カルボン酸
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カルボン酸(- さん)とはカルボン酸構造 (R−COOH) を酸成分とする化合物である。カルボン酸構造の特性基の名称はカルボキシル基(親水性)であり、置換基としての総称はアシル基である。また、カルボン酸は有機酸あるいは英名で alkanoic acid(s) と呼ばれることもある。アルコールと結合してエステル化する。
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[編集] カルボキシル基
カルボキシル基 (−COOH) は、炭素原子に水酸基一つと酸素原子が二重結合した官能基で親水性。 水酸基から水素が電離することで、この官能基を持つ物質は酸性を示す。還元されるとアルデヒド基となる。水酸基と共にエステル結合を作り、チオール基とともにチオエステル結合を作る。カルボキシ基とも言う。
[編集] アシル基
カルボン酸から水酸基 OH をのぞいた形 (R−CO−) の原子団のことを総称してアシル基と呼ぶ。それぞれのカルボン酸の語尾の ic acid を yl または oyl にして命名する。
[編集] 命名法
生物が作りだすカルボン酸、およびその塩は自然界に普遍的に見出すことができるので、物質としては有史以来親しまれてきた。錬金術の時代以来、単離・命名されて来たので酢酸のような慣用名を持つものが少なくない。IUPAC命名法では、カルボキシル基で置換する前の炭化水素の語尾 e を oic acid とし命名する。
[編集] 物性
極性溶媒中ではカルボキシル基のプロトンが電離して酸性を示すため、塩基との塩を作りやすい。
[編集] 生体とカルボン酸
生体において、炭素数4以上の直鎖カルボン酸は脂肪の成分であるため脂肪酸と呼ばれる。言い換えると、脂肪は脂肪酸のトリグリセリドである。生体での脂肪酸生合成は Acetyl CoA を起点として、Malonyl CoA 由来の C2 ユニットが導入されて α ケト酸 CoA となり、NADPH2 等で α ケト基が還元が繰り返されてより長鎖の脂肪酸 CoA となり生合成される。したがって、炭素数が偶数の脂肪酸は普通に見られるが、炭素数が5(吉草酸)以上の奇数の脂肪酸は自然界では少数である。また α ケト酸はアミノ酸生合成の出発物質でもある。
また多種のカルボン酸から形成されるTCAサイクルは、糖由来のピルビン酸を CO2 に分解しながら NADPH2 等を酸化的リン酸化経路に供給することで、生物のエネルギー代謝(内呼吸)の中核を担っている。
[編集] 合成法
一級カルボン酸は第一級アルコールやアルデヒドを強い酸化剤(クロム酸カリウムなど)で酸化することによって得られる。(酸化に安定な)芳香族カルボン酸の場合、ベンゼン置換のメチル基を過マンガン酸カリで直接カルボキシル基に酸化する場合がある。
二級あるいは三級カルボン酸をシステマテックに合成する方法として、カルボキシル基の幹部分に相当するグリニャール試薬に二酸化炭素を吹き込む方法がある(ドライアイスは昇華した粉体の CO2 を固める為に相当量の水を含むのでこの目的では収率が悪くなり使用できない)。あるいは特殊な場合はオレフィンの酸化解裂(オゾン解裂)によっても生成できる。不飽和脂肪酸のオレフィンが空気酸化で酸化解裂する現象は油脂の酸敗と呼ばれる。
[編集] 反応
カルボン酸は縮合反応等により
などの種々のカルボン酸誘導体を形成し、ポリマーを初めとする産業上重要な鍵物質となっている。
また、脂肪酸トリグリセリドのアルカリ加水分解は石鹸(脂肪酸アルカリ金属塩)の製法であることからけん化と呼ばれる。
[編集] カルボン酸の一覧
[編集] 脂式カルボン酸
長鎖炭化水素の1価のカルボン酸は脂肪酸と呼ばれる。
- ギ酸(メタン酸)
- 酢酸(エタン酸)
- プロピオン酸(プロパン酸)
- 酪酸(ブタン酸)
- 吉草酸(ペンタン酸)
- カプロン酸(ヘキサン酸)
- エナント酸(ヘプタン酸)
- カプリル酸(オクタン酸)
- ペラルゴン酸(ノナン酸)
- カプリン酸(デカン酸)
- ラウリン酸(ドデカン酸)
- ミリスチン酸(テトラデカン酸)
- ペンタデカン酸
- パルミチン酸(ヘキサデカン酸、セタン酸)
- マルガリン酸(ヘプタデカン酸)
- ステアリン酸(オクタデカン酸)
- オレイン酸
- リノール酸
- リノレン酸
- アラキドン酸
- ドコサヘキサエン酸
- エイコサペンタエン酸