中性子散乱
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中性子散乱(ちゅうせいしさんらん、Neutron Scattering)とは、中性子が物質に入射した際に、物質を構成する原子核などとの相互作用によって方向を変える現象を指す。中性子散乱に寄与するのは主に原子核であり、これを核散乱という。また、原子が磁気モーメントを持っているときには磁気を担う電子との磁気的相互作用によって磁気散乱を生じる。普通の電子による散乱は非常に僅かなもので、一般には無視してよい。
中性子散乱では、中性子と散乱体とを含む系について、エネルギーと運動量の保存則が満たされる。散乱によって中性子の運動エネルギーが変わらない場合は弾性散乱で、散乱対と中性子とがエネルギーの授受を行い、中性子のエネルギーが散乱によって変わるものが非弾性散乱である。 低速中性子、特に熱中性子は、そのド・ブロイ波長と物質中の原子間距離と同程度、またそのエネルギーも物質構成粒子の持つ運動エネルギーと同程度であるため、物質系による散乱の測定条件に恵まれている。原子核などによる散乱波は相互に干渉して回折現象を起こし、結晶によるブラッグ反射や、液体などからの回折曲線が観測される。これにより、結晶や液体の構造解析が出来る。磁性体の場合には、各原子の持つ磁気モーメントの空間的配置(すなわち磁気構造)が解析される。一方、結晶格子振動のフォノンや、磁性体のスピン波のマグノンとのエネルギー交換による非弾性散乱の解析により、散乱体の運動に関する情報を得る事が出来る。また、液体などによる原子拡散や、二次相転移点近傍での散乱体のゆらぎなどに基づく運動は、入射中性子のエネルギーの周りに広がりを生じる準弾性散乱を起こす。