総合無線通信士
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総合無線通信士(そうごううむせんつうしんし)は、無線従事者免許の1つ。総務省管轄。かつては無線通信士と呼ばれていた。英語表記はRadio Operator for General Services。
国際的に通用する資格であり、第一級の免許証には『国際電気通信連合憲章に規定する無線通信規則に規定する無線通信士一般証明書、第一級無線電子証明書並びに航空移動業務及び航空移動衛星業務に関する無線電話通信士一般証明書に該当する』と日本語および英語で説明がある。
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[編集] 種別
資格は第一級と第二級と第三級に分かれている。それぞれの操作範囲は次のとおりである。
- 第一級は、無線通信業務全般(目的・範囲を問わず、全ての通信操作)、船舶及び航空機に施設する無線設備の技術操作、および第二級陸上無線技術士の操作の範囲に属するもの
- 第二級は、主に近海区域を航行する商船の船舶局および比較的規模の大きな漁船の船舶局や漁業用の海岸局・航空関連の無線設備における通信操作、船舶及び航空機に施設する無線設備の技術操作(空中線電力に制限がある)、および第一級総合無線通信士の操作の範囲に属するモールス符号による通信操作で第一級総合無線通信士の指揮の下に行うものなど
- 第三級は、主に漁船の船舶局における通信操作(国際通信のための通信操作及び多重無線設備の技術操作 を除く)、第二級総合無線通信士の操作の範囲に属するモールス符号による通信操作(航空局、航空地球局、航空機局、航空機地球局及び航空機のための無線航行局の無線設備の通信操作を除く。)で第一級総合無線通信士又は第二級総合無線通信士の指揮の下に行うもの(国際通信のための通信操作を除く)など
第一級、第二級は第一級アマチュア無線技士、第三級は第二級アマチュア無線技士の操作範囲も含む。第一級総合無線通信士を略して一総通または一通と言う。
第一級総合無線通信士は、第一級陸上無線技術士と並んで無線従事者国家資格の最高峰とされ、この2つの資格があれば、他の無線従事者資格の操作範囲を全て包含する。また第一級総合無線通信士は、第一級陸上無線技術士以外の全ての無線従事者資格を包含する。資格取得後の実務経験で教員免許(科目は「工業」)が取得でき、有資格者は職業訓練指導員(電気通信科)、工事担任者、電気通信主任技術者試験など多くの資格試験で科目免除が受けられることが、この資格の難易度を示す目安となっている。
[編集] 国家試験
国家試験は年2回実施され(実施は日本無線協会)、第一級と第二級は7科目、第三級は5科目を2年間で合格すれば合格となる。(科目合格有効が2年間)。
[編集] 試験方法
- 筆記と実技
[編集] 筆記出題内容(無線従事者規則第5条)
- 第一級
- 無線工学の基礎
- 無線工学A
- 無線設備(空中線系を除く)の理論、構造及び機能
無線設備のための測定機器の理論、構造及び機能
無線設備及び無線設備のための測定機器の保守及び運用
- 無線工学B
- 空中線系及び電波伝搬(以下「空中線系等」という。)の理論、構造及び機能
空中線系等のための測定機器の理論、構造及び機能
空中線系及び空中線系等のための測定機器の保守及び運用
- 法規
- 電波法及びこれに基づく命令(船舶安全法、航空法及び電気通信事業法並びにこれらに基づく命令の関係規定を含む。)
通信憲章、通信条約、無線通信規則、国際電気通信連合憲章に規定する国際電気通信規則並びに海上における人命の安全のための国際条約(附属書の規定を含む。)、船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約(附属書の規定を含む。)及び国際民間航空条約(電波に関する規定に限る。)
- 文書を十分に理解するために必要な英文和訳
文書により十分に意思を表明するために必要な和文英訳
口頭により十分に意思を表明するに足りる英会話
- 地理
- 主要な航路、航空路及び電気通信路を主とする世界地理
- 第二級
- 無線工学の基礎
- 電気物理の概要
電気回路の概要
半導体及び電子管の概要
電子回路の概要
電気磁気測定の概要
- 無線工学A
- 無線設備の理論、構造及び機能の概要
無線設備のための測定機器の理論、構造及び機能の概要
無線設備及び無線設備のための測定機器の保守及び運用の概要
- 無線工学B
- 空中線系等の理論、構造及び機能の概要
空中線系等のための測定機器の理論、構造及び機能の概要
空中線系及び空中線系等のための測定機器の保守及び運用の概要
- 法規
- 電波法及びこれに基づく命令(船舶安全法、航空法及び電気通信事業法並びにこれらに基づく命令の関係規定を含む。)の概要
通信憲章、通信条約、無線通信規則、電気通信規則並びに海上における人命の安全のための国際条約、船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約及び国際民間航空条約(電波に関する規定に限る。)の概要
- 英語
- 文書を適当に理解するために必要な英文和訳
文書により適当に意思を表明するために必要な和文英訳
口頭により適当に意思を表明するに足りる英会話
- 地理
- 主要な航路、航空路及び電気通信路を主とする世界地理の概要
- 第三級
- 筆記
- 無線工学の基礎
- 電気磁気の基礎
電気回路の基礎
半導体及び電子管の基礎
電子回路の基礎
電気磁気測定の基礎
- 無線工学
- 無線設備の理論、構造及び機能の基礎
空中線系等の理論、構造及び機能の基礎
無線設備及び空中線系等のための測定機器の理論、構造及び機能の基礎
無線設備及び空中線系並びに無線設備及び空中線系等のための測定機器の保守及び運用の基礎
- 英語
- 文書を理解するために最小限必要な英文和訳
文書により意思を表明するために最小限必要な和文英訳
- 法規
- 電波法及びこれに基づく命令(船舶安全法及び電気通信事業法並びにこれらに基づく命令の関係規定を含む。)の概要
通信憲章、通信条約、無線通信規則(海上における人命又は財産の保護のための無線通信業務及び無線測位業務に関する規定に限る。)、電気通信規則並びに海上における人命の安全のための国際条約及び船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約(電波に関する規定に限る。)の概要
[編集] 実技(電気通信術)出題内容(無線従事者規則第5条)
- 第一級
- モールス電信 一分間七十五字の速度の和文、一分間八十字の速度の欧文暗語及び一分間百字の速度の欧文普通語によるそれぞれ約五分間の手送り送信及び音響受信
- 直接印刷電信 一分間五十字の速度の欧文普通語による約五分間の手送り送信
- 電話 一分間五十字の速度の欧文(運用規則別表第五号の欧文通話表によるもの)による約二分間の送話及び受話
- 第二級
- モールス電信 一分間七十五字の速度の和文,一分間八十字の速度の欧文暗語及び一分間百字の速度の欧文普通語によるそれぞれ約五分間の手送り送信及び音響受信
- 電話 一分間五十字の速度の欧文(運用規則別表第五号の欧文通話表によるも)による約二分間の送話及び受話
- 第三級
- モールス電信 一分間七十字の速度の和文,一分間八十字の速度の欧文暗語及び一分間百字の速度の欧文普通語によるそれぞれ約三分間の手送り送信及び音響受信
電気通信術はモールス符号の音響受信および手送り送信、直接印刷電信(テレタイプ運用技能―キーボードを用いて規定の通信文を制限時間内に入力)、電話(通話表を用いた通信文の送受信)がある。試験科目が多いこともあって他の無線従事者国家試験よりも要求される技術が非常に高い。
モールス符号の音響受信は非常に高速であるため(参考までに、1983年3月までの第一級無線通信士の電気通信術(モールス電信)試験では和文が85字/分、欧文暗語が100字/分、欧文普通語が125字/分、また、かつての第一級アマチュア無線技士の電気通信術(モールス電信)試験では、欧文が60字/分、和文が50字/分であった)、欧文では筆記体による速記技術を習得しなければ対応が困難なほどである。また、内容は電報形式による規定の額表があり、単に送受信できるだけでは合格は覚束ない。アマチュア無線で電信の経験を積んでから受験する者も多い。
[編集] 電気通信術免除(無線従事者規則第6条第2項)
国家試験において電気通信術の試験に合格点を得た者が、当該電気通信術の試験の行われた月の翌月の初めから起算して三年以内に実施される同表の下欄に掲げる資格の国家試験を受ける場合は、申請により、当該電気通信術の試験を免除する。
合格級 | 受験級 |
第一級 | 第一級、第二級、第三級 |
第二級 | 第二級、第三級 |
第三級 | 第三級 |
[編集] 資格,業務経歴等による免許の要件等(無線従事者規則第33条)
- 第一級
- 現に第二級総合無線通信士の資格を有し、かつ、当該資格により海岸局又は船舶局の無線設備の国際通信のための操作に七年以上従事した経歴を有すること
- 第二級
- 現に第三級総合無線通信士の資格を有し、かつ、当該資格により船舶局の無線設備の国際通信のための操作に七年以上従事した経歴を有すること。
したがって、第一級総合無線通信士の免許を取得するためには、第三級取得後、最短でも14年の実務経験が必要になる。
[編集] 資格免除
現に有する資格 | 受験級 | 免除科目 |
伝送交換主任技術者 | 第一級及び第二級 | 無線工学の基礎及び無線工学A |
線路主任技術者 | 第一級~第三級 | 無線工学の基礎 |
工事担任者 | 第二級及び第三級 | 無線工学の基礎 |
- 工事担任者取得者における免除は、AI第一種、AI第二種、DD第一種、DD第二種、AI及びDD総合種に限る。
[編集] 合格率
5%程度、年間の合格者数はおおよそ50名以下である。合格者が少ないため資格取得後の就職先についての情報は少ない。
かつては遠洋を航海する船舶には欠かせない存在であり、無線通信士(現総合無線通信士)を養成する高等学校や高等専門学校、専修学校も多く、資格取得後は日本電信電話公社(現NTT)やKDD(現KDDI)、海運会社に就職し、通信士(通信長・次席などの職階がある)として遠洋航路のモールス信号による無線通信業務に従事する場合が多かったが、衛星通信を利用したGMDSSへの移行でモールス信号を使う船舶無線がほとんど廃止されるなど、通信事情が変化した昨今では、海上保安大学校や一部の水産高校(漁船で一部モールス信号を使っているといわれている)などで細々と養成が行われている状態という。このため、一部の遠洋漁船や漁船と通信する漁業無線局を除けば、多くは陸上無線技術士に準ずると思われる。