アムダール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アムダール(Amdahl Corporation)は、1970年、IBMの元従業員ジーン・アムダール博士が設立した企業。IBMメインフレームの互換コンピュータを製造した。1997年以降、富士通の完全子会社である。本拠地はカリフォルニア州サニーヴェール。
アムダールは大型汎用機の主要供給業者であった。後にUNIXなどオープンシステムソフトウェアとサーバ、ストレージサブシステム、データ通信製品、アプリケーション開発ソフトウェア、各種教育およびコンサルティングなどを商品としている。1970年代、IBMはメインフレーム市場をほぼ独占するようになり、アムダールはプラグ互換で低価格のマシンで「ビッグブルー」にある程度対抗した。事情通のIBMの顧客はIBMのセールスマンが来たときにアムダールのロゴ入りマグカップをわざと持たせて楽しんだという。
目次 |
[編集] 設立当初
アムダール社の最初の製品は1975年の Amdahl 470 V6 で、当時のIBMのハイエンドシリーズSystem/370に対抗したものである。IBMにいたころ、ジーン・アムダールはSystem/360の設計チームにいた。System/370はその後継である。登場した当時、470 V6 は低価格で高性能であった。その後の四半世紀、アムダールとIBMはハイエンドサーバ市場で熾烈な争いを繰り広げてきた。アムダール社は最大で24%の市場シェアを握ったことがある。アムダール社の成功の影にはIBMと米国司法省の間の独占禁止法違反の裁判がある。その裁判のおかげでアムダール社の顧客はIBMのメインフレーム用ソフトウェアを妥当な条件で使用できたのである。
ジーン・アムダール博士は70年代後半から80年代初期にかけて、シングルプロセッサのメインフレームの能力向上を約束した。アムダール社の技術者は富士通の回路設計者と共同で、高速ECLチップを独自の空冷方式で冷却する方式を開発した。オートバイのエンジンの周りにあるひれのようなヒートシンクがチップの上に置かれたものである。これを 11×11個配列したものを Multi-Chip Carriers (MCCs)と呼び、これをシステム内の空気の流れを考慮して配置した。当時のアムダール社のシステム(470 と 58x0)は空冷式で、IBMのような冷却水の配管が不要だった。MCCsは大型の矩形フレームで水平に設置された。MCCsは複雑な物理配線システムに接続され、プロセッサの「サイドパネル」と接続された。全体としてクロック伝播遅延を考慮して同期させ、非常に高クロックで動作可能となっている(クロックサイクル15~18ナノ秒)。筐体には高速ファンが装備され、MCCsに対して水平な気流を発生する。
アムダール社のシングルプロセッサシステムの追加機種として Amdahl 470 V7 と V8 がある。V8 は 1980年に登場し、ページングを補助する高速な64Kバッファを装備し、初めてのハードウェアによるVMサポート機能 Multiple Domain Facility に基づいている。ジーン・アムダールが去り、富士通の影響が増大すると、アムダール社は80年代中ごろに(それまでのシングルプロセッサへの固執を捨て)マルチプロセッサシステム 5860 および 5880 を登場させた。
起業家ジーン・アムダールは、自らの設立したこの会社を1980年に去り、新たな会社をいくつか興している。
[編集] 市場からの撤退
アムダール社が最も調子が良かったのは、IBMがCMOS技術への転換を行った1990年代前半であろう。IBMの最初のCMOS版メインフレームは従来のバイポーラ技術と比較してコストパフォーマンスが全く改善されておらず、アムダール社が一時的に技術的優位に立った。しかし、IBMのCMOS戦略は徐々に技術的に円熟し、低コストで高性能なメインフレームを生産できるようになっていった。2000年にIBMが64ビットの zSeries 900 を発表したとき、アムダール社のハードウェアビジネスは事実上終わった。彼らには 31ビットアドレスの Millennium と OmniFlexサーバしか売るものがなかったからである。2000年後半、富士通/アムダールは IBM互換の 64ビットシステムを開発する計画がないことを発表した。
歴史的に、富士通/アムダールの決断が正しかったかどうかは不明瞭である。他のサーバプラットフォームとの激しい競争にも関わらず、IBMの zSeries はLinuxの利用やインターネットの成長に伴うトランザクションの増加に対応するシステム(CICS、IMS、DB2などのサブシステム)として採用され続けている。zSeries は価格が低下しているにも関わらず販売金額が増え続けているのである。2005年終盤、富士通はEDS社との提携を発表し、PRIMEQUESTを日本以外で販売すると発表した。これはIBMのメインフレームとは全く互換性はない。
[編集] アムダール社の顧客の選択肢
z/OS 1.5 は 31ビットメインフレーム上でも動作するIBMのオペレーティングシステムとしては最新のものであり、アムダール社のマシンでも動作する。IBMは z/OS 1.5 のサポートを2007年3月31日で終了することを発表済みである。2006年5月、IBMは新たな z/VSE Version 4 を発表し、64ビットのみで動作する(つまり31ビットシステムのサポートが近く終了する)ことを示した。z/TPF は 2005年12月に登場したが、これも64ビットシステム用のみである。31ビットシステム向けLinuxはオープンソースコミュニティやディストリビュータが興味を持っている間は存続するだろう。従って、アムダールのハードウェアの寿命はもう少し続くかもしれない。企業や政府機関の中にはアムダールのシステムを2006年中ごろの現在も使い続けているところもある。また、富士通/アムダールも交換部品などを保持してサポートサービスを行っている。
IBMは 2004年5月に zSeries 890 を登場させるまでアムダールの顧客に置換を提案できる機種を持っていなかった。zSeries 800 も魅力的な置換候補であり、2005年終盤のシステム価格は10万ドルを割っている。 System z9 BC は 2006年5月に登場してさらにIBMに顧客をひきつけている。他の選択肢としては、サポートなしで使用し続けるか、アプリケーションを移植して全く別のプラットフォームに移行するか、メインフレームをエミュレートするソフトウェアFLEX-ESを使用するかである。
[編集] 外部リンク
- System/390 Compatible Servers – Fujitsu Computer Systems(アムダール社を取り込んだ富士通の米国子会社)のIBM互換機のページ
- 米国EDS社とテクノロジーパートナー契約を締結 – 富士通プレスリリース(2005年11月4日)
[編集] 関連項目
カテゴリ: コンピュータ (歴代) | コンピュータ企業 | アメリカ合衆国の企業 | かつて存在した企業