ドグラ・マグラ
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『ドグラ・マグラ』は、探偵小説家夢野久作の代表作とされる小説である。構想・執筆に10年以上の歳月をかけて死の1年前、1935年に刊行された。
その常軌を逸した作風から一代の奇書として高く評価されている。「ドグラ・マグラ」の原義は、作中では切支丹バテレンの呪術を指す九州地方の方言とされるが、明らかではない。本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす、と称されている。
[編集] 概要
本書は1935年(昭和10年)1月、松柏館書店より書下し作品として刊行された。「幻魔怪奇探偵小説」という惹句が附されていた。
類例のほとんど無い極めて特異な作品であることから、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』や、中井英夫(塔晶夫)『虚無への供物』とともに、日本探偵小説三大奇書に数えられる。
本書の原型となったのは、夢野久作が作家として作品を発表し始めた頃に書き始められた、精神病者に関する小説『狂人の開放治療』である。10年以上にわたって徹底的に推敲され、夢野はこれを発表した1年後の1936年に死去している。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 内容
『ドグラ・マグラ』の基本的な骨格は、大正15年頃、九州帝国大学医学部精神病科の独房に閉じ込められた、記憶喪失中の若き精神病患者の物語である(と思われる)。彼は過去に発生した複数の事件と何らかの関わりを有しており、物語が進むにつれて、謎に包まれた一連の事件の真犯人・動機・犯行手口等が次第次第に明かされていく。そうした意味では既存の探偵小説・推理小説の定石に沿っている。が、筋立てが非常に突飛。
胎内で胎児が育つ十ヶ月のうちに閲する数十億年の万有進化の大悪夢の内にあるという壮大な論文「胎児の夢」(エルンスト・ヘッケルの反復説を下敷きにしている)や、「脳髄は物を考える処に非ず」と主張する「脳髄論」、入れられたら死ぬまで出られない精神病院の恐ろしさを歌った「キチガイ地獄外道祭文」などが挿入されており、すべてが渾然一体となって読者の常識を転倒させる破天荒な展開となっており、到底まともには要約不能の奇書である。本作が創作小説なのか学術論文なのか随筆なのか、現在の一人称は誰なのか、読書中に分からなくなる恐れもある。これは意図的に混乱させようとする手法の為せる業。
特に、主人公とも言うべき青年が「ドグラ・マグラ」の作中で「ドグラ・マグラ」なる書物を見つけ、「これはある精神病者が書いたものだ」と説明を受ける場面については、特徴的かつ幻覚性を感じさせる極めて奇異なシーンである。その際、登場人物の台詞を借りて、本作の今後の大まかな流れが予告されており、結末部分までも暗示している。この点も奇異と評し得る。
また、その結末は様々な解釈が可能であり、便宜上「探偵小説」に分類されているものの、そのような画一的なカテゴリーには到底収まりきれない。
[編集] その他
戦後にも、早川書房のポケットミステリー、角川文庫、ちくま文庫、講談社文庫など各社から刊行されている。また、印象的な角川文庫版のカバー・イラストは米倉斉加年によるものである。
製作の過程や思案の様子が『夢野久作の日記』に記されている。
1988年には映画化され、松田洋治が若き精神病患者の役を、桂枝雀が正木博士役を、室田日出男が若林博士役を、それぞれ演じた。監督は松本俊夫、脚本は松本俊夫と大和屋竺。とくに、桂枝雀の“怪演”を賞賛する映画評が多い。
2003年には、フランス語に翻訳され、Philippe Picquier 社より刊行されている。(参考:[1])
2006年には、PENICILLINのHAKUEIと千聖の期間限定ユニットnanoによって映像作品化された。(リリースしたCDシングルとアルバムの付属DVDとして。全8話)