韓国における漢字
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
韓国における漢字(かんこくにおけるかんじ)では、韓国で使用される漢字について総合的に説明する。韓国で使用される漢字のことを韓文漢字ともいう。これは繁体字(日本でいう旧字体)に近い。
漢字 | |
---|---|
{{{picture-type}}} | |
{{{caption}}} | |
各種表記 | |
ハングル: | 한자 |
漢字: | 漢字 |
平仮名: (日本語読み仮名): |
{{{hiragana}}} |
片仮名: (現地語読み仮名): |
ハンチャ |
ラテン文字転写: | {{{latin}}} |
ローマ字転写: | Hanja |
朝鮮語の語彙には固有語と中国語経由の漢語があるが、漢字は漢語にのみ使われる。ただし、その使用頻度は高くなく通常はハングルのみで表記される。これはハングルが日本語の仮名と違って二音を一字で表記できるため、表記の際にその必要度が少ないためである。漢字教育は世代によって異なっており、漢字を読めても書けない人が多い。
目次 |
[編集] 字音
漢字語は中古音の入声の体系を残している。ただし、破裂音tは流音lに変化している。一il、八pal。母音に関して中国語で二重母音であるものがすべて単母音化している。例:愛ai→ae[ɛ]。
また朝鮮語は置かれた場所や周囲の音節との関係で発音が変化するが、韓国においては漢字語には特に次のような規則がある。鼻音nで始まる字音が母音iや半母音yを伴う語は語頭においてnが脱落するという頭音規則がある。例えば、少女はソニョであるが、女子はニョヂャではなくヨヂャである。また朝鮮語では流音が語頭に立たないため、語頭で流音lが鼻音nとなる頭音規則がある。例:楽園ラグォン→ナグォン、老人ロイン→ノイン。この規則にはさらに母音iや半母音yの前では、上記のn頭音規則が適用され、子音が脱落する。理由リユ→ニユ→イユ、李リ→ニ→イ、旅行リョヘン→ニョヘン→ヨヘン。
朝鮮民主主義人民共和国における朝鮮語には上記規則はない(朝鮮民主主義人民共和国成立後に、上記規則を適用しない発音を学校教育を通じて広めたため)。
[編集] 字体
韓国では、日本語のいわゆる旧字体、中国での繁体字が使われている。ただし、その本字・俗字の認定には中国や日本と異なる場合がある。例えば、ペ・ヨンジュンのぺは韓国では「裵」を本字とするが、中国・日本では「裴」を本字とし、「裵」を異体字としている。
[編集] 国字
国字 | ハングル表記 |
---|---|
乫(「加」の下に「乙」) | 갈 (gal) |
乭(「石」の下に「乙」) | 돌 (dol) |
乶(「甫」の下に「乙」) | 볼 (bol) |
乷(「沙」の下に「乙」) | 살 (sal) |
畓(「水」の下に「田」) | 답 (dap) |
伽(人偏に「加」:伽) | 가 (ga) |
「乙」はハングルのㄹに形が似ているので、既存の漢字(多くは意符になる)の下部に置き、その字音の音節末に /l/ 音を付加する(結果、/l/ 音で終わる単音節固有語で読まれる)という造字法が行われた。
[編集] 漢字を要素とする語彙の日本との違い
韓文漢字のボキャブラリーのうち、伝統的な語彙の大部分は、中国の漢字から輸入されたが、一部は韓国で作成されたものもある。
また、多くの科学技術用語は、明治時代以降に英語やドイツ語などの西洋語に対応させて日本で作られた和製漢語が輸入されている (最新技術に対する朝鮮語(韓国語)が存在しない為、一度、日本語に訳した後で朝鮮語に訳す必要がある)。日本語からの借用は韓国独立後も続いている。粗製濫造された語彙は、日本語だけでなく、韓国語でも大量の同音異義語を生み出した。
中央日報・朝鮮日報などの新聞・雑誌を見ると分かるが、最近の韓国では「漢字」を用いる機会が少ない。いわゆる「愛国教育」の一環として、ハングル(朝鮮文字)を優先して用いる事を推奨している。漢字の読み書きが出来る韓国人は少数派になっている、実質上の漢字全廃政策が進んでいる。漢字の全廃を愚民化政策と批判する少数の関係者も居る。
[編集] 中国や日本との漢語表記の差異
日本語 | 朝鮮(韓国)語 | ハングル表記 | 中国(北京)語 |
---|---|---|---|
手紙 | 片紙 | 편지 (pyeonji) | 信 |
塵紙 | 休紙 | 휴지 (hyuji) | 草紙 |
贈り物 | 膳物 | 선물 (seonmul) | 贈品 |
勘定 | 外上 | 외상 (oesang) | 帳單 |
食卓 | 食卓 | 식탁 (siktak) | 餐桌 |
小切手 | 手票 | 수표 (supyo) | 支票 |
名刺 | 名銜/啣 | 명함 (myeongham) | 名片 または 咭片 |
女中 | 食母 | 식모 (singmo) | 女傭 |
禁止、取消 | 禁止, 取消 | 금지 (geumji) または 취소(chwiso) | 禁止, 取消 |
勉強 | 工夫 | 공부 (gongbu) | 學習 |
大変 | 大端 | 대단 (daedan) | 非常 |
囚人 | 罪囚 | 죄수 (Joesu) | 囚犯 |
脇部屋 | 舍廊, 斜廊 | 사랑 (sarang) | 側房 |
収賄 | 收賂 | 수뢰 (suroe) | 受賄 |
贈賄 | 贈賂 | 증뢰 (jeungnoe) | 行賄 |
- 参考
- 名刺は韓国語では「生徒・会社員などが身分を証明するために胸に着けるもの」の意味。
- 非常は韓国語でもありますが日本語の「非常に」と同じ意味ではなく「ただ平凡ではない状態」の意味。
- 「收賂」・「贈賂」は現代韓国語にはあまり使われない。その代わりに「뇌물수수(賄物收受)」, 「뇌물증여(賄物贈與)」という表現を利用。なお、수뢰の同音異義語では水雷(魚雷)がある。
[編集] 日本語の訓読みの熟語由来のもの
日本語 | 朝鮮(韓国)語 | ハングル表記 |
---|---|---|
合気道 | 合氣道 | 합기도 (hapgido) |
組み立て | 組立 | 조립 (jorip) |
大売り出し | 大賣出 | 대매출 (daemaechul) |
建物 | 建物 | 건물 (geonmul) |
見積もり | 見積 | 견적 (gyeonjeok) |
株式 | 株式 | 주식 (jusik) |
試合 | 試合 | 시합 (sihap) |
取り消し | 取消 | 취소 (chwiso) |
手続き | 手續 | 수속 (susok) |
[編集] 朝鮮語独自の漢字語
朝鮮語に、中国熟語を簡化。日本語にもある語については、日本語での意味も記した。
中国語 | 日本語 | 朝鮮(韓国)語 | ハングル表記 | 由来 | 日本語での意味 |
---|---|---|---|---|---|
催促 | 催促 | 促求 | 촉구 | ? | 促すこと |
真心 | 真心 | 精誠 | 정성 | 精誠所至,金石為開 | 真心を尽くすこと。 |
争論 | 論議 | 論難 | 논란 | ? | ? |
また、韓国においては、セクハラを「성희롱」というが、これは性愚弄を読んだものであり、近年においても漢字をベースに新しい単語が作られている例があることも無視できない。
[編集] 六十年文字戦争
李氏朝鮮時代には、漢字の知識の有無が知識人と大衆を分け隔てる一線とされた。李朝末期に一部の民族主義団体がハングル振興運動を起こしたが、日韓併合により運動の幕を下ろした。
日本統治時代には総督府の朝鮮教育令により週に数時間朝鮮語の授業が設けられ一定の普及が見られたが、国語国字として扱われたわけではなかった。
独立後は、日本統治時代に漢字を使用していたことや、中華帝国による古代からの冊封体制への不満といったナショナリズムの台頭により、漢字を排斥し、国語をハングルのみで表記しようとする機運が盛り上がった。1948年施行の「ハングル専用に関する法律」(略称:ハングル専用法)により、漢字廃止に法的根拠が付与される。「大韓民国の公文書はハングルで書く。ただし、当面の間、漢字を括弧に入れて使用することが出来る」が法律の全文だが、公文書の定義も当面の間の定義もなく、施行規則もなく、違反者に対する罰則規定もないこの法律は、法律でなく宣言文だと解釈する法律家もいる。
李承晩の時代には、小学校段階から漢字教育が行われたが、朴正熙は漢字廃止に傾斜を強め、1970年には漢字廃止宣言を発表、普通教育での漢字教育を全廃した。しかし言論界を中心に全廃への反対が強く、1972年には漢字廃止宣言を撤回し、中学校及び高等学校の「漢文」教育を復活させた。が、あくまで選択科目であり、受験にもほとんど関係がなく、実社会でもほとんど使用されない漢字は、学生たちの学習動機を惹起しなかった。また小学校での漢字教育は禁止され、児童に個人的に漢字を教えた小学校教員は、国策に協力しない者として懲戒免職などの重い処分を受けた。
1980年代半ばから、韓国の新聞・雑誌も、次第に漢字の使用頻度を落とし始めた。漢字教育をほとんど受けていない世代(ハングル世代)が多数を占め、漢字を使用した出版物が売れなくなったためである。漢字の使用を禁止するのではなく、漢字教育を禁止することにより、一世代かけて漢字を安楽死させようとしたのがハングル専用派の作戦だった。実際、一漢字が一音節である朝鮮語にあっては、ハングル専用でも日本語における平仮名専用のように長くならないので、漢字廃止は可能かと思われていた。
しかし、朝鮮語の単語のおよそ8割は漢字語であるため、ハングルで書かれた漢字語を文脈で理解するのは非能率的であり、また、抽象的な学術用語を漢字を念頭に置かずに正確に理解することは困難である。そのような事情により、漢字を知らない世代がほぼ完成した1990年代後半から、皮肉にも漢字復活を求める声が勢いを増し、1998年に当時の大統領金大中が漢字復活宣言を発表した。このとき道路標識や鉄道駅(韓国国鉄はそれ以前から駅名表示は漢字併記であった。)、バス停留所の漢字併記が大統領の指示で実現した。しかしハングル専用派の抵抗も根強く、小学校での漢字教育義務付けや若年層での漢字使用日常化は実現されなかった。このため現在にいたるも、漢字の必要性を感じる韓国の国民は自己負担で子供を漢字塾に通わせている。
ハングル専用派の主張は、従来「漢字語をなくすのではなく、漢字語もハングルで書こうと言っている」(中心はハングル学会)というものであったが、最近は「全ての学術用語を固有語に翻訳しよう」という内容に変わっている(国語純化運動)。漢字復活派が「漢字教育を確実に行えば、全ての学術用語は見ただけで理解できる」と主張するのに対し、ハングル専用派は「学問の内容全体を把握していれば、漢字を知らなくても学術用語の意味は理解できる」と反論し、一歩も譲る気配を見せていない。ちなみに、ハングル専用派も、中国の四字熟語や故事成語などは、漢字を知らなければ理解できないと認めてきた。
ハングル専用か漢字混用か。世論調査でも国論を二分している韓国にあっては政治家も争点にすることに難色を示す。独立以来続いているこの論争を韓国では「60年文字戦争」と呼ぶ。
2005年現在、李在田の死去により漢字復活運動の力が衰えたこともあり、ハングル専用派が巻き返しを見せている。漢字混用の法律のハングル翻字が推進され、道路標識の漢字が中国人対象の簡体字に限定され、バス停留所の漢字併記も中止されている。他方で韓国人の中では国際競争力の面から漢字教育を肯定的にとらえる意見もある。漢字が読み書きできれば、中国とはもちろん、日本・台湾・シンガポールなどで筆談によるコミュニケーションが可能であり、東アジアでの共通語である漢字を捨てることは国際競争力を弱めるという主張である。こうした観点から、就職試験に漢字を課す企業が増えてきている。
[編集] 関連項目
- ハングル
- 和製漢語
- 繁体字
- ハングル学会
- 全国漢字教育推進総連合会(韓国の漢字推進派団体)
- 国語国字問題
- ウリ党:党名がハングル
- ハンナラ党:党名がハングル
- 光化門:ハングルの扁額が漢字に変更されることに