個体群
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個体群 Population(こたいぐん)とは、ある一定地域内の、ある生物一種の個体をまとめたもののことを指す生態学用語である。必ずしも集まっているものを指すわけではない。
[編集] 個体群の定義
あらゆる生物種は、それを構成する個々の個体が、少なくとも生涯の間にある程度以上同種他個体と接触することなしには、長期にわたって生存し得ない。生殖行動をして、繁殖を行わなければ絶滅するからである。従って、絶滅が確定した種でなければ、必ず同種個体との接触をもてる状況にある。互いに接触可能な範囲の中のその種の個体は、個体群を構成している。
個体群という言葉から、集団をなしていなければならないような印象を受けるが、そのようなことはない。集団を作るかどうかは、その個体郡内の個体間の関係の問題であり、そのような意味では、単独で活動するのも、そのような個体間の関係を持つ個体群の特徴と言える。逆に言えば、群れを作るものでは、往々にして子供を群れから追い出したりする習性があるから、群れをとりあげて、これを個体群というのは間違いである場合もある。
生物を、それが生活している場で考えるのが生態学である。そういう意味では、生態学的に言えば、生物は個体群の形で存在しているとも言える。あるいは種の現実的な単位は個体群であるという言い方もある。
個体群を構成する個体は、同一の種もしくは亜種に所属する。まれに近縁の複数種がまるで同一種のようにまとまって活動したり、同種間と同じような関係をもつ場合があり、これを異種個体群と言う事もある。
[編集] 様々な特徴
個体群には、個体数、個体群密度、令構成、出生率、死亡率、その他の属性を持っている。これらを研究するのが個体群生態学である。個体群は具体的な種であるから、種の性質としての習性や性質を研究するものでもあり得る。その分野は、かつては個生態学とか種生態学などと言われたこともあるが、現在ではこのような言葉はあまり使わない。ただ、個体群生態学と言えば、まず個体数の問題を中心としたもの、という印象はある。
個体群の大きさは、個体群の分布域の大きさ、個体数の大きさの両方の面がある。もっとも、面積と、そこに生息可能な個体数には明らかに関係がある。個体数は、個体群の生存には重要な要素である。個々の個体のではなく、個体群の生存を考えた場合、個体数の少なさは、突発的現象による個体数激減からの絶滅の危機(たとえばタケの大量枯死によるジャイアントパンダの危機のように)、および近親交配による悪影響の危険が非常に大きくなる。したがって、同一面積の分布域がある場合でも、それが分断された場合には、絶滅の危機は飛躍的に大きくなる。
個体群の大きさは、最も大きく取れば、その種の分布域と考えることもできる。実際には多くの生物では、個体の移動はその分布域すべてを覆い尽くすものではなく、ある程度の範囲でまとまっていると考える方が自然である(そうでなければ地方変異などが生じるわけがないので)。したがって、そのような単位に分けて考えるのが普通である。つまり、種個体群は、いくつかの地域個体群に分かれている。個体群を取り上げて言う場合には、このことに注意すべきである。研究対象によっては、明らかにごく狭い範囲を区切ってその対象とする場合もある(あるキャベツ畑のモンシロチョウの個体群とか)が、その場合は、より大きな個体群の中から採りだした標本と見ているものである。
環境保護・種の保全問題をとらえる場合にも、重要な概念である。種の絶滅は、まず地域の個体群の消滅から始まっていくからである。
[編集] 関連項目
population の訳語として「個体群」があてられているが、population の語義には「集団」の他に「人口、個体数」があるため文脈によっては注意が必要である。