知的財産推進計画
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知的財産推進計画(ちてきざいさんすいしんけいかく)は、知的財産基本法第23条に基づき政府・知的財産戦略本部が決定する行動計画。正式名称は「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」と言う。
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[編集] 計画の概要
2003年7月8日に最初の推進計画が閣議決定されてから、概ね以下のような枠組みで形成されている(以下に示す表題は2005年版推進計画を基に、一部修正)。
- 総論
- 知的財産戦略の理念
- 「知的財産立国」実現に向けた取組方針
- 知的財産戦略の歩み
- 知的財産推進計画の策定と実施
- 第1章 知的財産の創造
- 1.大学等における知的財産の創造を推進する
- 2.知的財産を軸とした産学官連携を推進する
- 3.研究者の創造環境を整備する
- 4.企業における質の高い知的財産の創造を推進する
- 5.魅力あるデザインの創造を推進する
- 第2章 知的財産の保護
- I 知的財産の保護を強化する
- II 模倣品・海賊版対策を強化する
- 第3章 知的財産の活用
- I 知的財産を戦略的に活用する
- II 中小・ベンチャー企業を支援する
- III 知的財産を活用して地域を振興する
- 第4章 コンテンツをいかした文化創造国家への取組
- I コンテンツビジネスを飛躍的に拡大する
- II ライフスタイルをいかした日本ブランド戦略を進める
- 第5章 人材の育成と国民意識の向上
- I 知的財産関連人材育成の総合戦略を推進する
- II 知的財産関連の専門人材を育成する
- III 知的財産の教育及び普及・啓発を推進する
- 成果
[編集] 2003年7月8日決定の推進計画
2003年4月1日に、前身の知的財産戦略会議を発展・強化させる形で知的財産戦略本部(本部長・小泉純一郎内閣総理大臣)が発足し、内閣官房に知的財産戦略推進事務局(事務局長・荒井寿光)が設置された。本部(全閣僚と民間選出本部員10名により構成)は2003年7月8日の第5回本部会合で推進計画案を了承し、同日閣議決定された。
なお、この時に決定された推進計画案に対しては日本における知的財産法の第一人者である中山信弘本部員(東京大学大学院法学政治学研究科教授)が5月21日の第3回会合で「単に審査・審判、裁判の促進とか、あるいは知的財産権の侵害のし得を防止するという知的財産側だけの一方的な論理だけで突き進むと、とんでもない結果になる場合も多い」と強い難色を示しているが、これは学界や法曹界による本部・事務局の「知的財産権強化一辺倒」的な姿勢を危惧する声を代表したものと言える。
その象徴とも言えるのが、翌年に音楽ファンの大規模な反対運動が展開された「レコード輸入権の創設」や、2002年4月25日の最高裁判所による中古ゲームソフト売買を合法と認定した判決の立法による破棄、1991年に著作権審議会(当時)が導入を答申したものの日本経団連の猛反対で凍結されたままの版面権(出版社の著作隣接権)創設と言った項目を含むコンテンツビジネス関係の部分であった。
この推進計画案はパブリックコメントに付されたが、その期間は6月20日から同30日までと言う極めて短い期間でありほとんど誰もその実施を知ること無く、しかも締め切りから10日足らずで原案がそのまま決定されるなど、中山本部員が警鐘を鳴らした「事務局の暴走」ばかりが目立つものであったことが否めない。
[編集] 2003年度の推進計画に基づき実施された主な施策
[編集] 2004年5月27日改訂の推進計画
2003年12月17日の第6回本部会合で、中山本部員が事務局の姿勢を「余りにも独善的である」「まともに議論をしようという真摯な態度がどうも私には感じられません」「(知的財産戦略は)事務局自体が特定の見解、特定の案に固執するとか、特定の本部員を排除して、政治家や財界のトップと話をつけて決着をするというたぐいのものではない」と激しく糾弾したことが年明けに公開された議事録で判明するとインターネット上を中心に事務局を非難する意見が続出し、結果的に政府の掲げる「知的財産戦略」に対する不信感が一般国民にも拡がることとなった。
そのような状況下で推進計画の見直し作業が進められ、4月16日から5月6日までパブリックコメントが実施されたが、実施期間と推進計画に基づいて法案が提出されたレコード輸入権創設に対する反対運動が最高潮に達していた時期が重なったことから、寄せられた全意見の実に8割以上が「輸入権反対」で占められたうえ、他の部分に関しても「知的財産権強化一辺倒」的な姿勢に対する手厳しい意見が相次いだ。
とは言え、改訂に際しても大胆な方針転換が図られた訳ではなく国会審議中であったレコード輸入権に関しては消費者利益を著しく害する結果となった場合の見直しが追記されるに留まった。
他方、新たに「日本ブランドの発信強化」が打ち出され安全・高品質な農産物の輸出促進などが重点施策に追加された。
[編集] 2004年度の推進計画に基づき実施された主な施策
[編集] 2005年6月20日改訂の推進計画
2005年1月24日から2月14日まで推進計画の見直しに関するパブリックコメントが行われ、ここで寄せられた意見などを基に6月10日の第11回本部会合で改訂案が了承された。全体的に前年までの計画に比べて大胆な方針転換が図られており、特に反対意見の多かった最高裁判所による中古ゲームソフト売買を合法と認定した判決の立法による破棄や版面権創設を目指す項目が削除されたのを中心に、より「消費者利益」を重視した現実的内容となっている。
その他、主な論点として「模倣品・海賊版防止国際条約」の提唱が掲げられているのが特徴。
また、本計画実施期間中に知的財産基本法の制定から3年を迎えるのに伴い、同法附則第2条に基づき実施状況の検討作業が行われている。
[編集] 2005年度の推進計画に基づき実施された主な施策
- 特許法・商標法違反の罰則強化(経済産業省)
- 著作権契約書作成支援システムの構築(文部科学省)
- なお、システムのサイトは5月に開設されたがサイト内でMac OSのアイコンを盗用していたことが判明し、問題となった。文化庁はアップルコンピュータに謝罪し、8月31日よりサイトの運用を再開。
[編集] 2006年6月9日改訂の推進計画
知的財産推進計画2006(PDF)
2006年3月8日から29日まで推進計画の見直しに関するパブリックコメントが行われ、ここで寄せられた意見などを基に6月9日の第13回本部会合で改訂案が了承された。また、コンテンツ専門調査会デジタルコンテンツ・ワーキンググループにおいて中山本部員が日本の音楽用CDの価格が欧米に比して著しく高額であることや日本のレコード会社が音楽配信に消極的な姿勢であることを指摘し、商業用レコードの再販制度廃止を強く訴えたがパブリックコメントでは音楽業界によって再販制度護持を訴える組織票が大量に投下され、最終的には現状の検証と代替手段の可否を検討すると言う当初の趣旨からは大幅に後退した表現の項目が新設されるに留まった。また、それまでは断片的にしか言及されていなかったデジタルアーカイブの構築に関する項目が大幅に追加された。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 知的財産基本法(総務省法令データ提供システム)