口腔細菌学
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口腔細菌学(こうくうさいきんがく、Department of Oral Microbiology)とは、歯学の専門分野で、主に口腔内(歯髄含む)における微生物及び生態防御機構を取り扱う学問である。
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[編集] 概要
元々、口腔細菌学は歯学(歯科学)の一学問として確立され、高度経済成長時には社会的にう蝕(虫歯)が社会問題となったことから、う蝕研究が中心的になされてきたが、現在では、細菌学の領域に留まることなく広く微生物学分野にその研究対象が広がっている。 その為、研究名称では、「細菌学」となると、ウイルス学等が含まれない為、広く微生物(細菌・ウイルス・原虫・クラミジア、リケッチアなど)を対象にした口腔微生物学や病原菌を対象にした口腔病原菌学、口腔感染防御学などと呼称することが多い。
これらを研究する研究室は、一般に大学の歯学部に設置されており、細菌学、感染症学、微生物学、ウイルス学、免疫学、それら実習・演習の教育を受け持っている。
研究分野では歯科医師(歯周病専門医や感染症専門医、インフェクションコントロールドクター)が従事しているが、それ以外に理学部、農学部など歯学部以外の人材が研究に従事している事も多く、事実、教員や研究者が歯学部以外の学部出身であることが珍しくない。また、研究内容から、生化学や遺伝学、薬理学、病理学とも共通する点が多く、連携して研究を行うことが多い。
臨床歯学では、歯周病科やう蝕治療との関係が深いのも特徴である。また、口腔内や環境中の細菌叢調査なども行っている。
尚、歯周疾患を専門とする歯科医師は日本歯周病学会の認定試験に合格すると歯周病専門医として、歯科衛生士は、日本歯周病学会認定歯科衛生士として、より高度な歯周疾患治療に当ることができ、無論研究にも参画できる。
近年の研究で口腔細菌が起因し、全身疾患を発症することが明らかとなり、今後口腔分野と全身分野との連携がますます重要となっている。
[編集] 主な口腔内細菌
- 口腔常在菌叢は生後すぐに定着を開始し、個体の成長や歯牙の萌出などの口腔内環境の変化に伴って変動する。また、個人差や家庭での食生活や生活習慣によっても大きな変化がある。
- 口腔常在菌叢の代表的な菌種はほぼ決まっており、分布領域における優勢菌種もほとんど変動はない。
- Streptococcus salivarius:舌表面の最優勢菌種
- Streptococcus mitis:頬粘膜および歯牙表面
- Streptococcus sanguis:歯牙表面に生息する口腔レンサ球菌で齲蝕病原性はないとされている。
- Streptococcus mitior:口腔レンサ球菌で齲蝕病原性はないとされている。
- Streptococcus mutans:歯牙表面に主に生息するが検出頻度は低い。しかし、齲蝕病巣からは確実に分離される。菌体外グルカンや乳酸の産生、酸性条件下での増殖能などから齲蝕の原因菌とされている。
- Porphyromonas gingivalis:歯肉溝に生息し、歯周疾患の原因菌として注目されている。
- Bacterionema matruchotii:歯垢に生息する線維状または多形態性のグラム陽性桿菌である。
- Propionbacterium acnes:嫌気性無芽胞グラム陽性菌で、糖を発酵してプロピオン酸と酢酸を産生する。主に皮膚と腸管に生息している。
[編集] 歯肉溝・歯周ポケット
- 歯周疾患の原因は細菌であることは疑いがないが、その主役を演じている微生物についてはまだ完全な同定がなされていない。また、臨床的健康歯肉から歯周炎に至る過程の中で局所の微生物叢も変化する。
- 歯肉縁下は嫌気的条件下であり、また空間的にも狭いため歯肉縁上よりも菌数は少ない。
- 歯周炎の初期はグラム陽性菌が主体であるが、進行するにつれて糸状菌が出現し、更にらせん菌と運動性のあるスピロヘータも現れる。グラム陰性嫌気性桿菌が増加する。
- 歯周治療でプラークコントロールが成功すると菌数は減少する。
[編集] 唾液
- 唾液の細菌叢は、実際には歯や舌、口腔粘膜などの表面の細菌叢を反映したものとなっており、唾液に固有の細菌叢とはいい難い。なぜなら、唾液は液体であり、絶えず分泌と嚥下が繰り返されているので固有の細菌叢が育成し難いためである。また、唾液は、分泌直後は無菌状態である。
- 個体差では、幼児期の唾液細菌叢は好気性ないし通性嫌気性の菌が多く、偏性嫌気性の菌は歯の萌出によって歯肉溝が形成されると出現する。加齢と共に免疫能が低下したり、口腔であれば歯の喪失や義歯の装着などによって、日和見感染の病原菌や嫌気性菌が増殖したりすることがある。
- 起床直後の唾液細菌叢は多いとされ、食事直後では細菌数は少ないと言われている。
- 歯肉溝は嫌気的状態であり、有歯顎の口腔では唾液中に偏性嫌気性菌が検出される。
- 唾液に限らず、口腔で最も優勢な菌はレンサ球菌である。
[編集] 歯垢
- 歯垢(プラーク)は、歯の表面に固着した細菌およびその産物の集合体であり、構成要素下記の通りである。
- 歯垢を構成する菌は多種類で、成熟度によって異なる。
- 初期:大多数の球菌と少数の桿菌であり、糸状菌は極めて少ない。つまり、歯垢形成には球菌の付着によって始まる。
- 中期:球菌桿菌の占める割合が低下し、糸状菌が増加する。
- 後期:運動性を持つビブリオやスピロヘータの数が増してくる。
- 歯肉縁上の歯垢には好気性菌が多い。
- 尚、歯垢は咀嚼や固い食べ物を摂取することにより歯垢が除去され歯垢量が減少する。
[編集] 口腔微生物と全身疾患の関係
近年の研究では、口腔微生物と全身疾患の関連性の研究が盛んに行われており、数多くの研究報告がなされている。ただ完全に関連性が解明されている分野でもない為、今後の研究の成果が待たれる。また、歯学部生の中にも元々医学志望(口腔領域以外)であったり、齲蝕などの硬組織疾患以外の歯科専門領域に進みたい学生にとっては興味関心の高い分野であり、口腔細菌学の中で特に学びたい領域とされている。(参考文献:佐藤法仁、苔口進、福井一博「歯学部1、2年生における口腔微生物学に対する意識調査」(財)緒方医学化学研究所,医学と生物学Vol.149(12):p.444~448,2005)
下記に関連性のある疾患を挙げる。
[編集] 著名な口腔微生物学者
- Willoughby D.Miller 齲蝕の化学細菌説(口腔内の酸産生菌による歯硬組織の脱灰)を提唱。ただし唾液を材料としたため、デンタルプラークの重要性には気づかなかった。
- J.L.Williams&G.V.Black 1898年、デンタルプラーク(一般的に言う「歯垢」)が齲蝕や歯周病の病因であることを指摘。
- J.Kilian Clarke 1924年、齲蝕病変部からレンサ球菌を分離し、Streptococcus mutansと命名。
- Robert J.Fitzerald&Paul H.Keyes 1960年、ハムスターを用いた実験で特定のレンサ球菌が齲蝕を誘発することを証明
[編集] 口腔細菌学(微生物学)教材
- 口腔細菌学談話会編集「歯学微生物学」医歯薬出版,1992.
- 藤田浩編集「新図説口腔微生物学」学建書院,1996.
- 浜田茂幸「口腔微生物学・免疫学」(第2版)医歯薬出版,2005.
- 前田伸子・大島朋子「口腔微生物学サイドリーダー」(第2版)学建書院,2005.
- 山西弘一・平松啓一「標準微生物学」医学書院,2002.
- 奥田克爾「最新口腔微生物学:バイオフィルム感染症とアレルギー疾患」一世出版,2002.
- 花田信弘監修「ミュータンスレンサ球菌の臨床生物学:臨床家のためのマニュアル」クインテッセンス出版,2003.
- 奥田克爾「口腔内バイオフィルム:デンタルプラーク細菌との戦い」医歯薬出版,2004.
etc
[編集] 関連学会
- 日本細菌学会/日本感染症学会/日本環境感染学会/日本口腔感染症学会/日本性感染症学会/ICD協議会
- 日本ウイルス学会/日本エイズ学会/日本医真菌学会/日本寄生虫学会/日本臨床寄生虫学会
- 日本分子生物学会/日本生化学会/日本免疫学会/日本化学療法学会
- 歯科基礎医学会/日本歯周病学会/日本臨床歯周病学会/日本歯科保存学会/日本歯科薬物療法学会
- 臨床微生物迅速診断研究会/バイオフィルム研究会/日本ブドウ球菌研究会/レンサ球菌感染症研究会/(財)緒方医学化学研究所/日本耳鼻咽喉科感染症研究会/日本産婦人科感染症研究会
- 口腔細菌学会、口腔微生物学会は存在しない(2005年現在)。
[編集] 関連項目
- 感染症/人畜共通感染症/伝染病/齲蝕/歯周疾患/細菌叢調査/院内感染/感染制御
- 微生物学(微生物)/細菌学(細菌)/ウイルス学(ウイルス)/真菌学(真菌)/寄生虫学(寄生虫)
- 免疫学/遺伝学/生化学(口腔生化学)/病理学(口腔病理学)/解剖学(口腔解剖学)
- 歯科学/歯科/医学/薬学/農学/生物学/感染制御学
- 口腔診断学/保存修復学/歯周治療学/歯内療法学/口腔外科学/小児歯科学/口腔内科学
- 歯/歯周組織/歯髄/舌/口腔/唾液/咽頭
- 歯学部/医学部/薬学部/保健学部/獣医学部/理学部/農学部
- 歯科医師/医師/薬剤師/歯科衛生士/歯科技工士/看護師/臨床検査技師/獣医師
- 専門医/認定医
- 感染症専門医/インフェクションコントロールドクター/歯周病専門医/歯科保存専門医/感染制御専門薬剤師/感染制御認定臨床微生物検査技師/感染症対策看護師(感染症管理看護師)/感染管理歯科衛生士(感染制御歯科衛生士)/日本歯周病学会認定歯科衛生士/ 滅菌技士(第一種・第二種)/医療環境管理士
- 世界保健機関(WHO)/アメリカ疾患予防管理センター(CDC)/アメリカ陸軍伝染病医学研究所(USAMRIID)/アメリカ食品医薬品局(FDA)/イギリス疾患予防センター(Health Protection Agency)(CDSC)
- 国立感染症研究所/国立保健医療科学院(旧国立公衆衛生院)/厚生労働省/保健所
- 日本歯科医師会/日本医師会/日本薬剤師会/日本獣医師会
[編集] 外部リンク
- 学会
- 関連リンク
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