代用刑事施設
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代用刑事施設(だいようけいじしせつ)とは、勾留決定後の被疑者を収容するため、警察官署に附属される留置場をいう。警察留置場。いわゆる代用監獄。
代用刑事施設は、従来は代用監獄と呼ばれていたが、監獄に関して定めていた監獄法(明治41年法律第28号)は、新たに制定された刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律(平成17年法律第50号、刑事施設受刑者処遇法、平成18年(2006年)5月24日施行)に代えられ、「監獄」の名称も「刑事施設」に改められた。
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[編集] 概要
日本の刑事訴訟法は勾留を刑事施設においてすることと定め(第64条など)、同時に、刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律第2条には「警察官署ニ附属スル留置場ハ之ヲ刑事施設ニ代用スルコトヲ得」(警察官署に付属する留置場を拘置所の代わりに用いることができる)という定めがあることから、被勾留者は留置場に収容することができる。
被疑者(起訴前の被勾留者)の拘禁は、重大事件や経済事犯の被疑者を除き、ほとんどが刑事施設ではなく留置場で行われている。
これは、留置場は警察署に近いか内部にあり捜査に際しての利点が多いという捜査側の事情がある一方、拘置所は数・収容力が限界にあるために全ての被疑者を拘置所に収容することは不可能であるという事情もある。
刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律による「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」への改正により、警察留置場制度が存続されることがきまった。
[編集] 指摘される問題点
代用刑事施設に収容されることにより、自白獲得のための長時間の取調べが連日にわたって行われ、人権の侵害、虚偽の自白の誘発、ひいては冤罪の原因となっているとの批判が古くから行われてきた。自白の強要を行うことは日本国憲法38条1項2項や人権条約に違反する行為である。
これらを裏付けるように、1970年代には長時間の連続した取調べを理由に自白の証拠能力を否定する裁判例が出されていた。
また、国連の人権小委員会では日本に関する人権問題として代用刑事施設問題が取り上げられることが多い。多くの場合、人権小委員会はこの問題に対して懸念を表明している。
[編集] 代用刑事施設の利点
以上のような批判に対し、被疑者の側にも代用刑事施設が用いられることによるメリットもあると主張される。
一般に弁護人は刑事弁護だけでは生計を立てることが不可能であるため、他の業務と並行して弁護活動も行っている。代用刑事施設は拘置所よりも場所・時間的に便利な面があるため、廃止された場合には接見に行くことが難しくなるか不可能になるなど、刑事弁護活動に障害が生ずる可能性もある。なお、一時期には代用監獄を廃止する監獄法改正法案が検討されたことがあり、このときは警察庁が法務省の説得に応じたものの、日弁連の反対によって法案が廃止されたという経緯もある。
- 代用刑事施設のある警察署は、一般に拘置所に比べて主要な街の中心にあるなど交通の便の良いところにあるうえ、拘置所は各都道府県に1~2箇所しかないのが通常である。例えば、旭川や稚内など道央・道北地域においては、旭川市から数十キロ離れた名寄市に一箇所あるのみ(旭川刑務所名寄拘置支所)である。
- また、拘置所は就寝時間が代用刑事施設よりも厳しく守られているため、拘置所に収容された場合には深夜に接見することは許されない。この点、代用刑事施設では夜遅くであっても弁護人が依頼者である被疑者に接見できるため便利なのである。
[編集] 対策
対策としては、1980年に警察内部の措置として留置場を管理する部署と捜査を担当する部署とを分離した。これは、捜査担当者が被疑者を管理するために、被疑者の管理が捜査優先になっているという面が多かったためである。この分離によって、一応は管理が適性に行われるようになった、という評価がある一方、主に日弁連からは内部的な職掌分担にとどまっているために人権保障の点からは不十分との批判がなされている。
刑事裁判実務においても代用刑事施設を利用した長時間の取調べは問題視されており、たとえば身柄の出し入れの時間を記録させその提出を求めるなど、捜査の実態を可視化させた上で個別の証拠の証明力評価の際の資料とするといった取り組みが裁判所において始まっている。