八つ墓村
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八つ墓村(やつはかむら)は、推理作家横溝正史が書いた長編推理小説、及びそれを原作とした映画作品やテレビドラマ。映画が3本、テレビドラマが6作品、漫画が2作品ある(2006年8月現在)。
『本陣殺人事件(1946年)』、『獄門島(1947年)』、『犬神家の一族(1950年)』に続く名探偵金田一耕助シリーズの第4作目。
作品内冒頭に登場する村人32人殺し事件は1938年に岡山県で実際に起こった津山事件がモデルで、題名も近隣に実在した地名、真庭郡八束村(現在の真庭市蒜山)をもじっている。
1949年3月から1950年3月までの1年間に雑誌『新青年』で『八つ墓村』連載した後、新青年の休刊を受けて1950年11月から1951年1月にかけて雑誌『宝石』で『八つ墓村 続編』として連載する。1952年に本作品で第5回探偵作家クラブ賞候補にノミネートされる。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] ストーリー
戦国時代(永禄9年=1566年)、この村に尼子氏の家臣だった8人の落武者たちが財宝とともに逃げ延びてきた。最初の内は歓迎した村人たちだったが、財宝に目が眩んで武者達を皆殺しにしてしまう。その際、武者達の大将が「この村を呪ってやる・・・!」と言い残して絶命した。その後、村では奇妙な出来事が相次ぎ、祟りを恐れた村人たちは野ざらしになっていた武者達の遺体を手厚く葬るとともに村の守り神とした。これが「八つ墓明神」となり、いつの頃からか村は「八つ墓村」と呼ばれるようになった。
大正時代、村の旧家「田治見(たじみ)家」の当主・要蔵(ようぞう)が発狂し、村人32人を惨殺するという事件が起こってしまう。要蔵は、その昔、落ち武者達を皆殺しにした際の首謀者・田治見庄左衛門の子孫であった。
そして26年後の昭和23年(作中の表記は2×年と伏せてあるが、他の記述から推定可能)、再びこの村で謎の連続殺人事件が発生、村は恐怖に包まれる。
[編集] 主な登場人物
- 金田一耕助(私立探偵)
- 寺田辰弥(「私」)
- 井川(田治見・寺田)鶴子(辰弥の母。要蔵のもと妾。故人)
- 田治見小梅(要蔵の伯母)
- 田治見小竹(要蔵の伯母)
- 田治見要蔵(故人。田治見家先代)
- 田治見久弥(要蔵の息子)
- 田治見春代(要蔵の娘)
- 久野恒実(村医者。田治見家の親類)
- 里村慎太郎(要蔵の甥)
- 里村典子(慎太郎の妹)
- 野村荘吉(村の分限者)
- 森美也子(荘吉の義妹)
- 諏訪(東京の弁護士。野村家縁者)
- 新居修平(疎開医者)
- 井川丑松(鶴子の父)
- 亀井陽一(失踪中。鶴子の恋人)
- 長英(麻呂尾寺の住職)
- 英泉(長英の弟子)
- 洪禅(蓮光寺の住職)
- 妙連(濃茶の尼)
- 梅幸(慶勝院の尼)
[編集] 解説
横溝正史は戦時下、岡山県に疎開していた経験があり、この時の風土体験を元に、岡山県を舞台にした幾つかの作品を発表していて、これらはファンの間では「岡山編」と呼ばれる。本作「八つ墓村」は「獄門島」や「夜歩く」等と並んで岡山編の代表格とも言える長編作品である。
物語は、冒頭部分を作者が語っている形式で、それ以降は物語上の主人公である寺田辰弥(てらだ たつや)の回想手記を公表しているという形になっている。そのためか探偵役の金田一耕助は、他の金田一ものの作品に比べるとやや出番が少ない。
また、映像化された回数は横溝作品の中で最も多い(2005年9月現在で9回)。だが登場人物が非常に多く人物相関が入り組んでるうえ、トリックが複雑で巧妙なこと等から、映像化作品はいずれも大幅な改編省略を余儀なくされており、特に里村典子(さとむら のりこ)はこの作品の事実上のヒロインであるにも関わらず、一部を除き削除(1951年の松田定次監督の映画版と1996年の市川崑監督の映画版に登場するのみである)されてしまっている。
田治見要蔵の殺人シーンはあまりにも衝撃が大きく横溝映像作品の中でも特に際立っている。それ故筋立ては知らなくてもこの場面だけ知っている人も多い。
[編集] メディア
[編集] 映画
- 片岡千恵蔵(金田一)、相馬千恵子(白木静子)、大友柳太郎(磯川警部)、植村進(辰弥)、御園裕子(春代)、信欣三(久弥)、毛利菊枝(小竹)、進藤英太郎(荘吉)、朝雲照代(美也子)、千秋みつる(典子)、千石規子(濃茶の尼)、戸上城太郎(森吉蔵)、原健作(笹塚英介)他出演。
- 「八つ墓村」最初の映画化作品。地方の旧家を舞台にした正統派のミステリとなっている。片岡演じる金田一はスーツ上下にソフト帽というダンディなスタイルで登場。
- 主演は萩原健一(寺田辰弥)。山崎努(要蔵・久弥)、小川真由美(美也子)、山本陽子(春代)、市原悦子(小竹)、山口仁奈子(小梅)、中野良子(鶴子)、加藤嘉(丑松)、井川比佐志(井川勘治)、浜村純(荘吉)、藤岡琢也(久野)、任田順好(濃茶の尼)、大滝秀治(諏訪)、夏純子(和江)、浜田寅彦(吉岡太一郎)、山谷初男(馬喰吉蔵)、綿引洪(矢島刑事)、下條アトム(新井巡査)、橋爪功(庄左衛門)、下條正己(工藤校長)、夏木勲(尼子義孝)、田中邦衛(落ち武者)、渥美清(金田一)、花沢徳衛(磯川警部)、風間杜夫、丹古母鬼馬二、吉岡秀隆(辰弥の少年時代)他出演。
- 事件を「祟りに見せかけた犯罪」ではなく「本当の祟り」として描き、純粋な恐怖映画へとアレンジした異色作。(クライマックスでは、原作最大の読みどころであった金田一による謎解きのくだりが省略され、迫力ある恐怖描写に替わっている)。また、舞台を昭和52年当時の日本へと移し、当時角川や東宝などでも撮られていた横溝作品と同様、失われゆく日本の風景や共同体へのオマージュ的作品となっており、暗闇を背景にした桜吹雪のなか、山崎努が扮する多治見要蔵が鬼気迫る形相で走る姿は代表的なシーンの一つである。映画のキャッチコピーに使用された濃茶の尼(こいちゃのあま)の台詞「崇りじゃ~っ!」が流行語になったことでも有名。岡山県の吹屋ふるさと村にある広兼邸で撮影された。
- 豊川悦司(金田一役)、浅野ゆう子(美也子)、岸田今日子(小竹・小梅)、高橋和也(辰弥)、岸部一徳(要蔵・久弥・庄左衛門)、宅麻伸(慎太郎)、喜多嶋舞(典子)、萬田久子(春代)、石濱朗(荘吉)、白石加代子(濃茶の尼)、神山繁(久野)、石橋蓮司(洪禅)、織本順吉(丑松)、鈴木佳(鶴子)、井川比佐志(諏訪)、西村雅彦(仙波清十郎)、石倉三郎(徳之助)、吉田日出子(ひで)、姿晴香(おきさ)、うじきつよし(千石巡査)、小林昭二(東坂工場長)、加藤武(等々力警部)他出演。
- 1970年代に数多くの金田一映画を手がけてきた市川監督による念願の八つ墓村の映画化作品。物語は簡素化されているが、原作に比較的忠実に描かれている。
[編集] テレビドラマ
- 主演:山本耕一(寺田辰弥) ※金田一は登場しない。
- 『横溝正史シリーズII・八つ墓村』(1978年、毎日放送)
- 出演:古谷一行(金田一耕助)、荻島真一(寺田辰弥)、鰐淵晴子(美也子)、中村敦夫(要蔵)、毛利菊枝(小竹・小梅)、松尾嘉代(春代)、神崎愛(鶴子)、北村英三(丑松)、白木万里(濃茶の尼)、永井智雄(久野)、内田朝雄(諏訪)、草薙幸二郎(慎太郎)
- 出演:古谷一行(金田一耕助)、鶴見辰吾(寺田辰弥)、夏木マリ(美也子)、ジョニー大倉(要蔵)、北城真紀子(小竹)、高橋扶美子(小梅)、浅田美代子(春代)、小沢幹子(鶴子)、浜村純(丑松)、戸浦六宏(久野)
- 古谷による再ドラマ化作品。原作に比較的近いが、物語の簡素化が激しい。
- 出演:片岡鶴太郎(金田一耕助)、岡本健一(寺田辰弥)、名取裕子(美也子)、平幹二朗(要蔵)、山口美也子(小竹・小梅)、寺島しのぶ(春代)、小松みゆき(鶴子)、朝比奈順子(濃茶の尼)、大杉漣(久野)、牧瀬里穂(落ち武者)
- 平幹二郎演じる田治見の殺人事件が32人ではなく8人に変更されている。
- 『金曜エンタテイメント・八つ墓村』(2004年、フジテレビ)
- 出演:稲垣吾郎(金田一耕助)、藤原竜也(寺田辰弥)、若村麻由美(美也子)、吹越満(要蔵)、江波杏子(小竹)、泉晶子(小梅)、りょう(春代)、中山忍(鶴子)、守田比呂也(丑松)、絵沢萌子(濃茶の尼)、浅野和之(久野)、笹野高史(諏訪)、永澤俊矢(慎太郎)
- 原作に比較的近い展開ながら、1977年の松竹版へのオマージュらしいオカルト風味も込められた1本。
[編集] ラジオドラマ
- 『灰色の部屋 八つ墓村』(1952年、NHKラジオ第2放送)
- 声の出演:石浜祐次郎(辰弥)、永田光男、渡辺富美子、吉川佳代子、天野さく、楠義孝、林舞子
[編集] 関連ドラマ
- エピソード1~3
- 村の名前、名前は六つ墓村、侍の関係性など八つ墓村を題材とした作品だが同一ではない。
[編集] 漫画
本作品の漫画との関係は横溝正史#経歴及び金田一耕助#漫画作品への登場に譲る。
- 少年誌で初めて取り上げられた劇画による金田一耕助シリーズの第1作目。その後、『悪魔が来りて笛を吹く』、『霧の別荘の惨劇』が続く。
- 『八つ墓村』:作画:JET、あすかコミックス、角川書店
[編集] CD
- 『CD 八つ墓村』:CDブック、角川書店、1996年
- 『八つ墓村』:東宝映画「八つ墓村」オリジナル・サウンドトラック