十二神将
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
十二神将(じゅうにしんしょう)は大乗仏教の信仰・造像の対象である天部の一。十二夜叉大将(じゅうにやしゃたいしょう)ともいい、薬師如来および薬師経を信仰する者を守護するとされる12の武神である。各神将がそれぞれ7千、総計8万4千の眷属夜叉を率いるという。 頭上には各十二支の動物を形どった標識を置くことが多い。日本では奈良・新薬師寺の等身大の十二神将像が、最古の作であるとともに造形的にも優れてたものとして名高い。
[編集] 概要
十二神将のそれぞれの名称と対応する十二支は次のとおりである(経典によって若干用字が異なるが、ここではもっとも一般的なものを挙げる)。
- 宮毘羅大将(くびら):子
- 伐折羅大将(ばさら):丑
- 迷企羅大将(めきら):寅
- 安底羅大将(あんちら):卯
- 頞爾羅大将(あにら):辰
- 珊底羅大将(さんちら):巳
- 因達羅大将(いんだら):午
- 波夷羅大将(はいら):未
- 摩虎羅大将(まこら):申
- 真達羅大将(しんだら):酉
- 招杜羅大将(しょうとら):戌
- 毘羯羅大将(びから):亥
上記12体の持物、ポーズ等は必ずしも統一されたものでなく、図像的特色のみから各像を区別することはほとんど不可能である。十二神将像は、中国では早くから制作され、敦煌壁画にも作例がある。中国では十二支と結び付けて信仰され、日本における作例にも頭上に十二支の動物を戴くものが多い。
日本では奈良時代(8世紀)の奈良・新薬師寺像をはじめ、数多く制作されている。多くの場合、薬師如来を本尊とする仏堂において、薬師如来の左右に6体ずつ、あるいは仏壇の前方に横一列に安置される。新薬師寺像のように円形の仏壇周囲をぐるりと取り囲んで配置される場合もあり、薬師如来像の光背や台座部分に十二神将を表す場合もあるなど、表現形態はさまざまである。
四天王像などと同様、甲冑を着けた武神の姿で表され、12体それぞれの個性を表情、ポーズなどで彫り分け、群像として変化をつけた作例が多い。
[編集] 日本における十二神将像の主な作例
- 国宝
- 新薬師寺像 (奈良県奈良市)― 塑造、奈良時代、12躯のうち11躯が国宝
- 興福寺東金堂像 (奈良県奈良市)― 木造、鎌倉時代
- 興福寺像 (奈良県奈良市)― 板彫、平安時代
- 広隆寺像 (京都府京都市)― 木造、平安時代
- 重要文化財(国指定)
- 法隆寺西円堂像 (奈良県生駒郡斑鳩町)― 木造、鎌倉・桃山時代
- 霊山寺像 (奈良県奈良市)― 木造、鎌倉時代
- 栄山寺像(奈良県五条市)― 木造、室町時代
- 室生寺像 (奈良県宇陀市)― 木造、鎌倉時代
- 東大寺像 (奈良県奈良市)― 木造、平安時代
- 法界寺像 (京都府京都市)― 木造、鎌倉時代
- 東寺像 (京都府京都市)― 木造(金堂本尊台座付属)、桃山時代
- 鶏足寺像 (滋賀県伊香郡木之本町)― 木心乾漆造、3躯のみ現存、平安時代
- 雪野寺(龍王寺)像(滋賀県蒲生郡竜王町)― 木造、鎌倉時代
- 浄妙寺像 (和歌山県有田市)― 鎌倉時代
- 東山寺像 (兵庫県淡路市)像 木造、平安時代
- 斑鳩寺像 (兵庫県揖保郡太子町)― 木造、鎌倉時代
- 雪渓寺像 (高知県高知市)― 木造、鎌倉時代
[編集] 陰陽道における十二天将
また上記の仏典とは異なり、陰陽師・安倍晴明が使役したと言われる式神
(陰陽道の占術・式占における十二天将)も、十二神将と呼ばれる。
≪十二将所主法第四≫
- 前一騰蛇火神 家在巳 主驚恐怖畏 凶将
(とうだ/とうしゃ):巳、丁、火(陰)、夏、南東
- 前二朱雀火神 家在午 主口舌懸官 凶将
(すざく):午、丙、火(陽)、夏、南
- 前三六合木神 家在卯 主陰私和合 吉将
(りくごう):卯、乙、木(陰)、春、東
- 前四勾陣土神 家在辰 主戦闘諍訟 凶将
(こうちん):辰、戊、土(陽)、土用、南東
- 前五青龍木神 家在寅 主銭財慶賀 吉将
(せいりゅう):寅、甲、木(陽)、春、北東
- 天一(天乙)貴人上神 家在丑 主福徳之神 吉将大无成
(きじん):丑、己、土(陰)、土用、北東
- 後一天后水神 家在亥 主後宮婦女 吉将
(てんこう):亥、癸、水(陰)、冬、北西
- 後二大陰金神 家在酉 主弊匿隠蔵 吉将
(だいおん/たいいん):酉、辛、金(陰)、秋、西
- 後三玄武水神 家在子 主亡遺盗賊 凶将
(げんぶ):子、壬、水(陽)、冬、北
- 後四大裳土神 家在未 主冠帯衣服 吉将
(たいもう/たいじょう):未、己、土(陰)、土用、南西
- 後五白虎金神 家在申 主疾病喪 凶将
(びゃっこ):申、庚、金(陽)、秋、南西
- 後六天空土神 家在戌 主欺殆不信 凶将
(てんくう):戌、戊、土(陽)、土用、北西
『名称参考:日本陰陽道史総説より』