海賊
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
海賊(かいぞく、英Pirate:パイレーツ)とは、島嶼、沿岸を根拠地として武装した船舶により海を横行し、武力を用いて航行中の船舶や沿岸の町や村から収奪を行う勢力のことである。
典型的には、船舶や沿岸を襲撃することにより、国家権力からみて非合法な手段により金品や食料を強奪する盗賊を指すが、金品を代償に盗賊行為を取り締まる側に立つ場合もある。また、中には島嶼や港湾などの支配権を握り陸上では統治者である者が組織的に行う場合があり、根拠地を支配する権力に服従し、その傘下にあって海賊的活動を行うような海軍との境界が曖昧であることも多い。また、交易などの商売を目的としている者が交渉決裂や商売上の競争相手とのいざこざにより海賊と化す場合もある。
目次 |
[編集] 海賊の歴史
ヨーロッパでは、イーリアスやオデュッセイアなど古代伝説にも登場し、アリストテレスの「政治学」には海賊は猟師などと同様に職業の一つとして数えられていた。8世紀には北欧のノルマン人ヴァイキングの活動があった。中世においてはベネチア・ジェノヴァといった通商国家の商船が自国の商圏を防衛するために武装化して競争相手の船舶を攻撃・略奪することがあった。
16世紀後半に始まるイギリスとスペインの抗争では、ヨーロッパやカリブ海では交戦相手国の船を略奪してもよいという国王の私掠免許が出され、私掠船が横行した。また東アジアの倭寇、ペルシア湾のアラブ海賊、北アフリカ沿岸のバルバリア海賊など、海あるところには海賊の姿があった。「降伏すれば命は保証、抵抗すれば皆殺し」の印である海賊旗(ジョリー・ロジャー)は18世紀になってから使われだしたものである。
専門の海賊職以外にも、半商半賊とでも言う様な商売にやってきてそれが不調だったら海賊になって街を襲うというような形態、あるいは普段は商人だが、他の海賊に対抗するために武力を持ち、たまにそれを使って海賊をすると言ったような場合もあった。後者の例は海禁が引かれ私貿易が制限された明後期の16世紀後半に横行し、清に抵抗運動を続けた事で有名な鄭成功の出た鄭一族などが活躍した。
[編集] 諸相
海賊はその出現場所・時代によりさまざまな呼称、形態がある。
- 倭寇
- 海賊衆(水軍)
- ヴァイキング
- ゼーゴイセン
- 私掠船
- バルバリア海賊
- バッカニア(カリブの海賊)
- 17世紀から18世紀にかけてカリブ海のスペイン領を中心に荒らしまわった海賊で、その名は西インド諸島の原住民が作る日干し肉(buccaning)を航海食として利用したことに由来する。主にイギリス・フランス・オランダなどからの逃亡者やスペイン入植者に追われた先住民が海賊となったもの。無法者ながら「女性や子どもの捕虜には乱暴しない」など独自の掟を持ち、また封建制が普通だった時代に稀有な平等主義・民主主義者であったことから、襲われた船員が転向するケースもあったという。多くの海賊が、トルトゥーガ島を本拠地とした。この種の海賊としては、後に「サー」の称号を得たヘンリー・モーガンや残虐行為で名を馳せたフランソワ・ロロネーなど多岐に渡る。
[編集] 現代の海賊被害
現代の海賊はハイテク武装をしており、通信機器や小型の高速艇やマシンガンを使い、航行するタンカーや商船・漁船を狙う海賊が出没する。これは、操船の自動化が進んだことにより石油タンカーなどの大型船舶の操縦が少人数でも可能となり、乗組員が少なくなったため襲いやすくなったことも関係している。
[編集] マラッカ海峡
国土交通省の『海賊行為に関する調査結果』によればインドネシア周辺海域を中心とした海域での発生が多く、2003年に12件の被害が報告されている。また世界的には400件以上の被害が報告されている。海賊問題は国境を越えた麻薬や人身売買の問題などの組織犯罪として、ASEANなどで国際的な問題となっている。 2005年3月に日本船籍のタグボート「韋駄天」がマレーシア付近のマラッカ海峡で襲撃を受け、船長を含む3名が人質に取られた。この事件は同年3月26日に人質が解放され解決している。
[編集] ソマリア沖
1990年代後半から、内戦の続くソマリア近海では、豊富な武器を流用した海賊行為が増加した。2005年6月26日には、国連の支援食糧(スマトラ島沖地震津波被災者支援)を積んだ貨物船(Semlow号)が海賊に拿捕、船と乗組員に対する身代金を要求される事件が起こったほか、同年11月エジプトからケニアに向かっていた豪華客船(Seabourn Spirit号)が襲撃を受ける事件も発生した。さらに、2006年3月にはアメリカ海軍の巡洋艦と駆逐艦が、たまたま発見した不審船との間で銃撃戦を展開。不審船の乗組員が1名死亡。乗員がロケットランチャーなどで武装していたことから、海賊船であったと見られている。
[編集] 国際法上の海賊
海賊行為は、「人類共通の敵(hostis humani gereris)」とされる国際犯罪であり、旗国主義の適用による保護をうけず、その処罰は公海上で海賊船舶を拿捕した国家に委ねられている。
- 海賊行為の定義:公海又はその上空などいずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶、航空機、人または財産に対して行われる、私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客による、私的目的のために行うすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為、及びそのような行為を煽動又は故意に助長するすべての行為(国連海洋法条約第101条)
- *軍艦、軍用航空機、政府の船舶又は航空機が同様の行為を行っても海賊行為とはならない。
- 海賊船舶・海賊航空機等の拿捕:海賊船舶・海賊航空機等の拿捕は、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所において、軍艦、軍用航空機その他政府の公務に使用されていること明らかに表示され識別されることができる船舶又は航空機で、そのための権限を与えられているものによってのみ行うことができる。(国連海洋法条約第105・107条)
- 取締り・処罰:海賊を行った者の国籍及び海賊船舶の船籍に拘らず、すべての国が取り締まり及び処罰を行うことができる。拿捕を行った国は、自国の裁判所において課すべき刑罰を決定することができ、また、善意の第三者の権利を尊重することを条件として、問題となる船舶、航空機又は財産について執るべき措置を決定できる。(国連海洋法条約第105条、公海条約第19条)
海賊行為については、公海条約及び国連海洋法条約が、すべての国が公海海上警察権や裁判権を行使できるという国際慣習法を法典化した。しかし、1990年代後半から海賊発生件数が増加し、特にアジア地域における被害が甚大であった。1998年には、貨物とともに船員も行方不明となった「テンユー号事件」が、1999年には日本の商船会社が運航するタンカー「アロンドラ・レインボー号」が武装集団に襲われ、船員が漂流を余儀なくされた「アロンドラ・レインボー号事件」が起きている。このような状況に鑑み、日本政府は、1999年のASEANにて、海賊対策のための協力強化を提言、これを契機に、2000年に開催された種々の国際会議において三つの宣言文書が作成された。その後、2001年、2002年のASEANにおいては、国際協力のための法的枠組みの作成が提案され、2003年末に「アジア海賊対策地域協力協定」が起草された。
現在日本政府は、海上保安庁を中心に、東南アジア各国に海賊取締りのための警察組織の創設を働きかけ(軍隊よりも警察組織のほうが国際間の共同対処がやりやすく、日本の法律では、軍隊への装備品提供が出来ない為である)、巡視船の無償供与や特殊警備隊による船舶制圧訓練、捜査官をシンガポールなどに派遣して、海賊組織摘発のための国際共同捜査などを積極的に行っている。
[編集] 有名な海賊
- アルビダ(海賊となったスカンディナヴィア王女)
- アン・ボニー
- ウィリアム・キッド
- 黒髭
- サミュエル・ベラミー
- シャーロッテ・デ・ベリー
- キャラコ・ジャック
- チン・シー(鄭一嫂)
- バルバロッサ(赤髭)
- バーソロミュー・ロバーツ
- フランシス・ドレーク
- フランソワ・ロロネー
- ヘンリー・モーガン
- メアリ・リード
- ロック・ブラジリアーノ
- 王直
- 熊野水軍
[編集] 物語の中の海賊の姿
架空の団体一覧#架空の海賊も参照のこと。
- アニメ
- 石ノ森章太郎『海賊王子』(東映動画で1966年に放映されていた番組)
- 松本零士『宇宙海賊キャプテンハーロック』
- 尾田栄一郎『ONE PIECE』
- ルーネル・ヨンソン『小さなバイキングビッケ』- ヴァイキングの子供が主人公。
- 漫画
- 小説
- ジェームス・マシュー・バリー『ピーター・パン』
- ロバート・ルイス・スチーブンソン『宝島』
- ルーネル・ヨンソン『小さなバイキングビッケ』- ヴァイキングの子供が主人公。
- カイ マイヤー『海賊ジョリーの冒険〈1〉死霊の売人』あすなろ書房
- カイ マイヤー『海賊ジョリーの冒険〈2〉海上都市エレニウム』あすなろ書房
- 陳舜臣『戦国海商伝』上下 講談社文庫
- 津本陽『天翔る倭寇』上下 角川文庫
- 白石一郎『海狼伝』、『戦鬼達の海』文春文庫
- 川口松太郎『女人武蔵』朝日新聞社
- 神林長平『敵は海賊』シリーズ ハヤカワ文庫
- 宮崎学『海賊 アジアノワール』毎日新聞社
- 多島斗志之『海賊モア船長の遍歴』中央公論新社
- 多島斗志之『海賊モア船長の憂鬱』集英社
- 映画
- 海賊ブラッド(1935年)
- 踊る海賊(1948年)
- 女海賊アン(1951年)
- すべての旗に背いて(1952年)
- 空飛ぶゆうれい船(1969年)-日本のアニメーション映画
- 新海賊ブラッド(1962年)
- カットスロート・アイランド(1995年)
- パイレーツ・オブ・カリビアン(2003年)
- 絵本
- リチャード・プラット 文/クリス・リデル 絵『海賊日誌 少年ジェイク、帆船に乗る』岩波書店 2003年