薬草
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薬草(やくそう)は、製薬原料として利用される植物の総称である。外傷の手当てなどから、病気の治療、体質の改善、染料、香料や化粧品としても使われている。香料に利用されるものには、ハーブと呼ばれるものも含まれる。
薬草は昔から、病気、怪我の治療薬として多く用いられてきた。そのような伝統は世界中、どこの民族にもあり、漢方でいう本草学は、その薬草の使用法についての知識の集大成である。
ヨーロッパでも同様の知識を社会のために活用するということがなされた。中世末期にはさまざまな魔女や聖女と呼ばれた人たちによって行われ、また修道院でもこうした薬草から治療薬を精製したり、薬草を酒に漬け込んで薬として供するということが盛んに行われた。そして、その薬草治療法がヨーロッパから世界へ広まっていったものもある。だが、医療法が進歩するにつれ、薬草治療法を利用することは減っていった。
南米アンデスでは呪術師が薬草を使い、医師の役割も果たしてきた(→呪術医)。ボリビアのカリャワヤが有名で、彼らの持つ世界観は2003年に「人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言」(世界無形遺産候補)に選ばれている。
最近では薬草治療が徐々に見直されるようになっている。現代の医学や化学によって改めて分析や効果の検討が行われ、その結果新たな薬品が発見された例も数多い。そのような成果を求めて、積極的に世界の伝統的な薬草の研究を行う製薬会社もある。しかし、薬草に含まれる化学物質は、往々にして複雑で、複数の成分が関与していたり、それらが互いに関係しあっていたりするため、解析が困難な場合も多いという。また、ある症状に効能があると信じられていた薬草において、成分分析の結果その薬効が医学的に認められないということが判明する場合もある。
また、現代の医療では治療が困難、あるいは不可能な症状に対して、最後の頼みの綱として薬草が求められる場合もある。「末期ガンに効く」薬草やキノコというのはその代表的な例である。先述のように、薬草には分析困難な成分があるなど、科学的には理解できなくても効果そのものはある可能性があるためであり、事実、効果が上がったという話は枚挙にいとまがない。そこから新たな薬品を探す研究も行われることがある。ただし、実際には上がった効果の原因はプラシーボ効果である可能性も考えなければならない。
そのあたりの危うさにつけ込んだ悪徳商法、あるいはその可能性のある商売も時折出現する。また、その医学的な証明ができないまま薬効を宣伝して商品を販売すると、薬事法違反となるので注意すること。
なお、動物がこのような効果を求めて使われる例は、植物に比べるとはるかに少ない。一般に、植物の方が動物よりもこのような生理的に特別の作用を示す物質を持つ例が多い。食べると効く毒のある動物より、有毒植物が多いのもその例である。これは、植物は動物に食われるが、逃げるなどの防御ができないため、化学物質の生産をそれに代わる手段として発達させたものと考えられる。これを化学防御と呼ぶこともある。