ヒメグモ科
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ヒメグモ科 | ||||||||||
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Latrodectus mactans 捕獲した昆虫を糸で巻いて食べる |
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ヒメグモ科(Theridiidae)は、クモ目の主要な科のひとつである。不規則網を張るクモで、セアカゴケグモもここに含まれる。
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[編集] 概論
ヒメグモ科のクモは、多くは左右よりも上下に大きい体を持つ。やや偏平なものもいるが、典型的なのは、丸く膨らんだ腹部と、上に伸ばして前に構えた前足をしている。
もっとも身近で見られるのは、オオヒメグモである。よく野外のトイレの片隅、石灯籠の屋根の下などに見られる。一見不規則に張った網の中ほどに、ぶら下がるようにして止まっており、袋のような卵嚢を一緒に網にぶら下げているのが見かけられる。
このように、はっきりとした構造を説明しにくいような、周囲の足場から網の中央へ糸を引き纏めてあちこちで結び合わせたような網を不規則網、あるいはカゴ網と呼んで、ヒメグモ類の網の一つの典型と見なされている。しかし、これとは掛け離れた網や習性を示すものも多々あり、なかなかに変化にとんだ科である。
また、毒グモで有名なセアカゴケグモ等を含む科でもある。
オオヒメグモの巣は、時として大人をすっぽりと包み込むほどの大きさにまで発達し、 一年かかっても食べきれないような、驚くほど大きな獲物がかかることがあることでも知られる。
[編集] 体の構造
頭胸部は小さく、腹部はそれに比べて大きく膨らんでいる。腹背に偏平なものもあるが、多くはむしろ左右の方が幅が狭い。また、比較的細くて長い脚をしている。
頭胸部には通常は八個の目がある。配列は四眼二列で、目だった特徴は少ない。腹部は上に高く、丸っこいもの、糸疣の上のほうが高まるものが多い。オニグモ類のように腹部の前が幅広くなったり、肩に隆起があるものはない。
また、網構造の詳細のわからない 体型的にずんぐりした小さなクモはとりあえず ヒメグモ科に入れられ、生態的な差により 別の科に移されることがよくあるようだ。 同じ環境に生息する地味で小さなサラグモ類、コガネグモ科などと比べると 脚刺が発達せず、腹部にやや長い毛が見られることが多い。
[編集] 習性
[編集] 捕食
ヒメグモ科は一般的に言えば造網性のクモであり、網を張ってそれに引っ掛かった昆虫を捕らえる生活である。しかし、その網の使い方は、なかなか興味深いものがある。
不規則網を造るものには先のオオヒメグモのほか、ホシミドリヒメグモやギボシヒメグモなどがある。小型の種は木の枝先の葉の間などに網をはるものもある。しかし、この網のカゴ状の部分に虫がかかるかと言えば、必ずしもそうではない。ホシミドリヒメグモの場合、クモは大抵葉の裏に近い位置にいて、その網はそこから下に糸を垂らしたような姿をしており、そこに一面に粘液の玉がついている。この部分で虫を捕まえるのである。このような網を垂糸網ともいう。
これに対して、オオヒメグモのカゴ網の場合、大部分の糸には粘液がついていない。その代わりに、糸が土台に付着する部分の狭い範囲に粘液がついている。これは、土台の部分を歩いている虫がくっつくようになっているものである。歩いている虫がここに粘りつき、暴れると土台のところで糸が切れ、糸は張力で引き上げられる。そうすると、虫はそれに引かれて吊り上げられてしまう。したがって、オオヒメグモの網には、往々にして地上性の昆虫が捕らえられている。
ヒメグモという種は、低木の枝先にカゴ網を張るが、網の中に細かく糸を重ねて造られた水平なシートをはる。サラグモに似た網になるが、サラグモとは違い、クモはシートより上のカゴの中程にいる。また、ここに丸まった枯れ葉などをつるして、そこに隠れる場合が多い。
同じようにゴミを集めて巣を作るもので、網が簡略化されたのがツリガネヒメグモである。土がくずれた斜面のくぼんだ所などに巣を作るもので、細かい土や砂の粒で釣り鐘型の巣を作り、クモはその中に潜む。この巣は天井から糸で吊り下げられ、巣の下からは下の地面に数本の糸が張られており、ここに粘液がついている。 近年このグループの小型のクモが人為的な環境や室内でもしばしば見られるようになったようだ。
コガネヒメグモは沢や渓谷などで見られやすい美しいクモの一つで、 その網も水滴がつくととても美しい。 縦糸の目立つ構造は他の種類とは幾分異なり、 巣によっても存在を確認できる。 そのサイズに見合った上下の幅を確保するのに、成長過程で低いところから高さをあげて行くようだ。 このクモが見られるところでは、他の種類の金色系のクモを見ることも多い。 また、このクモの生息環境は日々の疲れを癒すのに適した、まったりとした空間のように思える。
カレハヒメグモやハンゲツオスナキグモは、石垣の隙間や樹皮の下、排水溝の隙間などにトンネル状の巣をつくり、入り口に不規則網をかける。ゴケグモ類もこれに類するものである。 ヤマトコノハグモは田んぼから山奥の渓谷まで比較的 生息範囲は広い。食欲は旺盛。
ニホンヒメグモは、以前はヒメグモと名づけられていたクモで、都市部の緑地でも見られる。 生まれた頃の幼体は体色黄色く脚は黒ずみアブラムシのようだが、 同じ環境に生息するワキグロサツマノミダマシの幼体も同じ姿をしている。 生態はカグヤヒメグモなどに似るが、こちらは朱赤が目立つことが多い。
コンピラヒメグモは一見同じような姿をしてるが、一回り小さく 湿所の下草の低い位置での営巣が見られる。顔の高さ前後で見ることも多い比較的ゆったりした空間利用をするニホンヒメグモ、カグヤヒメグモとは利用空間が異なるようだ。 多くいる区域では、周辺でヨツボシヒメアシナガグモ、ヒメアシナガグモなどの活動が見られた。 ヒメグモの類は腹部下面から見て糸器の周辺や、第4脚の斑紋のパターンなどに特徴が現れることが 多いので、チェックするとよいかもしれない。 同じ草地でも上方には他のヒメグモが見られる。
ヤホシサヤヒメグモは食物をとると着色することが知られるスケルトンなクモの一つで、その為 灰色の個体を見て、なんだかよくわからないことも多いと思われる。 その腹背のヤホシ斑もサザナミ模様のように連続したり安定はしない。 背甲の黒筋に多少特徴があるので覚えるとよいかもしれない。水田、 河原で普通に見られ、草地のタイプもあまり選ばないようだ。 同じように斑紋が不明になることが多い黄色系の小さなクモに、山地で広く見られるヒメヨツボシサラグモなどがある。 こちらは個体差により灰色っぽかったりするようだ。 サザナミ模様ということでは高地で見られるサザナミサラグモは、近縁種と違って 複雑な斑が安定しているように見えたが、たまたまだったのかもしれない。 サザナミ模様の黄色いクモを見たら、ハイマツの生えるような高山ではサザナミサラグモ。 ブナの生えるような山地ではヒメヨツボシサラグモ。 山麓ではヨツボシサラグモ。 平野部ではヤホシサヤヒメグモ、と安易に考えても損はない。
もっと簡単な網を作るものもある。ヒシガタグモ類はH字型の網を作る。網は地表すれすれに作られ、クモはHの字の横棒の所に止まり、下向き二本の糸に前二対の足を添える。この糸の先、地面に近い所に粘液がついている。さらに簡単な網を作るのは、ツクネグモという小型のクモで、本当に一本の糸を引いただけのものである。糸には粘液がついており、小型の昆虫が引っ掛かる。 この種は、腹部は硬質化しておりつまんでその辺に落とすと、 カツンと小さな音がする。 腹部の模様の個体変異もあり造形的にもモダンなオブジェを思わせ、腕に覚えのある人の被写体としても興味深いものかもしれない。 ただし体長はせいぜい1~2ミリ程度のスケールの 小さなクモである。
近縁のハラダカツクネグモは敵が接近すると非常に巧妙な擬死を行い、ブラブラと風で揺れるクモの巣などに下がった木屑のようなゴミに扮するようだ。 おそらく記録が少ないのはその擬態が絶妙なのだろう。 一見するとゴミグモのような雰囲気で、所属についてはこれから変更される可能性もあるようだ。
オナガグモも単なる糸を引っ張っただけの網を張る。クモはこの糸の中程におり、この糸をたどってやってくるほかのクモを襲う。 いざ、そのシーンを見物しようと自宅に持ち帰ってさまざまなクモを与えてみても、 現場をなかなか見せてはくれないクモでもある。屋外では時々他のクモを襲ってるところを見る。 外にもクモを襲う習性をもつのがヤリグモとムナボシヒメグモである。イソウロウグモ類は他のクモの網の片隅におり、宿主のクモのおこぼれをもらっていると言われていたが、実際には網の主を襲う場合もある。 イソウロウグモの中でも特に小型の種類は、小さいことで網主にとっての餌としての価値を減少させ、襲われるリスクを低下させてるのかもしれない。 屋外でも他のクモの網に独特の形状をした卵嚢が、一本の横糸の下に下がってるのをみることも多い。 クモの捕獲術を発達させたのがセンショウグモ類で じわじわと相手ににじり寄ってる間に、相手がすたこらさっさと逃げてしまうことも多く、 単純にクモに襲い掛かる能力は、フクログモ類やヤチグモ類など牙が発達して運動能力の高いクモ。 コオニグモモドキのように、サイズの割りに意外と腕力の強いクモほどのものでもないのかもしれない。 センショウグモが他のクモを襲うためのさまざまな戦術について各地でいろいろと研究されてるようだ。 センショウグモは他のクモを発見すると急に挙動不審になるので見分けやすい。 クモの思考能力の研究材料としてもよさそうだ。 同じ場所で見ることも多いムナボシヒメグモとは、腹部後半両脇寄りの一対の突起があることで見分ける。
ヒメグモ類が獲物を捕まえる場合、後ろ足に粘液をつけた糸を持ってこれを獲物に投げかけると言われ、これがヒメグモ類の狩りの特徴と考えられる。
ミジングモ類は、ごく小型のヒメグモであるが、もっぱらアリを襲うことが知られている。このクモは網を張らず、低木や草の茎沿いに糸を垂らしてぶら下がり、アリが近づくと粘液をつけた糸を引っ掻けて捕らえる。 自分よりもはるかに巨大なアリとの格闘能力にも優れ、糸を利用しない直接対決でもまず負けることはないようだ。 クモ喰いの傾向の強いクモが反撃されることもあることと比べると、アリとの関係はほぼ絶対的のようだ。 巨大なアリがミジングモの脚の付け根を牙でがっちりと抑えて、腹部に針を刺そうとするものの そこまで体を曲げられずに四苦八苦してる光景が見られた。
飼育下ではカニミジングモがアリ以外の餌のみで正常に成熟した。 またこの類はクモの中ではクモを捕食する傾向が低いように思われる。 冬季樹皮下でカニミジングモがまとまって見られる。 体色変異のある種が多く、極端な変異については交尾器等の検討を要するかもしれない。 山里で見られる種類は多い。
なお、小型種のキベリミジングモに酷似したクロササヒメグモという別属のクモがおり、簡単には第四脚の腿節の黒色部分がないことで見分けるようだ。 近年ミジングモ属から数種がササヒメグモ属に転属されている。
なお、アシブトヒメグモという種は、平地の小枝の先に不規則網を張るが、トベラの花粉を食うという、クモとしては非常に珍しい習性が知られている。 おそらくタンパク質として摂取してるのだろう。今後、他の種類からも植物性のタンパク質の 摂取例が確認されるかもしれない。 アシブトヒメグモは沿海地で優占種となりやすく、近縁にイワワキアシブトヒメグモなどがあるが、 識別は専門事項のようだ。 腹背の斑が目立たず、全身が赤紫っぽく輝く美しい個体もいる。 見つけるとちょっと得した気分になる。
スネグロオチバヒメグモは、名の由来となる前足の黒色部分が目に付きやすいクモで、ヒメグモの中ではそう多くはない土壌性のクモとして、各地に普通。 もっとも営巣位置がただ極端に低いために土壌性とみなされるだけかもしれないので、 そのカテゴライズも、多少恣意的なものになるのかもしれない。 リター層を有する都市部の緑地にも普通。 比較的獰猛で、アリや他のクモを襲う。 たまに、芽生えた双葉の上に佇んでいるシーンなども見る。
[編集] 繁殖習性
ヒメグモ類では、雄は雌よりやや小さい。形態的にはそれほど差がないものが多いが、イソウロウグモ類やミジングモ類では、雄の頭部が極端に高まったり、突起を持っていたりと、大きな形態の差を示すものも知られている。
卵は袋状の卵嚢に包まれる。多くの種では、卵嚢は親の網に引っ掻けてあり、孵化して出てきた子グモは卵嚢のそばでまどいの時を過ごす。イソウロウグモは宿主の網に卵嚢をかける。
アシブトヒメグモなどは、卵嚢を口にくわえて運ぶ。
ヒメグモの場合には、巣として使われる枯れ葉などの中にクモは潜むが、卵嚢もその中につける。また、生まれた子グモに親が口から吐き戻しを行って口移しに餌を与える行動が知られている。
[編集] 分類
世界で約80属、2000種以上あると言われる。以下に日本の代表的なものを上げる。
- ツリガネヒメグモ属 Achaearanea:ツリガネヒメグモ・オオヒメグモ・カグヤヒメグモ・ヒメグモ
- ヒメグモ属 Theridion:バラギヒメグモ・ユノハマヒメグモ
- ハガタグモ属 Enoplognatha:カレハヒメグモ・ヤマトコノハグモ
- カガリグモ属 Steatoda:ハンゲツオスナキグモ・ナナホシヒメグモ
- アシブトヒメグモ属 Anelosimus:アシブトヒメグモ
- ミジングモ属 Dipoena:キベリミジングモ・カニミジングモ・シモフリミジングモ
- ツクネグモ属 Phoroncidia:ツクネグモ
- コガネヒメグモ属 Chrysso:コガネヒメグモ・ホシミドリヒメグモ
- ヒシガタグモ属 Episinus:ヒシガタグモ・シモフリヒシガタグモ
- オチバヒメグモ属 Stemmops:スネグロオチバヒメグモ
- ゴケグモ属 Latrodectus:セアカゴケグモ・ハイイロゴケグモ
- ヒメグモモドキ属 Theridula:ホシヒメグモモドキ
- イソウロウグモ属 Argyrodes:チリイソウロウグモ・シロカネイソウロウグモ・ヤリグモ・オナガグモ
[編集] その他
アイザック・アジモフの推理小説に「黒後家蜘蛛の会(Tales of the Black Widowers)」という連作がある。