レールガン
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レールガンとは、物体を電磁誘導により加速して撃ち出す装置である。電磁投射砲(でんじとうしゃほう)やEML(Electro Magnetic Launcher)・電磁加速砲(でんじかそくほう)とも呼ばれる。
原理的には古くから知られている事もあり、サイエンス・フィクション関連やゲーム等の作品に幅広く登場しているが、それらの作品では主に兵器として扱われている事が多い。
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[編集] 概要
この装置は、電位差のある二本の伝導体製のレール(弾体を誘導する砲身の代わり)間に、電流を通す伝導体を弾体として挿み、この弾体上の電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用(ローレンツ力)によって、弾体を加速・発射する物である。この際、伝導体は流す電流の量によっては、電気抵抗により蒸発・プラズマ化してしまう事もあるが、プラズマであっても伝導体として機能しローレンツ力が働くため、弾体自身は電流を全く通さない樹脂などの非伝導体で作り、弾体後部に導体を貼り付ける様式が一般的となっている。
[編集] 特徴
- 二本のレールと弾体(もしくはその後方のプラズマ)に電流を流し、その電流により発生する一定の磁場を弾体推進に用いる
- 構造が単純である(二本の伝導体レールと電源のみ)
- 弾体の推進には、短時間で大量の電流を入力する必要がある
- 弾体に電流を流す必要性から、砲身となるレールに接触している必要がある
- 弾体自身は非伝導体である場合でも、弾体をプラズマが追い越してしまわないために、弾体部分がレールの隙間を塞いである必要がある事から、非伝導弾体も砲身に接触している
なお電磁誘導によって物体を加速する装置としてはリニアモーターが存在するが、 全く別の物である。これを利用したものにはコイルガンと呼ばれるアイデアがあるが、こちらは構造上の問題から、レールガン以上に高初速が得がたい。
理論上では、レールガンが打ち出す弾体の最大速度は、相対論的制約で光速度が上限となる。発射速度は入力した電流の量に正比例するため、任意の発射速度を得るために、任意の電流を入力してやればよいだけである。
勿論それだけの電流を発生させられる電源が必要となるし、現実問題としては実質的に加速する距離やレールの摩擦・電気抵抗・耐熱温度などの物理的・技術的制約がある。しかしながら、火薬を使う種類の普通の火器においては、その化学的な燃焼エネルギーの多くは熱の形で無駄となるし、弾体の発射速度は発生・過熱膨張されるガスの膨張速度よりは大きくなれない(最新の爆薬を使っても、せいぜい2~3km/s程度)のと比較し、充分な電流を入力されたレールガンは、現存の素材・技術を使った場合でも、遥かに大きい発射速度を実現できるものと考えられる。
1960年代には、550メガジュールを入力した長さ5mのレールガンで、オーストラリア国立大学に所属するリチャード・マーシャルらのグループが3gの弾丸を5.9km/s(=5900m/s)で射出する事に成功、現在では、最大速度8km/s程度の物が開発・利用されている。なお参考までに火薬を使う火器の弾丸の初速に関して述べると、拳銃では300~360m/s、ライフル銃では800~1000m/s程度である。
[編集] 用途
現在、レールガンは様々な分野での利用を期待され、一部では実用化されている。比較的知られている分野では以下が挙げられる。
この他、入力する電流の量により、発射速度を自由にコントロールできる事から、タイミングを計りやすい事もあり、レーザー核融合炉への燃料ペレット投入に対する利用が期待されている。
[編集] 歴史
発射速度は入力された電流に正比例する事は先に述べた通りだが、原理自体は古くから知られており、1844年にはこれに基づいた兵器利用の実用化構想もあった程で、世界各国の軍部が事ある毎に研究してきた歴史がある。しかし弾体が砲身に接触している事から生じる摩擦の問題を解決できなかったり、実際に発射できるだけの電流を生み出す電源が無いといった理由から、実用化に到らなかった。
1960年代に、前出のリチャード・マーシャルらのグループがホモポール発電機の発生させる電流を用いて、従来火器よりも遥かに速い速度で弾丸を射出する事に成功、次第にその威力が現実的な物として考えられるようになり、1980年代にはアメリカ合衆国のスター・ウォーズ計画により、多額の研究資金を得て、大きく発展した。
特に宇宙空間では空気抵抗が無いために、高速で運動する物体の破壊力(運動エネルギー)は発射から命中までの間、ほぼ無期限に保存される事、また電源として大気越しではない太陽光が利用できる事から、レーザーと並んで宇宙兵器の有力候補に挙げられている。
だが今日では、SDI計画自体が国際情勢の変化に合わせて計画縮小され、実用性においては実績のある既存の火薬を燃焼させて発射する兵器と比較し、巨大な電源装置を必要とする等の点で問題の多い上に、実績も無いレールガンの兵器化研究は進んでいない。
その一方で、1990年代頃から技術開発や研究方面での利用も進み、様々な分野で開発・利用されている。
なおレールガン開発の歴史は、レールガン本体の改良よりも、むしろ電源開発の歴史と述べた方が適切とされており、SDI計画においても、ホモポール発電機の小型化が最重要課題とされていた。今日各方面で利用されているレールガンにおいては、フライホイールに(運動エネルギーの形で)蓄電された物やコンデンサに蓄電した物が利用されるなどしている。
[編集] サイエンスフィクションとレールガン
古くから知られているアイデアであるため、サイエンス・フィクション(SF)やそれを基礎とする映画・ドラマ・アニメ・漫画・コンピュータゲームには、レールガンはしばしば登場するアイテムとなっている。
ただ、作品によっては「超高速で弾丸を発射できる銃器」という位置付けも多く、単に「凄い威力の武器」扱いに過ぎない作品も少なからず見られ、これらでは発射に必要とされる電力を何処から賄うかの言及も等閑であったり、あるいはコイルガンやリニアモーターとの区別も曖昧な作品も見られ、更にはプラズマ砲や荷電粒子砲と混同している作品すらある。
一応の科学知識に立脚する作品では、その電力消費が膨大でもある事から、超高速で弾丸を発射できるが連射性が悪く、また電源を含む装置全体では極端な容積・重量を持つものとして描かれているか、マスドライバーなど何らかの施設として設置された巨大なレールガンを、より大電力を入力することで兵器転用して…というアイデアもみられる。
余りに広範囲にアイデアが流用されていることから、個々の作品の列挙は割愛するが、様々な作品に登場している。