風洞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
風洞(ふうどう)とは人工的に流れを発生させる施設。流れの中に試験体を置き、物体に働く力や物体回りの流れなどを観測する。
一般に風洞の大きさは「1m×1mの風洞」というように測定部の断面積を用いて表す。ただしモータースポーツ業界では、レーシングカーの開発に利用される風洞を、一般的な自動車の大きさと測定に使用可能な試験体の大きさを比較した割合を用いて「50%スケールの風洞」等と表現することが多い。
目次 |
[編集] 風洞の基本構造
細かい分類は以下で説明するが、基本的には筒の中に流速を得るためのファン(超音速風洞では高圧のタンクが代わりに使われる場合もある)、流れを整えるための整流器、測定部が設置されている。
測定部は壁がない場合と壁で密閉されている場合の両者がある。壁がない場合、試験体の取り外しが容易で、壁による流れへの影響がない代わりに、外気が流れに影響を及ぼす場合がある。壁がある場合はその逆となる。
[編集] 風洞の種類
風洞の種類は速度や、構造などにより様々な分類がされる。
[編集] 構造による分類
開放型風洞
開放型風洞は、使用した流れを外気に放出する風洞である。流速を得るためのファンは停止している流れを加速させるため回流型に比べて同じ流速を作るのに大きな動力が必要である。代わりに実験中の温度変化は小さい。
回流型風洞
回流型風洞は一度使用した流れを回流させて、再び使用する風洞である。開放型に比べて同じ流速を作るのに必要な動力が小さくてすむが、代わりに流れが温度変化を起こしやすい。また実験装置自体が開放型に比べて大型となる。このタイプの風洞ではゲッチンゲン型風洞と呼ばれるものが有名である。
[編集] 速度による分類
得られる流速のマッハ数によって分類を行うこともある。大きく低速風洞、亜音速風洞、遷音速風洞、超音速風洞、極超音速風洞に分けられる。超音速風洞、極超音速風洞になると連続的に流速が得られる連続式の風洞ではなく、短時間だけ所定の流速が得られる間欠式風洞が多く用いられる。また空気の膨張による温度変化を考慮する必要がある。
[編集] その他の風洞
動粘性係数を変えるため、水を利用したり、圧力を調節した空気を利用する風洞が存在する。これらを利用すると、同じレイノルズ数を得るために必要な流速を抑えたりすることができる。
[編集] 利点
風洞で得られる流れは普通の風に比べ乱れが少なく、安定した測定結果を得ることができる。風洞によっては流れを可視化するための装置(煙を発生させる装置など)や力を測定する天秤が備え付けられており実験を容易にする。
[編集] 欠点
風洞には以下のような欠点があり、必要に応じて実験結果に修正を施す必要がある。
[編集] レイノルズ数とマッハ数の不一致
風洞実験において重要となるのがレイノルズ数とマッハ数で、この両者を実験体と実際の物体で一致させることができれば、その実験結果を実際のものに適用することができる。しかし風洞実験に使用される試験体は一般的に実際のものに比べて小型となっているため両者を同時に一致させることは困難で、実験目的により重要ととる方を一致させる。圧縮性が問題とならない低速時(マッハ数が0.3程度まで)はレイノルズ数を一致させれば十分である。
[編集] 風洞が閉塞されていることによる影響
風洞は一定の閉塞された空間となっている。風洞の実験空間おいて試験体が占める割合は、通常の空間において物体が占める割合に比べて極めて大きい。このとき試験体が置かれている部分では風洞の断面積が小さくなっていると言うことができ、それにより試験体回りでは一様流に比べて流速が上がる。同様に航空機の場合、試験体の固定のためにストラット(支柱)やワイヤーを利用するため、これによる影響も考慮する必要もある。
他にも試験体によっては壁面や床面の境界層の影響もある。このため、自動車(特にレーシングカー)の開発に使用される風洞においては、床面にベルトコンベアーのような形のムービングベルトを設置することで、擬似的に自動車が道路を走行しているのと同じような状態を作り出し、床面の境界層の影響を受けにくいようにすることが多く行われている。