大気圏再突入
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大気圏再突入(たいきけんさいとつにゅう)は宇宙船などが真空に近い宇宙空間から地球などの大気圏に侵入すること。単に再突入とも呼ばれる。宇宙飛行においては最も危険が大きいフェイズの1つである。
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[編集] 宇宙船の再突入
再突入の条件は非常に厳しく、適切な軌道離脱タイミングと降下角度(再突入回廊)で大気圏に突入する必要がある。タイミングが少しずれただけで着陸地点を大幅に外れるうえ、角度が浅いと大気に弾かれ、深いと速度が上がりすぎ空力加熱によって機体が破壊されるおそれがある。
再突入時の飛行速度は超高速(例えばスペースシャトルではマッハ20以上)になるため、衝撃波や大気との摩擦・断熱圧縮による空力加熱、熱圏の通過によって機体表面温度は1,500度以上となり、周りの空気がプラズマ状態となって明るく輝く。この高温に耐える熱防護システム (Thermal Protection System, TPS) が重要であり、熱容量の大きなポリカーボネートやフェノール樹脂の融解・蒸発により熱を吸収するものや、スペースシャトルの断熱セラミックスタイルといった耐熱シールドがある。
空気抵抗で減速し地上に接近するとパラシュートなどでさらに速度を落とし、着陸あるいは着水する。太平洋と大西洋に接しているアメリカではアポロ宇宙船やマーキュリー宇宙船にあるように主に着水を行い、接している海がほとんど北極海というロシア(及びソ連)ではソユーズにあるように地表近くで逆噴射ロケットにより着陸している(ガガーリンの乗ったボストークは逆噴射ロケットを持たず、パラシュートで減速後、戦闘機のように乗員を座席ごと船外へ射出していた)。
死亡事故としては、
- 1967年のソユーズ1号(パラシュートが開かず地面に激突、ウラジミール・コマロフ飛行士が死亡)
- 1971年のソユーズ11号(気密漏れのためゲオルギ・ドブロボルスキー、ウラジスラフ・ボルコフ、ビクトール・バチャエフが窒息死)
- 2003年のスペースシャトル コロンビア(打ち上げ時の断熱パネルの破損により再突入時に空中分解、乗組員7名全員が死亡)
があり、他にも耐熱パネルが外れかかる(マーキュリー6号)、帰還カプセルの分離失敗(ボストーク1号、ソユーズ5号)、予定外の場所に着地(平原のはずが森や湖)などの事故がある。
[編集] 弾道ミサイルの再突入
弾道ミサイルでは、弾頭(主に核弾頭)は先の尖った円錐状の耐熱カプセルである再突入体(Re-entry Vehicle、RV)に搭載される。再突入時の速度はIRBMでも秒速2km程度、ICBMであれば秒速約7km程度になるので、着弾までにRVの大部分が損耗し半球状になってしまう。なお、日本が耐熱タイル技術の開発に消極的だったのは、核ミサイル保有の疑いを減らすためであったといわれている。
[編集] フィクションにおける再突入
アポロ13号事故の史実を元にした映画『アポロ13』のみならず、宇宙旅行あるいは宇宙戦争が関係するフィクションでも、再突入はスリリングな場面として描かれる。
映画『007 ムーンレイカー』では1979年当時最新の宇宙船であったスペースシャトルが登場し、これによる大気圏再突入時の攻防がクライマックスで描かれている。
テレビドラマ『謎の円盤UFO』では、敵対的な宇宙人による月との連絡船の再突入の角度を狂わせるという妨害工作をめぐって、大気圏再突入のむずかしさだけで一回分のエピソードが作られた。
アニメ『機動戦士ガンダム』においても、同様な大気圏再突入の妨害工作をテーマに一回分のエピソードが描かれた(第5話:大気圏突入)。以後の作品群『ガンダムシリーズ』においても大気圏再突入寸前あるいはその最中における戦闘の描写は多用され、バリュートやウェイブライダーなどの突入用装備、大気圏突入の能力を持たない兵器や艦艇が地球に落下して燃え尽きるシーンなどが見られる。
また、川端裕人の小説『夏のロケット』では、民間企業による宇宙船の打ち上げが扱われているが、この中でも再突入時の耐熱対策はかなりのウェイトを占めている。