フェンリル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フェンリル(Fenrir )は、北欧神話に登場する、オオカミの姿をした巨大な怪物。語尾に『狼』と付いた場合はフェンリス狼(Fenrisúlfr )ともいう。別名はフローズヴィトニル。また、ヴァナルガンド(Vanargand 破壊の杖)、フェンリスヴォルフ(フェンリル狼)ともいう。
フェンリルは、悪戯好きの神ロキが女巨人アングルボザの心臓を食べて産んだ3匹の魔物(フェンリル・ヨルムンガンド・ヘル)のうちの1匹であり、三兄妹の長子である。口を開けば上顎が天にも届くとされ、鼻からは炎を噴出させている。
ひどく凶暴な上に、口を開けば世界をまるごと飲み込んでしまうほど巨大であるため、アース神族の監視下に置かれることとなった。神々はフェンリルを拘束するために、レージング(Læðingr )と呼ばれる鉄鎖を用意したが、フェンリルはそれを容易に引きちぎった。続いて、神々はレージングの二倍の強さを持つ鉄鎖、ドローミ(Drómi )を用いたがこれもフェンリルは難なく引きちぎる。そのため、スキルニルを使いにだしてドヴェルグ(ドワーフ)に作らせたグレイプニル(Glæipnir 呑み込む者)という魔法の紐を用いることにした。グレイプニルは、猫の足音、女の顎髭、山の根元、熊の神経、魚の吐息、鳥の唾液という六つの材料から出来ていた。(材料に使われてしまったので、今日これらのものが存在しないという)アームスヴァルトニル(Ámsvartnir )湖にあるリングヴィ(Lyngvi )という島で、オーディンは「おまえがこんな紐も切れないなら恐れる必要がないので解放してやる」と言ってフェンリルを縛ろうとしたが、フェンリルは警戒し、縛られる代償として誰かの右腕を口に入れることを要求した。神々の中からテュールが進み出て彼の右腕をフェンリルの口の中に差し入れた。
縛られグレイプニルから抜け出せないことに気付いたフェンリルはテュールの右腕を(後にこれにちなんで狼の関節と呼ばれる部位まで)食いちぎったが、神々は素早くゲルギャ(Gelgja 薄い)と呼ばれる鎖を用いてギョッル(Gjöll 叫び)と言う巨大な岩にフェンリルを縛り付けて地中深くに落とし、スヴィティ(Þviti )と言う巨大な石で上から押さえつけた。 この際に口を開けて暴れるフェンリルの下顎に護拳を上顎に剣先がくるように剣を押し込んだ為、開きっぱなしとなったフェンリルの口から大量の涎が流れ落ちて川となった、これはヴァーン(Ván 希望)川と呼ばれる。
ラグナロクの際にはグレイプニルさえ引きちぎり、オーディンを飲み込むが、オーディンの息子ヴィーザルの剣で心臓を貫かれ、あるいはスノッリのエッダによれば下顎を靴で踏みつけられ、上顎を手でつかまれて、上下に引き裂かれて殺される運命である。
彼が鉄の森の巨人の女との間にもうけた狼たち、スコールがソール(太陽)をハティがマーニ(月)を追いかけ、ラグナロクにおいてそれぞれソルとマーニとに追いついてこれを飲み込む。