ソノブイ
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ソノブイ(SONO-Buoy、吊下式ソナー内蔵の無線浮標)は、主に哨戒機から投下して使用する使い捨ての対潜水艦用音響捜索機器である。SONO-BuoyとはSONAR(ソナー、水中音波探知機)とBuoy(ブイ、浮標)の合成造語である。
大きさは現在主流のBタイプソノブイで、直径4.7/8インチ(124㎜)、長さは36インチ(914㎜)で捜索水深は300m程度である。水中の温度を計測するBTブイ、塩分濃度を計測するブイなど特殊なソノブイもある。
[編集] 動作原理
ソノブイは航空機のソノブイ投射器から発射され、パラシュートの展開により指定されたピンポイントに着水する。そして着水の衝撃によりソナーの吊下を開始し海水電池で作動を続ける。海面には浮標に無線送信部が組み込まれている部分が浮かんでいる。ソナー部分は、設定された深さへ吊下される。ブイは航空機に搭載されている超短波(VHF)のFM受信機によって受信され、ソノブイ信号解析システムによりデータ蓄積されたパターンと照合して潜水艦の種別を導き出す。
[編集] 海中の探索
近代戦における潜水艦の技術は発展の一途をたどっている。ソノブイは、有効な追跡システムの一つとして開発された。
ソナー(SONAR)は、第一次世界大戦中にイギリスで開発されASDIC(アスディック)と呼ばれていた。 そしてその当時、飛行船や複葉機に関わる海軍士官たちによって無線浮標と組み合わせたソーナー探知システムのアイデアが存在したが、実用化には至らなかった。大戦中、ドイツ海軍のUボートは数千隻の船艇に被害を与え、新兵器の中でもっとも脅威の高いものと位置づけられていた。ソナーはレーダーとともに艦艇に装備され、水上航走中の潜水艦はレーダーで探知し、潜航時はソナーにより探知した。ソナーは第二次世界大戦での技術的進歩に伴い、飛躍的に性能の向上が図られた。
現代の海軍の対潜作戦は、第二次世界大戦中の海上護衛作戦から発展してきた。米ソ冷戦時代が到来し、空母機動部隊が進出する前方海面を広域哨戒する必要が生まれたとき、ソノブイの実用化がなされた。広域哨戒を担当する兵力は、陸上哨戒機P-3Cオライオン、艦載哨戒機S-3バイキングが存在する。ソノブイはこれらのユニットから投射可能なコンパクトで、ポータブルで、強力なソナー・システムとして発展している。
初期型ではソナー員の耳により解析する原始的な手段が用いられていたが、潜水艦の静粛化によって、自動解析技術を導入した。従来の潜水艦はエンジン騒音が激しく容易に探知されていたが、現在ではほとんど放射雑音が存在しないため、潜水艦の艦体そのものが生じる極低周波を探知可能なローファーブイ(Low Frequency SONAR Buoy)が採用されている。ソノブイによる解析は聴覚による音紋解析のみならずローファーグラムの画像を識別することでさらに確実性を高めている。
ローファーブイには方位指示機能もあり、この機能を使用した場合はダイファーブイと呼ばれる。ダイファー機能を使用中は、ソノブイ信号の解析能力が低下する欠点がある。また、探信音を発するソノブイをアクティブブイまたはダイキャスブイと呼ぶ。ダイキャスとはディレクティブ・コマンド・アクティブ・ブイの略である。
ソノブイでの探知距離は、ローファーブイの第一収束帯(1CZ)探知時で約30nmであり、まれに第二収束帯(2CZ)探知で約60nmの超遠距離探知が期待される。しかし海中の雑音レベルが増大する現代の世情では、パッシブ戦術の限界は狭まりつつある。またCZ探知が可能である海域は水深が優に2,000mを越え、かつ商船の活動が少ないエリアに限られている。直接伝搬域に対する探知は、商船で5~10nm、新鋭駆逐艦または旧式潜水艦で1~2nm程度といわれている。
- 参考文献 海洋音響の基礎と応用