サブリミナル効果
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サブリミナル効果(サブリミナルこうか)は潜在意識、意識と潜在意識の境界領域に刺激を与える事で表れるとされる効果。ただし科学的に証明されてはおらず、その効果を疑問視する心理学者も多い。映画やテレビ放送などでは実在するものとして、その実施は禁止されている。
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[編集] 発端
歴史は古く、19世紀半ばから実証研究が始まった。当初は知覚心理学だけの領域であったが、現在は広告研究、感情研究、社会心理学、臨床心理学等幅広く様々な関心から研究されている。未だに謎は多いが、長年の研究の蓄積は大きい。
1957年にマーケティング業のジェームズ・ヴィカリが、ニュージャージー州フォートリーの映画館で上映された映画「ピクニック」のフィルムに「コーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」とメッセージが写ったコマを5分ごとに繰り返し挿入し、売上に影響があるかを測定した実験が有名である。フィルムの一コマを人間が認識する事は不可能と考えられる(後述)が、この映画を上映したところコーラとポップコーンの売上が増大したとされる。だがこの実験がどのような環境で行われたか、アメリカ広告調査機構の要請にも関らず、きちんとした論文は存在しない。1962年、ヴィカリ自ら「マスコミに情報が漏れ過ぎた。実験には十分なデータが集まっていなかった」と実験結果の懐疑性を告白している。
[編集] 原理
外界から入力された視覚的情報は、諸々の神経伝導路を経て大脳皮質の視覚野で知覚される。この伝導にかかる時間はおよそ0.1秒である。また大脳皮質の視覚野の時間的な二点弁別能もおよそ0.1秒であり、それより短い時間で完結した現象を認識することはできない。一方、サブリミナル効果を与える時間はおよそ0.03秒である。0.1秒よりも短い0.03秒では大脳皮質視覚野が感知することのできる閾値を下回っており、サブリミナル効果を認識することは原理上不可能であると考えられる。
しかし、視覚野に障害のある皮質盲の患者の一部では、患者の前に何かのものが入ったガラスケースと何も入っていないガラスケースを置きどちらにものが入っているかを答えさせると高率に正解するという実験結果や、「4以下ならAボタンを、5以上ならBボタンを押せ」というタスクを課したとき、「6」を0.03秒見せた後に「2」を0.1秒見せたときのAボタンの反応よりも、「6」を0.03秒見せた後に「9」を0.1秒見せたときのBボタンの反応が有意に早いという実験結果などから、視覚野に到達する伝導路よりも素早く伝わる他の知覚野の存在が示唆される(しかしそれは現在まで発見されていない)。従って、もしこれが証明されればサブリミナル効果は存在すると言える。
[編集] 影響
1995年5月、TBSのオウム真理教関連番組内で、教団代表・麻原彰晃の顔等のカットが無関係な場面で一瞬に何度も挿入された。TBSはサブリミナル手法を番組テーマを際立たせる1つの映像表現として用いたと述べたが、非難が集中し、郵政省はTBSに対し厳重注意を行った。これを受けて、TBSは「視聴者が感知出来ない映像使用はアンフェアであった」と謝罪した。日本テレビ系列アニメ『シティーハンター3』でも麻原の顔がワンカットだけ挿入されていたことが判明し、同じく厳重注意を受け謝罪している。ただし、1980年代初め『うる星やつら』の頃から当時のアニメ作品ではスタッフの“お遊び”的要素で当たり前のように用いられていた(スタッフがアニメをビデオに録画したファンが後でスローで再生し、挿入された画を見て喜んで貰うという、ファンサービス的目的があるとの説もある)。この日本テレビの件はたまたま挿入されていたのが麻原の顔だったため注目を集めたと見るべきだろう。
この事件以後テレビ局の規制が厳しくなり、メッセージはほとんど見られなくなったが、その後も何度か問題視されている。2004年2月、テレビ番組「マネーの虎」(日本テレビ)のオープニングに一万円札が、同時期の深夜アニメ『エリア88』(テレビ朝日)のオープニングに倒れている人や「WAR」「ATTACK」といった暴力を連想させる英単語が一瞬映っているとして連続で報道された(どちらも報道後メッセージがないものに差し替えられた)。なお、こちらはあまり問題になっていないが、2006年4月~6月放送のUHFアニメ『吉永さん家のガーゴイル』でもお遊び的な絵を一瞬映す演出が使われていた。
[編集] 関連作品
- 世にも奇妙な物語「サブリミナル」
1992年12月30日、冬の特別編としてオンエアされた作品の一つ。東幹久主演。頻繁に流れる政府広報のCMには自殺を促すサブリミナル効果が施されていたために、自殺者が急増したという話であった。