良心的兵役拒否
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良心的兵役拒否 (りょうしんてきへいえききょひ、英:conscientious objection)とは国家組織の暴力、とりわけあらゆる形態ないしは特定の状況下の戦争に参加することや義務兵役されることを望まないこと。当人の良心に基づく信念であり、拒否した者を良心的兵役拒否者(conscientious objectors=コンシェンシャス・オブジェクター、略してCO's)という。
良心的兵役拒否は宗教の信条に基づくものが多くを占めるが、民族や、政治的、哲学的な背景に基づくこともある。
良心的兵役拒する者は義務兵役年齢に達した時点で兵役忌避を申請するのがほとんどだが、軍務中や戦争中に兵役を中断して拒否する場合もある。
目次 |
[編集] 現時点の世界での独立主権国家における徴兵制の有無の一覧
- 男女共強制的に兵役義務が課される徴兵制国家
- 男性に強制的に兵役義務が課される徴兵制国家
- ヨーロッパ地域
- 中近東・南アジア地域
- 東アジア地域
- 南北アメリカ地域
- アフリカ地域
- (stub)
- 選抜徴兵制の国家
- 徴兵制のない国家
- ヨーロッパ地域
- 中近東・南アジア地域
- 東アジア地域
- 南北アメリカ地域
- オセアニア地域
- アフリカ地域
- 法律上・制度上のどちらも、良心的兵役拒否権を認めない国家
- 軍隊を保持しない国家
- アイスランド(アメリカ軍の基地があったが撤退)・コスタリカ(軍の再編成権は認められている)・日本(憲法上、軍隊は存在しないことになっているが、自衛隊が存在する)・リヒテンシュタイン・モナコ(フランスに委任・ただし国家憲兵隊は存在する)・アンドラ(フランス・スペインに委任)・バチカン(スイス人衛兵が存在)
[編集] 今日の状況
良心的兵役拒否は強制的な兵役を導入した時から存在しているが、合法的に認められるようになったのは、21世紀の直前のことであった。その理論的支柱となったのが基本的人権の「良心の自由」の思想であった。 しかし、良心的兵役拒否権は国際連合やヨーロッパ評議会 (CoE) のような国際機関では基本的人権として認知され、推奨されているが、多くの国々で法的基盤がないのも事実である。現在の地球上では、100カ国ほどに徴兵制度が存在するが、そのうちの30カ国しか法的な対策を取っておらず、そのうちの25カ国はヨーロッパ諸国が占めている。ギリシャ、キプロス、トルコ、フィンランド、ロシアを除くヨーロッパの徴兵制度を持つ国は、多かれ少なかれ良心的兵役拒否に関する国際的指針を満たしている。
ヨーロッパ以外の多くの国、とりわけ戦闘激化地域(イスラエル/パレスチナ、コンゴ、韓国/北朝鮮)では、良心的兵役拒否は死刑など厳罰となる(ただし、イスラエルは女性は良心的兵役拒否が可能)。
良心的兵役拒否者は、かつて、国賊、売国奴、脱走兵、反逆者、臆病者、のろま等々、屈辱的な言葉を意味した非国民と見られ、死刑をはじめ、ありとあらゆる差別を受けてきた。
しかし、ヨーロッパにおいて、ここ数十年のうちに急激に変化を起こしている。 とりわけ良心的兵役拒否者が代替条件で市民労役を命じられている国では、徴集兵と同様、労役は社会貢献をしていると解釈されている。同時に、兵役拒否者数に上昇もみられている。ドイツでは良心を理由に兵役は拒否出来ることが法律で定められており、その代わり13ヶ月間の社会福祉活動が義務づけられる。同国では、「良心的兵役拒否者」数が2003年(平成15)には兵役につく者の数を上まわり、老人介護等の社会福祉事業は、これらの「民間奉仕義務(Zivildienst)」なしには成立し得ないと言われている。
[編集] 歴史的な進展
良心的兵役拒否の現代における思想は、「すべての者は神の御前で個々の行動に対して責任を負う」というプロテスタントのキリスト教信仰に起源を有している。それゆえに最初の拒否法の規定が、1900年にキリスト教のプロテスタント教国のノルウェーで紹介されたことは驚くべきことではない(デンマークとスウェーデンが1917年と1921年に後に続いた)。続く二十数年の間に、ヨーロッパの他のプロテスタント教国も徐々に信者が良心的兵役拒否をする権利を認めるようになった。
カトリック教国では個人の罪や国家に対する忠誠に関わる、異なる見解ゆえに、50年を経て1963年にフランスやルクセンブルグで始まった。
冷戦下の欧州で、西側諸国での良心的兵役拒否者の立場は認められたが、多くの東側諸国はレーニンの意見を無視し良心的兵役拒否を認めなかった。(東ドイツやソビエト連邦では事実上、良心的兵役拒否が認められていた。)冷戦終結後には、多くの東欧諸国が良心的兵役拒否を認めるようになった。
特殊なケースとして挙げられるのが東方正教会の伝統を持つギリシャである。ギリシャには伝統的に道徳的義務として国家に対する国民の不滅の忠誠と「正当防衛」がある。ギリシャは良心的兵役拒否と代替労役に関する法を有するヨーロッパの数少ない国の一つである。最近のヨーロッパで良心的兵役拒否の権利を認めたのは2003年のセルビア・モンテネグロが挙げられる。
第二次世界大戦中、良心的兵役拒否は、とりわけナチス・ドイツ占領下のヨーロッパにおいて反戦とレジスタンスの危険な形態の一つであった。日本においても、灯台社の明石順三が兵役を拒否して、特高警察に逮捕・収監された。
徴兵制度のある大韓民国においては2004年に良心的兵役拒否者が地方裁判所では無罪になったが、最高裁判所・憲法裁判所で有罪の判決を受けた。かつて韓国での兵役拒否者は、エホバの証人の信者に限られたが、現在は徴兵制度に反対する団体も結成されている。ちなみに、韓国での兵役法違反者の量刑は、懲役1年6ヶ月が相場である。
[編集] 参照
[編集] 外部リンク
- The European Bureau for Conscientious Objection
- The Central Committee for Conscientious Objectors (US)
- War Resister's International