レーザーポインター
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レーザーポインターは、レーザー光を用いて図を指し示すなどのために使う道具。
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[編集] 概要
これらの道具は指し棒などと同じ用途に用いられる場合が多いが、指し棒と比較すると、
- 暗い場所でも示している場所が判り易い。
- ただし明るい照明の下や屋外では、高輝度の製品でないと指している場所は判り難い。
- 指し棒の届かないような遠距離でも指せる。
- 指し棒の場合、物理的な長さがすなわち指示範囲であるが、これは梃子の原理によって、長ければ長いほど手に重さがかかって操作者にとっては苦痛となる。また長い棒は、ただ長いというだけで、使っていない時には邪魔な物であるが、レーザーポインターの場合では、300m先を指示できる製品でも、手の中に収まっている。
- 危険な場所でも指し示すことができる。
- 非常に高温・低温や精密機器、水中にあるものなど手や差し棒で直接触れられないものでも指し示すことができる。
- 軽くて扱いやすい。
- かつてはHe-Neレーザーを使用していたため、大型で交流電源を利用するタイプが主流だったが、1990年代後半から半導体レーザー発振器の高性能化・小型化・低電力化に伴い、乾電池で動作する小型のタイプでも、高輝度の製品が出て主流になっている。
など多くの利点がある。特に手元の小さな動作で広範囲を、距離を気にせず指し示せる事から、取り扱いが容易であるとされ、小型化の進んだ1990年代後半より急速に普及、現在では文具店でも良く見られる商品と成っている。ただしレーザー光の特性として、光線の持つエネルギーが拡散せずに遠距離にまで届くため、使い方を誤ると大変危険である。(以下記事参照)
近年では普及に伴い多様な製品も登場しており、以下のような発展型もある。
- ワイヤレス・ポインティングデバイス機能搭載タイプ
- 線や円といった図形を表示できるタイプ
- 高速で発振器を振動・運動させる事で、目の残像現象を利用して、これら図形を描き出す。図の大きさを任意に変更できるため、一定範囲を判り易く示す事が出来る。更には複雑な図形や文字(アルファベット)等を表示できる高機能な物も存在する。
- 筆記用具との一体型
- 非常に小型・軽量で、持ち歩きにも便利である。
[編集] 発光色
- 現在最も普及しているのは、波長630~670nm程度の低出力な赤色の半導体レーザーを用いた製品である。なお、この付近の波長では短波長側ほど視感度が高く、同じ出力であっても670nmよりも630nmの光の方が明るく見える。
- 赤色レーザーポインターの場合、日本人に少なくない第一色覚異常(赤色光を検知することができず、赤と緑が同様に見える)の人には赤い光が極めて見にくい。色覚バリアフリーの観点から、昔ながらのDPSS(ダイオード励起固体レーザー)もしくは近年開発された窒化ガリウム系の緑色半導体レーザーを用いる動きもある。
- 極稀に青色・黄色・赤外線のレーザーポインターも存在する。
- 青色は視感度が低いため実用性が低く、値段も高い。
- 黄色は、赤色と緑色の中間的な性質を持つ。値段も同様。
- 赤外線は、高出力で安価にモジュールが入手できるが、当然のことながら人の目に直接見えないため、通常は使われない。
[編集] 安全性と対策
レーザー光は、光線の持つエネルギーが拡散せずに遠距離にまで届く事から、目に光線が入った場合に網膜細胞がそのエネルギーの影響を受けて破壊されたり、神経系に過剰な負荷を与えて頭痛を起こすケースが報告されている。網膜が損傷した場合に、視力が極端に低下したり、失明する場合もある。光源から何かの物体(鏡・光沢のある金属表面などは除く)に当たった後であれば、物体表面で光が乱反射されるために問題は無いが、危険であるため光源からの光を直接、または鏡などからの反射光を目に受けてはいけない。
現在では、出力別にクラス別けを行い、一般に文具店等で販売されるクラス1レーザーポインター(小規模なプレゼンテーションなどで利用される物)では100秒間見続けても問題無いと言われているが、状況によってはこの出力によっても視力低下の危険性が警告されている。また業務用(会議場やホールなどで利用する物)のクラス2レーザーポインターは0.25秒以上直接目に入ると危険であるとされる。なおこれらは瞬きや反射的な動作で失明などの危険を回避できるが、見る側の体質的な問題もある。
一般に販売されるレーザーポインターは安全基準を満たした上で、PSCマーク(消費者の生命や身体の安全を守ることを目的とした国による安全規制を満たしている事を証明するマーク・菱形の中にPSCの三文字がある)の添付許可を受け、これを商品に添付しなければならない。これに違反すると販売者は消費生活用製品安全法によって罰せられる。逆に消費者からすれば、このマークが付いていない製品は注意すべきであると思われる。
以前は玩具店やゲームセンターのプライズゲームでも人気のある商品だったが、中には出力が大き過ぎる危険な製品も含まれ、事故が多発(以下記事参照)したため、近年では不用意に児童に持たせるべきではないとされ、都道府県によっては有害玩具に指定している地域もある。
今日では安全性を重視しながらも、従来より人気のある商品であったレーザーポインターを店頭に置きたいと考える玩具店では、クラス1レーザポインター等の出力が制限された物を置くケースも見られ、現在玩具店等の店頭にあるこれら機器は、ほぼ全てクラス1レーザーポインターであると思われるが、一部には無認可の輸入製品を(単に安い等の理由で)知らずに置いてしまうなどの可能性もある他、基準を満たしている製品でも、網膜細胞が特に過敏な人に対しての安全性といった面で、基準の有効性を疑問視する向きもある。
[編集] 日本の安全基準(JISに拠る)
- クラス1
- 100秒間瞬きせずに直視しても問題無いとされる。光線の波長によって出力制限が異なる。概ね0.2mW(単位:ミリワット)前後の出力。前出のPSCマーク添付対象。
- クラス2
- 0.25秒間未満の直視は問題無いとされる。1mW未満の出力。
これより上の出力を持つ製品も、大会議場向けなどに存在するが、これらは一般には販売されていない。しかし日本国外では表示が異なるため、外国製品には注意が必要である。
- クラス3B
- チューンナップされた共立モジュールがこれにあたる。光線の直視はいかなる場合でも避けなければいけない。出力は500mw未満。
- クラス4
- 直視だけではなく、拡散反射でも目に悪影響を与えたり、火災や皮膚障害が発生する。レーザーショー向け。
更に、2001年に消費生活用製品安全法により、次のような規制が加わった。
- 全長:8cm以上
- 重量(電池含):40g以上
- 出力 1mW未満・出力安定回路の搭載
- 電池の種類:単3、単4、単5形のいずれかのみ
- 電池の数:2個以上
- その他:通電状態が確認できる事・秘匿性の高い形状(手中に収まる・ほかの文具に偽装等)は不(普通のボールペンと見分けがつかないようなものはNG)
これによって姿を消した遊戯銃用のレーザーサイトも少なくない。特にグリップ内蔵型の「レーザーグリップ」はこれらを満たすことが困難なため、個人輸入等の特殊な手段でなければ手に入らなくなった。
[編集] 主な事件・騒動
他のレーザー光同様、光を直接目に入れると大変危険である。最悪の場合、失明の恐れもある。
- プロ野球
- プロ野球の試合中、吉井理人投手の目の付近にレーザーが当てられた事件が発生。吉井投手本人は当てられたと証言し、映像でも確認された。いたずらか、妨害か不明だが、結局犯人も分からずにいる。
- 競馬
- 競馬において、競走馬の順位を操作しようと目論んだ観客が、競走馬を狙ってレーザーポインターを使用した疑惑の問題が起こっている。
- 誤射
- 逆のケースではあるが、米国ではこれらレーザーポインターが、レーザサイトととして拳銃などの照準装置にも利用されるため、暗闇でレーザーポインターを当てられた人が、拳銃強盗に撃たれると思い、防衛のために持っていた拳銃で照射元に向かって発砲、レーザーポインター(レーザーサイト)を悪戯していた人に弾が当たるという事件が起こっている。
またこれら以外にも、1990年代後半から2000年頃に掛けて、児童らが玩具店で販売されていたレーザーポインターを購入して遊んでいる最中、ふざけて目に当てて視力が非常に低下する事故を起こすケースが後を絶たず、日本では消費生活用製品安全法によって販売時における区分別けが行われている。しかし海外からの安全基準を満たしていない輸入品を通信販売するケースもあり、2002年には高知の通販業者が逮捕されている。
特に片目だけが損傷するケースが多い事から、両目による立体視の機能が損なわれ、生活が不自由になってしまうと言う問題などの報告も挙がっている。
片目に致命的な損傷があった場合、損傷を受けてないもう片方の目がそれを補おうと結果的にオーバーワークを引き起こし損傷を受けてない方も視力が大幅に低下する場合がある。