異常な人格が形成されているわけではなく、生まれつき「異常」であったのである。
成人後アメリカに渡り医学を修得。しばらくは病院の救急外来嘱託医などをしていたが、1970年ごろに独立、精神科を開業した。その治療手腕は評判となり、多くの有名人や上流階級の人間が患者となった。こういった人種との享楽的な付き合いや非常識ぶりが、彼の眠っていた欲望や凶暴性を目覚めさせたらしく、自分の患者を殺害してはその肉を食うという連続猟奇殺人が始まった。
1975年3月22日、患者であったボルティモア・フィルハーモニック・オーケストラのフルート奏者、ベンジャミン・ルネ・ラスペイルを殺害した際には、彼の臓器を調理して、ゲストとして招いたオーケストラの理事たちに振舞った。
1978年、FBIの捜査顧問であったウィル・グレアムに犯行を突き止められたが、グレアムに瀕死の重傷を負わせて逃亡。それからの9日間で更に3人を殺害している。
1979年、ようやく逮捕され9人に対する第一級殺人罪で起訴された。ところが拘置されていた精神病院で、拘束を解かれた一瞬の隙を突いて看護婦に噛み付き、その顎を噛み砕いた。あまりの凶暴かつ異常な行動に、裁判所はチェサピーク州立病院ボルティモア精神異常犯罪者診療所への終身拘束を決定。狭い独房に閉じ込められることになったが、料理書からファッション誌まで多数の書籍を購読、最厳重監視病棟の囚人の身ながら、臨床精神病理学会誌や精神医学会誌に論文を発表するなど、世間に影響を与え続けた。
1981年、グレアムは連続殺人犯フランシス・ダラハイドの捜査協力をレクターに求めてきたが、レクターは逆にダラハイドをけしかけてグレアムと家族を襲わせた。命は助かったものの、グレアムは顔をズタズタに切り刻まれる重症を負った(『レッド・ドラゴン』)。このように、レクターには他人を心理的に操作して罪を犯させる驚異的な能力があるとされる。
1983年、連続誘拐殺人犯ジェイム・ガムに対する捜査協力を求めてきた、当時FBIアカデミーの学生であったクラリス・スターリング捜査官の訪問を受ける。ガムに娘を誘拐されたマーティン上院議員への情報提供の見返りとして条件の良い特殊監房に移ったが、2人の看守を殺害して逃亡。スターリングが事件を解決する頃には南米にまで逃れた(『羊たちの沈黙』)。行方不明の逃亡期間中、ブラジルでバカンス中だった州立病院のチルトン院長を殺害した模様。また目立たなくするためか多指症を手術し6本目の指を取り除いている。
1990年、レクターはダンテ研究者のフェル博士という偽名でフィレンツェに現れる。この時は峻厳をもって鳴る専門家連中を満足させるほどの深い知識を披露していた。パッツィ刑事は彼をハンニバル本人ではないかと疑い、捜査していたが、ヴェッキオ宮殿で先祖の例に倣って殺害し、ツアー旅行者にまじってアメリカに帰国する。ところが、被害患者であった大富豪のメイスン・ヴァージャー一味に拉致される。レクターの趣味嗜好から高級奢侈品に網を張っていたスターリングの捜査はレクターを寸前まで追い詰めたが、メイスンらに囚われていたレクターを助け出すことになってしまう。レクターはヴァージャー、次いでスターリングのライバルである司法省のクレンドラーも殺害し、更にスターリングを誘拐して再び行方をくらますことに成功した。スターリングまでもがレクターに洗脳されてしまったとの噂もある。また、スターリングは自らの意思でレクターと共に生活している可能性を示唆する記述もある(『ハンニバル』)。
※年数表記は『羊たちの沈黙』の原作を中心とした前後関係に基づく。なお全ての作品が映画化されているが、映画版は製作時期の差により原作とは多少異なる時代設定となっている。
[編集] 趣味・嗜好
人の死肉(特に内臓)を異常に好む(カニバリズム参照)。その部分は多く描かれている。また、性的嗜好はまだ謎の部分が多いが、幾度と無く機会がありながら、スターリングを暴行しなかったことから、異常性欲者ではないと考えられる。また、クラリス・スターリングには、特別な思い入れがあるようだ。(ドイツ兵に殺された妹との関連が推測される)
対面している人物の普段使用している香水を嗅ぎ分けるほどの動物的嗅覚を持ち、また非常な美食家でもある。
[編集] 登場作品
- 『レッド・ドラゴン』(Red Dragon)
- 1981年に出版。1986年に『Manhunter』の題名で映画化(邦題『刑事グラハム/凍りついた欲望』、ビデオ改題『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』)。2002年に原題で再映画化。
- 『羊たちの沈黙』(The Silence of the Lambs)
- 『ハンニバル』(Hannibal)
- 『Hannibal Rising』
[編集] 俳優
映画化作品においてハンニバル・レクターを演じた最初の俳優は1986年『刑事グラハム/凍りついた欲望』のブライアン・コックスであった。しかしハンニバル・レクター役で最も有名なのは、『羊たちの沈黙』『ハンニバル』『レッド・ドラゴン』で演じたアンソニー・ホプキンスである。『羊たちの沈黙』の演技により、彼は初のアカデミー賞主演男優賞を受賞した。
2007年に映画が公開される予定の『Hannibal Rising』では新しく若手の俳優ギャスパー・ウリエルが起用され、ホプキンスにはゲスト出演の依頼もあるようである。
[編集] 関連項目
ハンニバル・レクター・シリーズ |
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本 映画 主要な登場人物 |