ローマ皇帝群像
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『ローマ皇帝群像』(-こうていぐんぞう、ヒストリア・アウグスタ、羅:Historia Augusta)は、117年から284年にかけてのローマ皇帝および簒奪者たちの伝記集。
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[編集] 概要
『ローマ皇帝群像』は、ローマ皇帝ハドリアヌスからヌメリアヌスまでの期間について記述されている。初版は15世紀のイタリア、ミラノにて6人の編者(Scriptores Historiae Augustae)「アエリウス・スパルティアヌス」「ユリウス・カピトリヌス」「ウルカキウス・ガッリカヌス」「アエリウス・ランプリディウス」「トレベッリウス・ポッリオ」「フラウィウス・ウォピスクス」による共同編纂の形式に纏められたと見なされている。規範版(editio princeps)は1475年にミラノで出版された。
記述はディオクレティアヌス、コンスタンティヌス1世およびその時代の様々な私人にまで及んでおり、これを根拠に原本は4世紀初頭頃に書かれ始めたのではないかと考えられている。その内容については架空の記述が混ざるなど疑わしき部分もあるが、基本的に、古代ローマ期を系統立てて記述した資料としての価値は認められている。一方、この原本が編纂された目的がどこにあるのかについても多様な解釈がある。その中には、全くの創作や風刺または名前を秘して書かれた異教徒によるキリスト教への攻撃とみなしているものもある。
原本の特色として、帝国の重要人物によって書かれた元老院の議事録など多数の公文書から引用されている部分が散見される。古代の歴史学者が、例えばサルスティウスが著した『カティリナ戦記』に見られるように、修辞的な演説を加えて文章を創作する手法をしばしば用いることがある。しかし、『ローマ皇帝群像』に見られる引用は、文体の基礎的な部分が一貫しているところや、参照されている軍隊の階級名や政府組織の特徴がかなりの長い記述された期間において一定しているところから、前記のような一種の捏造とは明らかに異なっているとみなされている。
完全な英訳はラテン語との対比つきでローブ・クラシカルライブラリーの中にある。日本語版は随時翻訳され京都大学学術出版会から出版されている。
[編集] 原本に関わる諸説
原本は、何度も写本が繰り返される中で誤記や省略などが重なり、本によって内容がばらばらになってしまっていた。1603年、これらをアイザック・カゾボン(Isaac Casaubon)が集め、原著:Historia Augustaとして再編集した。しかしながら、238年から252年までの期間についての記述はどの写本からも欠落してしまっていた。また、「ネルウァ伝」と「トラヤヌス伝」の冒頭部分についても、スエトニウスの『ローマ皇帝伝』ときわめて類似していることから、原本は、既に失われてしまっていたところを何者かが写本の際に引用して穴埋めしたのではないかと疑われている。
1889年、ドイツの歴史学者ヘルマン・デッサウは、すべてが4世紀後半頃の一人の作者による偽造だという説を発表した。この根拠として、「セプティミウス・セウェルス伝」はアウレリウス・ウィクトルの著書を写して記述されており、また「マルクス・アウレリウス伝」はエウトロピウスの『建国以来の歴史概略』を使って書かれていると主張した。最近の研究でも記述スタイルの一致性が示されており、多くの学者はこの未知の著者が存在したという仮説に賛同している。ただし、近年コンピューターで解析したところ、一様のスタイルで記述された部分と、複数の筆者の存在を予測できる部分とが混在しているとの結論に至っている。
一方、古典学者アンソニー・バーリーは、スエトニウスの『ローマ皇帝伝』の続編として書かれたが現在散逸したマリウス・マクシムスの著書を基にして記述されているとして、「セプティミウス・セウェルス伝」までの部分が信頼するに足ると主張した。そして、ペンギン・ブックスから出版した英語版では『ローマ皇帝群像』の前半部分までしか訳さず、後半部分は原本に無いネルウァとトラヤヌスの伝記を加えて『Lives of the Later Caesars』というタイトルで別に出版した。
[編集] 書籍
- 『ローマ皇帝群像<1>』(2004年1月、アエリウス・スパルティアヌスほか著、南川高志訳、京都大学学術出版会)ISBN 4-87-698146-9
- 『ローマ皇帝群像<2>』(2006年6月、アエリウス・スパルティアヌスほか著、桑山由文・南川高志・井上文則訳、京都大学学術出版会)ISBN 4-87-698164-7
[編集] 外部リンク
- 各原文のラテン語-英語対比
- ラテン語の目次
- ラテン図書館
- スプリクトで区分された各人物伝(ラテン語、英語)