水銀遅延線
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水銀遅延線(すいぎんちえんせん)はコンピュータ用メモリ(主記憶装置)の一つ。ジョン・エッカートが考案した。水銀遅延管(すいぎんちえんかん)とも呼ばれる。
水銀の中の超音波が、電気信号に比べて遅く信号を伝達する性質を利用して記憶装置にしたもの。
水銀を詰めた管の両端に水晶振動子(薄く切った水晶に電極を付けたもの)を合わせた構造になっており、片側の水晶振動子に入力電流が流されると、これが逆圧電効果により振動して、隣り合っている水銀に超音波を起こす。この波は管の中の水銀を通って、反対側の水晶振動子を揺らすが、揺らされた水晶振動子は圧電効果により電気を起こすので、ここから入力電流と同様の信号が取り出せる。これを増幅して再び入力側に戻すと、信号が循環して、記憶装置として扱うことができる。
このように、水銀遅延線では水晶振動子を電気信号で振動させ、水銀の中を振動が伝わっていく時間の分だけ、振動という形で情報を保持させることができる。
水銀遅延線は初期のコンピュータに用いられ、EDSACやEDVAC、UNIVAC Iで採用された。また、日本初のコンピュータ、FUJICにも水銀遅延線が使われている。EDSACには長さ約1.5メートルの水銀遅延線が32本使われ、その記憶容量は1本あたり1000ビットであった。