光くしゃみ反射
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光くしゃみ反射(ひかりくしゃみはんしゃ、photic sneeze reflexまたはlight sneeze reflex)とは、光刺激が誘因となって反射的にくしゃみが起こる現象をいう。屋内から晴天下の屋外に出た時や太陽の光が直接目に入った時など、まぶしさを感じると同時に起こる。この反射は、すべての人に存在するわけではなく、日本人では、約25%の人にしか存在しない。優性遺伝によって子孫に伝えられると考えられ、光くしゃみ反射をもつ家系では、複数の家族が光くしゃみ反射を持つことが多い。
光くしゃみ反射をもつ人のあいだでも、くしゃみを誘発する光の強度には著しい個人差があり、太陽光が直接目に入った時のように強烈な光だけに反射を起こす人もいれば、室内灯の灯り程度の弱光でくしゃみをする人もいる(文献1)。この現象がどのような体内のメカニズムによって起こるかについてはまだ十分に医学的に証明されていない。
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[編集] 研究
ネコを使った研究では、中脳に存在する対光反射の中枢(エディンガー・ウェストファル核、Edinger-Westphal核、EW核)から出た神経突起が、虹彩の瞳孔括約筋(瞳を小さくする筋肉)を調節する神経細胞(毛様体神経節)だけではなく、鼻汁分泌を調節する神経細胞(翼口蓋神経)にも到達していることが示されている(文献2)。おそらく、まぶしさを感じた瞬間、対光反射中枢は虹彩の瞳孔括約筋を収縮させると同時に、鼻腺に鼻汁分泌を起こさせるのだろう。鼻汁の分泌は鼻粘膜にムズムズとした感覚を起こさせ、この刺激が感覚神経(三叉神経)を介して中枢に伝えられ、くしゃみ反射中枢が作動し、くしゃみが起こる。したがって、この神経連絡が光くしゃみ反射に関係している可能性が高いと考えられる。対光反射に要する時間は短時間であるため、くしゃみ反射の継続時間も短い。そのため、くしゃみの回数は1回、または多くて2回から3回であり、それ以上は連続して起こらない。
光くしゃみ反射に関する比較解剖学的研究や系統発生学的研究(進化学的)は行われていないので、他の動物でもこの反射が存在するのかどうか明らかではない。なぜまぶしい時にくしゃみをするのか、その意義も不明である。先祖の動物に必要だった反射が遺伝的に現在の人類に引き継がれているのかもしれない。これに関しては下記の注釈で少し触れる。
[編集] 社会的影響
近年、高速道路のトンネル出口でのくしゃみ反射や編隊飛行中のパイロットの光くしゃみ反射が事故の原因となる可能性について注目されている。
[編集] 注釈
ネコでは、対光反射中枢から鼻腺にいたる神経結合を持つネコの割合は10%以下と推定される。筋肉や神経などはすべての人に共通に存在するのが原則であるが、一部の筋や神経は人によって欠損することもあり、逆に余分に存在することもある。進化学的に古い動物に存在していた筋肉や神経が人に一定の割合で出現することがある(半数以下にしか出現しない場合を変異 (variation) という)。光くしゃみ反射の神経路も変異のひとつではないかと考えられる。
[編集] 関連文献
- 文献1:『東北地方における光刺激によって誘発されるくしゃみ反射に関するアンケート調査』。児玉正志、佐藤恵子、口岩 聡。医学と生物学、第125巻、第6号、215 - 219頁、1992年。
- 文献2:『Intraocular projections from the pterygopalatine ganglion in the cat.』 Satoshi Kuchiiwa, The Journal of Comparative Neurology, vol.300, pp. 301-308, 1990.