メモリースティック
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メモリースティック(Memory Stick)は、ソニーが中心となって開発した小型メモリーカード、およびその関連規格・製品群の総称。MSと略される。
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[編集] 概要
メモリースティックはデジタルカメラやデジタルオーディオプレーヤー、携帯電話、プレイステーション・ポータブルの記録媒体として主に利用されている。他のメモリーカード規格同様に物理サイズや電気的仕様などについていくつかの拡張規格がつくられたが、メモリースティック関連規格はそれぞれの違いが分かりにくく、また旧規格製品の併売もみられたため2000年代前半には大きな混乱がみられた。
メモリースティック関連規格は電気的仕様から、従来型「メモリースティック」系と上位規格「メモリースティック PRO」系に大別される。PRO規格は通常規格の上位互換となっており、PRO機器では通常メディアが利用できるが、一方で通常規格の機器ではPROメディアは利用できない。
このほか、物理サイズでは通常のものとDuo、マイクロの3種があるが、小型タイプのメディアは簡素な構造のアダプタを介することで、より大きいメディアに対応した機器で利用することができる。また、初期のメモリースティック系メディアでは著作権保護機能『MagicGate』の有無でも複数の製品に分かれていたが、うちソニー製品については後にすべてMagicGate対応モデルに統一されている。
MS系 | MS-PRO系 | |
---|---|---|
フルサイズ規格 | メモリースティック | メモリースティック PRO |
Duoサイズ規格 | メモリースティック Duo | メモリースティック PRO Duo |
マイクロサイズ規格 | なし | メモリースティック マイクロ |
MagicGate対応 | 一部非対応 | 全モデル対応 |
最大容量 | 128MB×2 | 32GB(未発売) |
最大転送速度(規格上) | 160Mbps | 160Mbps |
最低速度保証 | なし | 15Mbps |
2005年現在、メモリースティックメディアはソニー、サンディスク、レキサーメディアなど多くのメーカーから供給されている。一方、対応ハードウェアを全面的に発売している大手メーカーはソニーおよびソニーグループの各社のみとなっている。最初期のメモリースティック規格は7社による共同発表であり、その後数年間は多くのサードパーティを味方に既存規格のコンパクトフラッシュ・スマートメディアからシェアを奪っていった。しかし2000年代には後発のSDメモリーカードとの競争でかなりの苦戦を強いられている。メモリースティック Duoをセーブデータやファイルの保存に利用するPSPの登場や、それに伴う製品価格の低下(SDカード類よりも低価格であるケースも存在)により、ごく若干ではあるが状況に改善が見られたものの、2005年ごろから携帯電話でのminiSD規格の採用が急増したこともあり、メモリースティック系列全体のシェアはメモリーカード市場では全体の1割強ほどにとどまっており、USBメモリのシェアにも劣る形となり、2006年10月現在ではSD陣営に大きく水をあけられている形となっている。低価格化や市場拡大という面ではメモリースティックが劣っているといえる状況である。
[編集] メモリースティック
[編集] 概要
メモリースティックは1997年7月17日に発表された。ソニーのVAIOセンター、富士通などによる共同開発で、アイワ、オリンパス、カシオ計算機、三洋電機、シャープが発表時から協賛していた。当初は4MBおよび8MBのメディアが発売され、その後128MBまでの大容量化が行われている。
発表当時、既にメモリーカード市場ではコンパクトフラッシュ・スマートメディア・ミニチュアカードなどがシェアを争っていたが、メモリースティックはPC周辺機器での使用を前提として開発されたそれらの規格と違い、様々なユーザーによる利用を想定した家電寄りのユニバーサルデザイン的設計思想が特徴である。「メモリースティック」という規格名は平易な単語で構成し、非英語話者でも理解しやすいよう試みている。
外形寸法は21.5mm×50mm×2.8mm。長さは単3乾電池と同じに設定されている。扱いやすさを考えてこのサイズ・形状にしたとされている。メディア片面の仕上げをザラザラとした手触りにすることで、裏表が判断できるような工夫がなされ、また人為的な誤消去を防ぐためミニディスクやフロッピーディスクのような誤消去防止スイッチが設けられている。
接触不良を防ぐため端子数は10ピンにおさえ、指などが直接触れないよう端子をくぼみの奥に配置。動作電圧は2.7V~3.6V。通信には独自のシリアルプロトコルを採用することで将来的な容量・素子の変更時にも互換性が確保でき、当時スマートメディアなどが頻繁に起こしていた互換性問題にも無縁であるとされた。
メモリースティック専用スロットはデジタルカメラや静止画記録対応のビデオカメラ、パーソナルコンピューターのほか、ペットロボットAIBOなど多様な製品に搭載された。メモリースティックへの静止画、音楽、動画などの記録については個別にアプリケーションフォーマットが規格化されており、メーカーや機器にかかわらず互換性を保つよう務められている。
1999年には松下電器産業などから、メモリースティックに近い機能・設計思想を持ちながらより小型な対抗規格「SDメモリーカード」が発表された。このため、後には小型機器向けにサイズを縮小した「メモリースティック Duo」が開発されている。
メモリースティックは当初少なくとも1GBまでの大容量化が予定されていたが、結局開発できたのは128MBまでにとどまり、256MB以上の大容量メディアは「メモリースティック PRO」という新規格での発売となった。このため256MB相当の代替製品として、128MBメモリを内部に2つ内蔵し、物理的なスイッチで切り替えて使う「メモリースティック(メモリーセレクト機能付)」(Memory Stick Select)がソニーおよびレキサーメディアから発表された。なおソニーは128MBメモリを4つ内蔵した512MB相当モデルや、メモリとスイッチをさらに増やした大容量モデルも計画していたが、実際の製品化には至っていない。
[編集] MagicGate
メモリースティック現行製品のほとんどは、著作権保護機能MagicGateに対応している。MagicGateはデジタルオーディオプレーヤーで利用するATRAC音楽ファイルや、携帯電話の有料コンテンツなどの暗号化に利用される。
初期に販売されたメモリースティックは、MagicGate機能を持っていなかった。1999年、メモリースティック ウォークマンの発売にあわせソニーからMG対応メモリースティックの初期モデルが発売されたが、この白色のメディアには「マジックゲート メモリースティック」(MagicGate Memory Stick、MGMS)という名がつけられ、MG非対応の紫色メモリースティックとは併売の扱いがとられた。しかしMGメモリースティックは割高であったため普及が進まず、また市場にこれら2製品が混在することで混乱の声も聞かれた。
そのためソニーは2004年5月21日発売の新製品から、メモリーセレクト機能付モデルを含むすべてをMagicGate対応に統一。以後の同社製品では、従来のMGメモリースティックが「メモリースティック」と呼ばれている。
ただしメモリースティック規格自体に変更は加えられていないため、一部のサードパーティはその後もMagicGate非対応メディアを販売している。
[編集] メモリースティック Duo
メモリースティック Duo(Memory Stick Duo)は、携帯電話などの小型機器用につくられた小型のメモリースティック。2000年4月13日発表。MS-Duoなどと略される。
フルサイズのメモリースティック同様、初期にはMagicGate機能を持っていない製品があり、現在販売されているようなMG対応モデルは「マジックゲート メモリースティック Duo」(MagicGate Memory Stick Duo、MGMS-Duo)と呼ばれていた。
外形寸法は20mm×31mm×1.6mm。電気的仕様はフルサイズのメモリースティックと同一であるため、物理サイズを通常MSに揃えるための簡素な構造のアダプタを使用することにより、フルサイズ用の機器で使用することができる。サイズ以外はメモリースティックと共通であるため、Duoもそのまま挿入できるよう構造が工夫されたスロットもある。
初期のMS-Duoは携帯電話やごく小型の携帯型音楽プレーヤー、デジタルカメラなどのみで使用される特殊規格であったが、その後はある程度の大きさを持つ機器においてもフルサイズのメモリースティックをあえてサポートせずにDuoサイズのみが挿入できるスロットを持つものが増えている。(PSP等)
日本市場向けの携帯電話ではソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズがメモリーカード対応の全てのモデルで、三菱電機がNTTドコモ向けの一部モデルで採用している。
256MB以上の大容量メディアは「メモリースティック PRO Duo」という新規格となった。
[編集] メモリースティック PRO
[編集] 概要
メモリースティック PRO(Memory Stick PRO)は、サンディスクとソニーの共同開発により2003年1月10日に発表された上位規格。MS-PROなどと略される。
従来型メモリースティックの最大容量の制限が128MBであったため、それを超えるための規格として登場したもの。規格上の最大容量はFAT32を前提にしているため32GBが上限とされており、このうち2005年までに最大で4GBの製品が発売されている。MS-PRO対応機器では従来型メモリースティックも使用できるが、逆に従来型メモリースティック機器でMS-PROメディアを使用することはできない。ソニーは混乱を避けるためMS-PROメディアの容量は256MBを下限とし、128MBまでは従来型メモリースティックメディアのみを販売している。ただしこれは規格上の制限ではないため、一部の他メーカーは小容量のMS-PROメディアも生産している。
外形寸法等は従来型メモリースティックと同じだが、従来型でラベル貼付エリアがあった部分に凹型のくぼみが設けられ、利用者が両者を識別しやすくなっている。なお、従来型のメモリースティックおよびメモリースティック Duoに設けられていた誤消去防止スイッチはオプションとなったため、一部のメディアには備えられていない。
MS-PROでは従来オプション扱いだった著作権保護機能MagicGateが標準搭載となり、また規格上の最低転送速度が15Mbpsと高速に規定されているなど、どれを買えばいいのか分からないほど複雑化したメモリースティック製品群において、ある程度の軌道修正が試みられている。
しかし、音楽再生機能においてMS-PRO上のMagicGateをサポートした機器が長期間発売されなかったため、その間はPRO対応機器でも音楽再生機能では低容量の従来型メモリースティックしか利用できないという問題が発生。その後初めて同機能をサポートした機器の登場は約2年半後の2005年7月までずれ込んだ。このほか10MB/sの高速転送に対応したソニー製MS-PROメディアがフラッシュメモリの供給状況の影響を受け、発売延期・生産終了・再発売などの発表が短期間に連続して行われる、大容量メディアと一部旧機器の間で互換性問題が発生するなど、いくつかの混乱が散見された。
ソニーが将来的に想定しているMS-PRO独自の利用法として、「アクセスコントロール機能(仮称)」がある。これはMagicGateを応用したもので、専用のロック装置(アクセスコントローラー)に挿入することでメディア内容の一括暗号化が行える。復号化には、暗号化に使ったコントローラーが必要となるが、あらかじめ暗号化キーの複製作業を行うことで複数のコントローラーで暗号化メディアの共有も可能になる。
後にはメモリースティック Duo同等のサイズに縮小した「メモリースティック PRO Duo」や、さらに小型化した「メモリースティック マイクロ」も開発された。
[編集] メモリースティック PRO Duo
メモリースティック PRO Duo(Memory Stick PRO Duo)は、MS-Duoと同じ寸法に縮小されたメモリースティック PRO。2003年8月19日発表。MS-PRO Duo、もしくは単にPRO Duoなどと略される。
ソニー・コンピュータエンタテインメントが発売した携帯ゲーム機「プレイステーションポータブル」(PSP)でサポートされたことで認知度・シェアが高まった。このため、ソニーはフルサイズのMS-PROのかわりにPRO Duoを事実上の標準サイズとして扱っている。
メモリースティック PRO Duoは4GBが商品化され、8GBも試作品があり商品化の予定である。
[編集] メモリースティック マイクロ
メモリースティック マイクロ(Memory Stick Micro)は、PRO Duoよりさらに小型化したメモリースティック PRO。サンディスクおよびソニーによって2005年9月30日に発表された。略称はMemory Stick Microから略してMM、転じてM2となる。
外形寸法は12.5mm×15mm×1.2mm。携帯電話などの小型機器向けに開発されたメディアで、体積ではメモリースティック PRO Duoの4分の1程度となる。頻繁な交換を行う用途ではなく、内蔵メモリのようにほぼ挿しっぱなしでの使用が想定されている。
電気的仕様はMS-PRO、PRO Duoと互換性を持ち、Duo同様にアダプタも用意される。なお動作電圧は従来の2.7~3.6Vに加え、より低電圧の1.7~1.95Vにも対応した。また、接続端子はフルサイズ、Duoサイズの各メディアより1ピン増えた11ピンとなっている。
メディアの供給は2006年上半期に開始される予定。
[編集] 特殊なメモリースティック
2004年からは読み出し専用の「メモリースティック-ROM」が流通している。2005年現在、BBeB Dictionary規格の辞書データが入ったタイプがソニーから販売されており、同社の電子辞書やLIBRIe、CLIEの各対応機種などで利用できる。また、2006年度より行われる大学入試センター試験の外国語リスニング試験に「メモリースティック-ROM」と専用のICプレーヤーが採用されている。
また2002年6月3日、ライトワンス型の「メモリースティック-R(仮称)」の開発表明が行われたが、こちらは製品化には至っていない。
このほか、I/Oインターフェース規格として「メモリースティック I/O拡張モジュール」がある。日本で販売されたモジュール機器としては、ソニーがCLIE向けに販売したBluetoothモジュール、デジタルカメラモジュール、GPSモジュールなどがある。また、メモリースティック PROをベースにし、パラレル高速転送に対応した「メモリースティック PRO I/O拡張モジュール」規格も存在する。