飛び級
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飛び級(とびきゅう)、飛び入学(とびにゅうがく)とは、学年制や等級制をとっている学校で、1学年・1等級以上を飛び越して上の学年・等級または上の学校に移ることである。飛び級の対義語は「通常の進級」または「原級留置(留年)」で、飛び入学の対義語は「現役生」または「過年度卒業者の入学」である。
早期教育・英才教育の制度にはいくつかの種類があるが、飛び級は生徒を単純に上の学年に移すだけで済むので、学校側の負担がほとんどないのがメリットである。
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[編集] 日本
日本における飛び級・飛び入学は、低年齢から行なわれるものと、高年齢から行なわれるものに分けることができる。例えば中学1年生が学年末に中学2年を飛び越して中学3年に進級するという場合、中学1年の4月1日時点で12歳であれば、それは低年齢からの飛び級であり、13歳以上であれば、それは高年齢からの飛び級である。
高等学校以下の学校(小学校・中学校の義務教育)では、生徒は平等に扱わなければならない という観点から、いかに優秀であろうと英才教育としての飛び級は絶対に認められない。逆に原級留置や就学猶予や過年度生(浪人など)もまれである。一方、大学・大学院では限定的に低年齢からの飛び級・飛び入学も行なわれている。
[編集] 低年齢からの飛び級
[編集] 高校以下
日本の学校制度では、小・中学校の義務教育においては年齢相当学年(年齢主義と課程主義を参照)を上回る学年への在籍は認められていないため、早期教育や英才教育を目的として飛び級を実施することは認められていない。高校においても同様であり、その年齢で所属可能な最高学年を上回ることはできない。
ただし、学籍の変動がないまま、実質的に上の学年で授業が行なわれるという運用がなされる場合もある。例えば江戸川学園取手中学校・高等学校では、成績優秀者は、特定教科のみ飛び級をして、在籍学年はそのままで1年上の学年で授業を受けることができる。参考
教育改革に伴い、英才教育としての飛び級制度の導入が議論されているが、高校以上の学校においては文部省令で年齢の下限が決まっている(が、年齢の上限による制限はない)ので、文部科学省のみの判断で年齢を引き下げることができる。小・中学校の義務教育では教育基本法・学校教育法により、学齢と修業年限が決まっているので、飛び級や早期就学の制度の導入には法改正が必要である。
なお、学齢に満たない子女が手違いによって小学校に就学し、そのまま標準年齢より低い年齢で在学し続けることを追認されたというケース(学齢を参照)もあったが、これは例外的なものである。
[編集] 大学飛び入学
大部分の大学では正規課程への入学年齢は18歳以上となっているが(帰国子女などは例外があるともいわれる)、千葉大学と名城大学などでは、数学などで特に才能があると感じられる高校生などを対象に試験を行ない、17歳の高校などの2年生が3年次を履修せずに大学1年生になれる制度を導入している。高校での評定などにより、受験資格に制限がある場合もある。
千葉大学は理学部および工学部および文学部に対し、当該年度の4月1日時点で満17歳以下である高校・同等学校の2年次修了予定者と、当該年度の4月1日時点で満17歳である大検で合格点を取った人を対象に飛び入学を募集している。過年度生や原級留置経験者など、18歳以上の生徒には受験資格がない。4年制高校であっても、2年次修了予定であれば応募資格がある。4年制高校から飛び入学した場合、2年短縮したことになる。
名城大学は理工学部数学科に対し、当該年度の4月1日時点で満17歳である高校2年次修了予定者を対象に飛び入学を募集している。過年度生や原級留置経験者など、18歳以上の生徒には受験資格がない。募集対象は3年制高校に限られており、定時制高校などによく見られる4年制高校の場合には、応募資格がない。
2005年度より、成城大学、昭和女子大学、エリザベト音楽大学が飛び入学を開始する。
成城大学は文芸学部英文学科に対し、高校2年次修了予定者の飛び入学を募集。年齢上限はない。4年制高校であっても、2年次修了予定であれば応募資格がある。4年制高校から飛び入学した場合、2年短縮したことになる。
昭和女子大学は人間社会学部福祉環境学科および生活科学部生活科学科に対し、高校2年次修了予定者の飛び入学を募集。年齢上限はない。4年制高校であっても、2年次修了予定であれば応募資格がある。4年制高校から飛び入学した場合、2年短縮したことになる。
エリザベト音楽大学は音楽学部音楽文化学科および音楽学部演奏学科で飛び入学を募集するが、詳細はウェブ上にない。
大学飛び入学は、1997年に法改正により数学、物理分野に限り解禁され、1998年に千葉大学が開始。2001年度より全分野で解禁された。大学院のある大学のみ飛び入学を行なえる。
昭和女子大学では、附属高校の3年生のうち一部が大学で学ぶことができる。学籍は高校にあり、大学では5年間学ぶことになるので制度上は飛び級ではない。現在は高3生の約半数がこの制度を利用しているようだ(上記の飛び入学とは別制度)。
[編集] 大学早期卒業・大学院飛び入学
一部の大学では、特に優秀な学生を対象に3年次卒業制度を設けている。また、一部の大学院では、大学4年を履修せずに入学する制度がある。この場合、大学で3年次卒業制度があれば大学卒業とみなされるが、中途退学の扱いになる場合もある。若年者のみならず、定年退職後に入学した人の飛び級も結構あるといわれる。大学院においては、修士課程・博士課程とも早期修了が可能である。
[編集] 高年齢からの飛び級
帰国子女などの場合には日本での学齢相当学年と本人の学習段階が合わないことがあるが、日本の大部分の小中学校は年齢主義を基準としているため、強制的に学習段階よりも上の学年に所属させられる場合があり、語学・学業・環境・情緒の面で児童に過度の負担を強いるものとして問題となっている。これは、英才教育としての飛び級とは性格が異なり、望まない飛び級といわれる。
原則的には各種通達により、高年齢からの飛び級も、低年齢からの飛び級と同様に不可能だとされてはいるが、実態として上記のようなことも起こっている。
[編集] 日本における歴史
1947年の学制改革以前は、ある程度制度的にも飛び級が可能であった。本来は5年制の旧制中学校から4年修了で旧制高等学校に入学できる仕組(いわゆる四修)がそれである。また、尋常科を併設した7年制の旧制高等学校は、自動的に飛び級を約束する存在だったといえる。
四修者は学力面で優越していたにもかかわらず、当時の旧制高校生の教養主義的価値観の中では、体格や人格や読書量の面で侮りを受ける場合が多々あった。何年も浪人を繰り返し、あるいは社会人生活を経て旧制高校に入学した学生ほど尊敬されたということを、旧制浦和高等学校出身の金田一春彦は自伝の中で記している。
[編集] 外国
国によっても異なるが、飛び級制度がある場合が多い。
アメリカ合衆国では、学校内の飛び級、学校間の飛び入学、早期就学ともに盛んである。飛び級が適当かどうかの判断には、「アイオワ早修尺度」が使われ、各方面から総合的に判断される。飛び級によって兄姉と同じ学年になる場合や、同学年の兄弟姉妹がいる場合などは考慮を要するとされている。
[編集] 飛び級経験者
- アメリカの数学者
- ソフトバンクのオーナー。アメリカ留学時に、1週間に1回のペースで飛び級したとされる。
- 多摩大学の学長。教育改革国民会議委員。出身地オーストラリアの小学校と中学校で1回ずつ飛び級した。飛び級制度に対して、教育の密度と余裕の面から、飛び級は高校などの上級学校ではなく小学校などの下級学校で行なわれるべきだとコメントしている。
- アメリカのロヨラ大学に9歳、シカゴ大学のメディカルスクールに12歳で入学した。父は日本人で母は韓国人。アメリカ最年少の医学校生になったとして話題になった。食用油のテレビコマーシャルにも出演。
- 矢野祥についての英語記事
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 松村暢隆『アメリカの才能教育』(ISBN 4-88713-514-9)
- 陳慶恵『私はリトル・アインシュタインをこう育てた』(ISBN 4-331-50956-7)
- 矢野祥『僕、9歳の大学生』(ISBN 4-396-41016-6)