キングジョージV世級戦艦
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キングジョージV世級戦艦(King George V)はイギリス海軍の戦艦。
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[編集] 建造に至るまで
[編集] 無条約時代の第一走者
本級は第二次ロンドン条約の締結を見越して、基準排水量35,000トン、主砲14インチ砲の新戦艦として設計が完了されており、純14インチ砲戦艦として見るならば世界最強の艦として生まれるはずだったが、同条約が締結されなかったばかりか列強他国が主砲に15インチ・16インチ砲を採用した為に、竣工と同時に二線級の烙印を押されてしまった悲劇のクラスである。
[編集] 艦形について
船体は水平甲板型で、ほぼ垂直に切り立った艦首から四連装砲塔で1基、同連装砲塔1基を背負い式で配置。司令塔を組み込んだ箱型の艦橋は将官艦橋・上部艦橋・羅針艦橋の順に構成された。頂部には主砲用4,58m測距儀、左右に副砲用測距儀が並列1基ずつの計3基、その間に対空管制室が設けられている。その背後に簡素な三脚檣、第一煙突と第二煙突の間には首尾線に対し垂直に左右に伸びるカタパルトが設けられている。二番煙突の基部には航空機用の橋桁型クレーンが二基一対付く。二番煙突と後部三脚檣の間は艦載艇置き場になっている。そして第三主砲が配置される。13,3cm両用砲はカタパルトを境に二基ずつ背負い式配置で背中合わせに片舷四基の計八基が配置される。
[編集] 主砲塔配置
主砲は条約に基づき新設計の「1922年型 Mark7 35,6cm(45口径)砲」であり、この砲を四連装砲塔三基に収める筈であったが、設計途中で火薬庫の防御装甲厚不足が発見されて、急遽二番砲塔を連装砲塔に改め、浮いた重量で強化する事になり、四連装砲塔二基+連装砲塔一基の特異な配置となった。
- 四連装砲塔採用はフランス海軍のダンケルク級の模倣と言われているが、同世代のアメリカ海軍のノース・カロライナ級も初期案は四連装砲塔三基で設計されており、各国独自の理論で採用したに過ぎない
この砲は、発射速度は毎分2発、仰角は+40度/-3度、最大仰角40度、射距離35,260mであり主砲塔測距儀こそ12.8mと優秀だが艦橋用測距儀が4.58mと、小型で性能が低く、そのため実用としては25000m前後が限度であった。砲塔は設計段階から純粋な四連装砲形式として設計され、列強諸国が軽量化を狙って自由角装填方式を採用したのに対し、砲塔被弾貫通時のリスクが少ない固定角装填方式を採用した事は高く評価できる。反面、砲塔を小型化しようと砲塔の高さを必要以上に減じたために構造が窮屈なものとなり、結果的に設計的欠陥により故障が頻発して信用の成らない物になった事は兵器として重大な欠陥であり、本級の最大のウィークポイントとなっている。
[編集] 副砲・対空装備等
副砲はネルソン級で両用砲の開発が間に合わなかった苦い経験から当初から高角砲兼用として開発が進められた「1940年型13,3cm(50口径)砲」を採用している。この砲は発射速度は毎分7~8発、仰角は+70度/-5度、最大射程は仰角45度で射距離21,397 m、最大仰角で高度14,935 mで、カタログデーターでは優れるが実際の所は砲の俯仰角速度・旋回速度が普通の平射用副砲塔と大差なく、急降下爆撃機に対処は困難だった。砲弾装填は人力であったが、水上砲戦での威力を重視したため砲弾重量は36,3kgもあり(日米の12.7cm砲弾で約25~28kg、動力装填式のフランス13cm砲弾でも32kg)速射性を阻害していた。これは重量が40,8kgまでならば人力で速射が可能であると言う間違った見解に基づき、弾薬包形式(砲弾と装薬が一緒、動力装填式に多い)にした為である。
他に対空火器として英国軍艦に広く採用されている「1930年型 Mark8 ポムポム砲(pom-pom gun)」を八連装(水平四連装銃身を上下に配置)4基搭載した。この砲は口径が40mmと一見、強力そうだが有効射程が短く、弾道特性も悪いために実際は当らなかった。さらに、射撃中に弾体と薬莢が分解して頻繁に弾詰まりを起こすと言う悪癖を持っていた。主なデータではマレー沖海戦によるプリンス・オヴ・ウェールズ搭載のポムポム砲は一基だけで12回も故障を起こし、もう一基も8回も射撃中止に陥った。
特色があるのは英国海軍が懇意にして開発した17,8cm 20連装ロケット砲(通称:UP, Unrotated Projectile)でこれは、円筒状のロケット弾に無数の爆雷を詰めておき、規定の高度でカバーが外れて、尾部にパラシュートを付けた爆雷が適度な散布界を持って展開するという兵器であった。実際の戦闘では展開速度が航空機の速度に付いていけず、充分な戦果を得られないまま、米国から供与された40mm対空機関砲やエリコン社製20mm機銃にスペースを明け渡した。
[編集] 防御について
本級の装甲厚は水平甲板が152mm、垂直防御が374mmと同世代の列強戦艦に比べて厚みがあって英国戦艦の美徳の一つであるが、舷側装甲板の配置はフッドやネルソン級で採用した「傾斜装甲」から、時代に逆行して「垂直装甲」に回帰している。これは、水中防御構造の複雑化を嫌ったと説明されているが、代償として傾斜装甲による軽量効果が得られないためにドイツ戦艦と同じく「装甲にかかる重量の割合に対し防御装甲範囲が少ない」という欠点を抱えるに至った。このため、人員を守るための司令塔の装甲を削ったり、二番砲塔だけ連装砲塔に改めると言う泥縄式のやり方で防御重量を稼ぐという新戦艦らしくない事態になっている。また、近年の研究で本級は水中防御に関する考え方が旧く、効果的な水中防御を考えてなかったことが汚点として挙げられる。
第一次大戦後、各国で水中弾効果について研究が進められた結果、日本海軍の大和級、アメリカ海軍のサウスダコタ級以降の艦は水線防御装甲を水線下まで延長する工夫が見られたが、英国ではその後に建艦されたヴァンガードでも考慮は皆無である。本級の機関区から舷側までの区画長は他国戦艦の半分程しかない4.3mと短く、これは機関の小型軽量化に失敗した代償で、船体における機関区のスペースを多くとらざるを得ず、少ない出力で高速を出すために船体を細長くする必要があったため、船体の幅を狭めた為である。そのため、本級は当時の新戦艦のなかでも特に対水雷防御がお粗末な戦艦となってしまった。
[編集] 艦体について
本級の艦体構造は典型的な平甲板型船体である。主砲塔を艦首方向へ仰角零度で射撃可能という要求を可能にするために艦首は垂直に切り立ったスターン・バウで、凌波性が劣っていた。そのため、冬の北大西洋では荒波が舳先だけではなく、二番砲塔基部まで吹きつけ、前甲板での作業を著しく阻害した他、パーペットと砲塔の境面に海水が着氷し砲塔旋回のために水兵が一時間毎にハンマーで取り除く必要さえ生じた。
船体形状は全長が227,1mに対し全幅が31,4mと細長い。これは低出力の機関で高速を得るためにこの様な船体形状を選択せざるを得なかったためである。その代償として本級は直進性が良好な反面、舵の効きが悪く、アメリカ海軍との共同作戦時に艦隊行動を乱す問題児になった他、航空攻撃を受ける際に回避速度が緩慢になり避けることが困難だったと言う記録が残っている。
[編集] データ
[編集] 竣工時
- 水線長:-m
- 全長:227,1m
- 全幅:34,2m
- 吃水:8,8m
- 基準排水量:38,030トン
- 常備排水量:-トン
- 満載排水量:42,237トン
- 兵装:35,6cm(45口径)4連装砲2基+同連装砲1基、13,3cm(50口径)連装両用砲8基、2ポンド8連装ポムポム砲4基、17,8cm20連装ロケット砲4基
- 機関:海軍式三胴型重油専焼缶8基+パーソンズ式オール・ギヤードタービン4基4軸推進
- 最大出力:110,000hp
- 航続性能:10ノット/7000海里、20ノット/5700海里
- 最大速力:27,05ノット(地中海で無風、燃料1/3状態で30ノットを非公式記録)
- 装甲
- 舷側装甲:374mm
- 甲板装甲:152mm
- 主砲塔装甲:324mm(前盾)、-mm(側盾)、-mm(後盾)、-mm(天蓋)
- 司令塔:100mm
- パーペット部:324mm
- 航空兵装:3機(最大)、2機(常用)+カタパルト1基
- 乗員:1381名
[編集] 同型艦
- 「キングジョージV世 King George v」1940年12月11日竣工
- 「プリンス・オブ・ウェールズ Prince of Wales (皇太子の称号、イギリス王エドワード8世を指す)」1941年3月31日竣工
- 「デューク・オブ・ヨーク Duke of York (ヨーク公、ジョージ6世即位前の呼称を指す)」1941年11月4日竣工
- 「アンソン Anson (人名)」1942年6月22日竣工
- 「ハウ Howe (人名)」1942年8月29日竣工