懲戒処分
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懲戒処分(ちょうかいしょぶん)とは、懲罰的な意味がある、職務上の処分のことをいう。
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[編集] 公務員における懲戒処分
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懲戒処分とは、職員に非違行為があったときになされる処分をいい、国家公務員法第82条及び地方公務員法第29条にその定めがある。
職員は、法律で定める事由による場合でなければ、懲戒処分を受けることはない。
任命権者は非違の程度や情状によって懲戒処分の内容を決定する。如何なる処分を選択するかについては、任命権者の裁量に委ねられている。 なお、一個の義務違反に対し、二種類以上の懲戒処分を併課することはできない。
[編集] 懲戒処分の種類
- 職員に対する制裁として、職員の意に反してその職を失わせる処分をいう。
- 停職
- 一定期間、職務に従事させない処分をいう。
- 減給
- 職員に対する制裁として一定期間、職員の給与の一定割合を減額して支給する処分をいう。
- 戒告(譴責:けんせき)
- 職員の服務義務違反の責任を確認し、その将来を戒める処分をいう。
[編集] 国家公務員法における懲戒処分
[編集] 対象事由
- 国家公務員法若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令に違反した場合
- 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
- 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
(国家公務員法第82条第1項)
[編集] 地方公務員法における懲戒処分
[編集] 対象事由
- 地方公務員法若しくは同法第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
- 職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合
- 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合
(地方自治法第29条第1項)
[編集] 懲戒処分と刑罰
日本国憲法第39条に定める二重処罰禁止の規定との関係から、懲戒処分と刑罰を併せて科すことができるかが問題となる。 この点について、懲戒処分は任命権者の懲戒権にもとづく行政内部の処分であり、国家の一般的統治権に基づき公共の秩序維持のために科する刑罰とは目的を異にしているため、懲戒処分と刑罰を併課することは差し支えないとされる。 このことは、国家公務員については国家公務員法第85条に明記されており、また地方公務員については地方公務員法上に明文の規定はないものの、国家公務員における扱いと同様と解しうるとされる。
- 国家公務員法第85条(刑事裁判との関係)
- 懲戒に付せらるべき事件が、刑事裁判所に係属する間においても、人事院又は人事院の承認を経て任命権者は、同一事件について、適宜に、懲戒手続を進めることができる。この法律による懲戒処分は、当該職員が、同一又は関連の事件に関し、重ねて刑事上の訴追を受けることを妨げない。
[編集] 懲戒処分と分限処分
懲罰的な意味合いをもつ懲戒処分とは異なり、公務の効率性を保つことを目的として行なわれる処分として分限処分がある。
懲戒処分と分限処分の両方の適用が可能な場合においては、(例えば免職であれば、どちらの処分によるかで退職手当の扱いなどが異なることから)その選択は任命権者の裁量により、個々の事案に即して適切に判断されるべきものである。
前述のとおり懲戒処分と分限処分は目的が異なることから、同一の事由について両者を併せて行うことは、いずれかの処分により職員の身分が失われない限り、可能である。
[編集] 懲戒処分と失職の違い
職員が法で定める欠格条項に該当することになったときは、人事院規則又は当該地方公共団体の条例に定める場合を除いて、任命権者の何らの処分を要することなく、当然に失職する。この意味で失職は、任命権者の処分に基づく懲戒処分(免職)とは異なる。
[編集] 懲戒処分の効力など
懲戒処分は、それが適法かつ有効に成立した後は、法令により変更が認められている場合及び公益上その効力を存在させることができない新たな事由が発生した場合でなければ、その効力を消滅させることはできない。 すなわち、処分権者といえども、懲戒処分を自ら取り消したり、あるいは撤回することはできないのである。
懲戒処分の変更または取消を求めるには、例えば地方公務員であれば人事委員会または公平委員会に対して、不利益処分に関する不服申立てを行いその裁決・決定を求めることが必要である。 その裁決・決定に不服がある場合は、裁判所に出訴することができる。
また、公務員等の懲戒免除等に関する法律に基づく免除の発動により、懲戒処分が免除されることがある。
[編集] 裁量権と司法審査
前述のとおり、非違行為のあった職員に対して如何なる懲戒処分を行うかは任命権者の裁量にゆだねられているところであるが、前述の不服申立て後に裁判所に出訴した場合、任命権者の裁量権(行政裁量)に対して司法審査(合法・違法の審査)がどの程度及ぶかが問題となる。このことについて、争議行為禁止規定違反等を理由として、税関職員で組合幹部である3名を国家公務員法第82条1号・同3号に基づき懲戒免職としたことに対して、同3名からなされた当該処分の無効確認及び取消訴訟に対する判決(最高裁判所昭和52年12月20日第三小法廷)において、最高裁は次のように説示し、「処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を乱用したと認められる場合に限り違法であると判断すべき」とした。
- 「懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、都下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故、公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。」
[編集] 民間企業における懲戒処分
民間企業においても、公務員の規定に準じて、上記4つが懲戒処分とされている。ただし、公務員と違って民間では懲戒免職という言葉は用いず、代わりに懲戒解雇と呼ばれる。
[編集] 法律上の意味
懲戒処分は、法律で定められた処分であるから、事務手続きが必要であり、処分の履歴として残る。従って、懲戒処分を受けたことのある者は、履歴書の賞罰欄に、その旨を記載しなければならない(これは明確な誤り。「前科及び犯罪経歴は人の名誉・信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と判示した有名な最高裁判決があり(最判昭和56年4月14日)、自ら過去の前科等を開示することを強制されないということをも含むことは当然である。)。ただし、諭旨免職は法律に定められた処分ではないので、記載の必要は無く、処分した側の記録にも残らない。
[編集] 経済上の損失
懲戒免職の場合、ほぼ退職金などは支給されない。また停職の処分には、停職時期の給与がカットされる。減給は一定割合の賃金を一定期間カットされる。戒告などの処分でも昇給時期の延伸(通常12ヶ月の昇級を3ヶ月遅らせる)などの懲罰が伴う場合がある。
[編集] 懲戒処分でない処分
これに対して、法律上の処分とならない、比較的軽い処分が実務上、行われている。一般には次の3つがある。
- 訓告(訓諭)
- 厳重注意
- 口頭注意
※上ほど重く、下ほど軽い処分である。
これらの処分は、懲戒処分ではないから、履歴書の賞罰欄に記載する必要はない。また経済的な損失も伴わない場合が多い。
[編集] 学校における懲戒処分
校則に違反した者に対し行われる懲戒処分については、学校・設置者によって異なるが、主に次のようなものがある。
ただし、体罰は学校教育法(昭和22年法律第26号)第11条により禁止され、体罰を加えた職員は逆に懲戒処分の対象となる。