血糖値
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
医療情報に関する注意:ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
血糖値(けっとうち)は、血液内のブドウ糖(glucose)の濃度である。人間は、血糖値を下げるインスリン、血糖値をあげるグルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモンなどといったホルモンにより、血糖値を非常に狭い範囲の正常値に保っている。
健常なヒトの場合空腹時血糖値はおおよそ80-100mg/dl程度であり、食後は若干高い値を示す。
目次 |
[編集] 血糖調節メカニズム
血糖値は、通常の状態では血糖を下げるインスリンと血糖を上げるグルカゴンの作用によって調節されている。食事後血糖値が上昇すると、グルコースはGLUT2またはGLUT1トランスポーターを通って膵β細胞に流入する。グルコキナーゼ(膵β細胞と肝臓にしか発現しない)の作用によりグルコースがグルコース6リン酸になると、細胞内にカルシウムイオンの流入が起こりインスリンが放出される。
インスリンの血糖降下作用は三つの経路による。
- インスリンは肝臓でのグリコーゲン産生とグリコーゲン分解の双方を抑制する。
- インスリンは骨格筋と脂肪組織でのグルコースとりこみを促進する。(グルコーストランスポーターの動員による)
- インスリンは膵α細胞に入って直接グルカゴンの産生を抑制する。
[編集] 高血糖
人間は、というより生物は歴史的には現在の日本人のように「食べ過ぎてしまって困る」というような環境におかれたことはほとんどないものと考えられる。その証拠に、食べ過ぎてしまって血糖が上昇してしまうことに対する防御機構を、人間はほとんど備えていない。たとえば糖がたっぷりのペットボトル飲料を毎日毎日大量飲むというだけのことで、容易に糖尿病性ケトアシドーシスのような生命の危機に及ぶ重篤な疾患をおこしうる(ペットボトル症候群)。
冒頭に述べたように、血糖値が高くなったとき、それを調節するホルモンはインスリンである。このたった一つの調節メカニズムが破綻した場合、糖尿病を発症することになる。低血糖における四重の回避メカニズムとは対照的である。破綻の仕方には二種類あることがわかっている。
[編集] 尿糖
血糖値がおおよそ180mg/dlを越えると、腎の尿細管でブドウ糖の再吸収が追いつかなくなるため尿に糖が排泄されるようになる。すなわち尿糖は糖尿病の原因ではなく結果である。余談になるがスクロースで180g程度以上を一度に摂取すると健常人であっても一過性の糖尿を生する。この量は、食品成分表のコーラ・缶コーヒー等に示される量を基にすると2.5リットル前後の量(約1100kcal)に相当する。
[編集] 低血糖
極度に食事を取らなかったり、糖尿病の薬を飲みすぎたり、特別な病気があると低血糖症を引き起こす。
人間は、というより生物は歴史的に高血糖よりは低血糖による死亡の危機にさらされることのほうが多かったと思われ、それを反映し人体も高血糖のときと比べて低血糖の時には二重、三重の回避システムを用意している。まず血糖値が約80mg/dLをきると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が極端に低下する。次に約65-70mg/dLに低下すると、血糖値を上げるホルモンであるグルカゴン、アドレナリンが大量に放出され始める。さらに約60-65mg/dLに低下すると、三番目の血糖値を上げるホルモン、成長ホルモンが放出される。最後に60mg/dLをきるようになると、最後の血糖値を上げるホルモン、コルチゾールの分泌が亢進する。
血糖値が50mg/dlを下回ると、大脳のエネルギー代謝が維持できなくなり、精神症状をおこしはじめ、さらには意識消失を引き起こし、重篤な場合は死に至る。しかし上記のような回避システムが血糖値50mg/dLにいたるのを防いでいるため、通常は低血糖症になっても意識に異常をきたすには至らない。そのかわりとして、アドレナリンが大量放出されることに伴い交感神経刺激症状があらわれる(低血糖発作の症状はこれによる)。すなわち大量の冷や汗、動悸、手のふるえ(振戦)、そして「死ぬかもしれないという恐怖感」である(通常交感神経は、特に動物などでは戦闘状態や死の危険がある状態で最大限に発動する。低血糖におけるアドレナリン放出はそういった状況ではないけれども、同じホルモンが放出されることで現在そういった状況であるということを脳が認識するために必要な恐怖感を発生させているとも考えられる。あるいはやはり歴史的には低血糖こそが人体にとって命の危険を覚えるべき状況であったことの名残かもしれない)。
ところで、これらの低血糖回避メカニズムは、脳が低血糖状態を検出し、血糖を上げるホルモンを動員するよう命令することで開始される。糖尿病治療中やインスリノーマのような疾患などで低血糖症を頻発すると、脳はあまりに頻回に低血糖状態を検出するために疲れてしまい、ある程度の低血糖症では回避システムを働かないようにしてしまう(正確に言うと、低血糖を感知する領域ではGLUT1トランスポーターが細胞外のグルコースをそのまま取り込むことによって血中グルコース濃度をモニターしているが、低血糖を頻回に起こすとこのGLUT1トランスポーターの転写が低下しダウンレギュレーションをおこす)。したがって、50mg/dLをきっても発動しないようになると、低血糖発作をおこさないまま精神の異常がはじまる。10-20mg/dLをきっても発動しなくなると、低血糖発作をおこさないまま意識がなくなり死亡することもある。
逆に管理がうまくいっていない糖尿病患者などにおいては、脳はあまりに高血糖状態が続くためまひしてしまい、100mg/dL前後のような普通は低血糖とはみなされないような糖濃度でも低血糖発作をおこしてしまう(正確には、脳のGLUT1トランスポーターがアップレギュレーションしているため)。
低血糖症は、空腹時低血糖と食後低血糖に大きく分けられ、その分類法は診断に大いに有用である。
[編集] 空腹時低血糖
- 症状
- 代表的な原因
- 緊急対応
[編集] 食後低血糖
- 胃切除後、ダンピング症候群などでみられる。
- 糖尿病のごく早期には、あまりに高い血糖値を下げようと大量にインスリンが分泌され、かえって低血糖症をひきおこすことがまれにある。
[編集] 疾患としての“低血糖症”
糖分の摂取過多や栄養素の偏りなどが引き金となって、さまざまな精神的・肉体的不調が引き起こされることがある。
砂糖を多く含むものやぶどう糖への変換が早い炭水化物食品(砂糖を多く含むペットボトルの清涼飲料、小麦が原料のお菓子、白米、白パン等。GI値が高いもの全般)を継続して多く摂取しつづけると、膵臓のインスリン分泌のコントロールに異常が発生し、低血糖が頻繁に起こることがある。これは糖尿病の有無に関係なく症状が起こる。
特に甘いものや炭水化物がコンビニ等で簡単に手に入る現在、潜在的な患者数はかなり多いと言われるが、研究が進んでおらず、治療や症状に詳しい医師が少ないのが現状である。どんぶり物のような白米が多い食品や、ラーメン等の消化の早い炭水化物も継続して多く食べ続けると低血糖症の原因となる。お菓子やジュースだけが原因ではないことに注意。また、胃下垂症、貧血、先天的糖尿病体質、アレルギー体質などのある人は、低血糖症を発症しやすい。
インスリン分泌のコントロールが乱れるという点では、糖尿病と同じ範疇に入る病気とも言える。
インスリン分泌のコントロールが乱れ低血糖を起こすと、続いてアドレナリンやノルアドレナリンの分泌も乱れる。症状に疲労感、ふらつき等があるため、自律神経失調症等の診断を受けたり、鬱やパニック発作、精神不安定等の症状が出るため、精神系の薬を処方されてしまうこともある。多くの医者は低血糖について詳しくないため、原因が低血糖であると診断されることは少ない。
幼児期から発症しているケースでは、本人の自覚があまりないままに、だるい、集中力がない、ムラ気、落ち込み、キレやすいなどの症状が現れるため、周囲から低い評価を受けてしまうことがある。
[編集] 反応性低血糖症
食事等で糖となるものを摂取した時、急激に血糖値が上昇したあと、ごく短時間で標準値未満まで一気に血糖値が下降し、この時にさまざまな症状がでるのが反応性低血糖症である。
[編集] 無反応性低血糖症
糖負荷検査で30分おきの採血検査を行なっても、採血の間隔より短い時間のうちに血糖値の上下を頻繁に繰り返している。 血糖値の変動がグラフ化した際に一見平坦な曲線で現れるため、無反応性低血糖症と呼ばれる。慢性疲労症候群やうつ病に診断されることがある。反応性低血糖症より重症であることが多く、自殺観念を持つこともある。
- 検査
- 5時間糖負荷検査が必要である。特に血糖値の下降は2時間以上たってから起きる場合が多いので、一般的な2時間で行われる糖負荷検査では低血糖症は発見できない。また通常の血液検査で発見することは難しい。これは、血糖値の低さそのものよりも血糖値の急激な下降が原因のひとつだからである。
- 症状
- 強い疲労感、日中特に昼食後の眠気、集中力の低下、物忘れ、めまい、眼のかすみ、呼吸の浅さ、ふらつき、日光が眩しい、甘い物への渇望感、胃腸が弱い、口臭、失神発作、偏頭痛、鬱病・パニック発作など多岐。糖がエネルギーとして燃焼されにくくなるため、肥満ぎみになることがある。低血糖症であると副腎も酷使されるので、副腎が抗アレルギー作用をもつホルモンを十分に作れなくなり、アレルギーが起こりやすくなることがある。
- すべての症状が発生するわけではない。
- 対処
- ぶどう糖を摂取すれば一時的に症状を抑える事が出来る。緊急の場合はこれで対処する。治療には糖尿病と同様に、食生活を改善する必要がある。十分な睡眠や適度な運動も症状の改善に重要である。
低血糖症の詳細、治療に関しては以下が詳しい。
カテゴリ: 医学関連のスタブ項目 | 診断と治療