軌間可変電車
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軌間可変電車(きかんかへんでんしゃ) は、国土交通省の施策で、日本鉄道建設公団(現・鉄道建設・運輸施設整備支援機構)の委託によりフリーゲージトレイン技術研究組合が開発を進めている、標準軌 (1435mm) と狭軌 (1067mm) の両方の線路上を走行可能な試験電車。フリーゲージトレイン(Free Gauge Train,FGT)ともいうが、これは和製英語で、英語ではGauge Changable Train またはGauge Change Train,(GCT) という。
この技術を用いて、標準軌の新幹線と狭軌のままの在来線を直通運転する列車を運行することで、フル規格新幹線よりもコストと建設期間を抑えつつ所要時間の短縮を図ることを目指す。また、実用化されれば新規のミニ新幹線はなくなるものと思われる。
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[編集] 概要
標準軌と狭軌線を直通するために、軌間の異なる線路を接続するように設置された軌間可変装置を通過する間に、車輪を車軸方向にスライドさせて両方の軌間に設定できる機構を持つ。構造的にはスペイン国鉄のタルゴ式客車において実用化済みの機構だが、新幹線電車の様な動力分散方式の場合、モーターからの動力伝達の課題が付け加わる。また日本の場合、軌間変更で標準軌で乗り入れる先は新幹線であり、その高速度および複数の異なる電源方式、新幹線・在来線双方の安全規制に対応させる必要もある。車輪と一体となったダイレクト・ドライブ・モーター (DDM) を用いたもの、平行カルダンとスプラインを用いたものなどの、機構が試行されている。
なお現在未解決の問題として、使用電圧の違いによって対応する集電装置(パンタグラフ)が異なるというものがある。新幹線では架線電圧を交流25000Vとし、在来線の直流1500V・交流20000Vより高くすることにより、流れる電流を弱くし伝達ロスを小さくしている。このためパンタグラフを小さく細くすることができ低騒音性にも寄与しているのだが、この新幹線用のパンタグラフの仕様では、電圧の極端に異なる在来線直流区間に進入した場合、架線から流される大電流に耐えきれず壊れてしまう。また逆に在来線用のパンタグラフで新幹線に進入した場合大きすぎて高速走行中に暴れて集電効率が低下するうえ騒音の原因ともなる。現在は新幹線用と在来線用両方を同時に装着しているが、やはり騒音の低減の妨げとなるため、双方を両立する専用のパンタグラフの研究が進められている。なお、ミニ新幹線の場合は新幹線区間と在来線区間でパンタグラフを共用しているが、これは直流区間に乗り入れないからこそ可能なものである。
また、もうひとつの問題として、軌間可変装置を通過するのに要する時間が挙げられる。現状では極端な低速でしか通過できず、1両通過するのに1分以上かかってしまう状況である。このままだと長編成の列車になれば軌間変更に時間がかかることになり、結局は新八代駅のような同一平面上乗り換えの方が早いということになってしまう。このため軌間可変装置の通過速度向上にも重点が置かれている。
他にも現在試験運転をしている軌間可変電車は、曲線を高速で通過できるを振り子機構持たない一般的な車両構造なのに対して、導入の可能性のある路線を走行する特急列車は振り子機構を装備した車両を使用して所要時間の短縮を図っている路線がほとんどであり振り子機構を装備した軌間可変電車を用意して試験を行う必要がある。
- 1998年GCT-01型として製造される。3両編成。所有は鉄道総合技術研究所(JR総研)
- 1999年1月から山陰本線(米子~安来)で走行試験(時速100km/h)
- 1999年4月~2001年1月までアメリカ合衆国コロラド州TTCIプエブロ実験線で、標準軌での高速耐久試験を実施。最高速度246km/h、累積走行距離600,000km、軌間変換回数2000回を達成。
- 2002年10月~11月に日豊本線(西小倉~新田原、別府~佐伯)で在来線の速度向上試験(130km/hを達成)
- 2004年8月~10月に山陽新幹線で新幹線での走行試験、新山口~新下関間を15回に渡って走行(最高速度210km/hまでを試験)
- 2006年(10月現在)試験は終了したため、GCT-01型は小倉工場内に留置されている。
今後、九州新幹線新八代駅構内に設置した新在直通試験線と軌間可変装置を用いて、九州新幹線と在来線を直通する運転の試験を行うものと思われる。振り子機構を装備した二次試作車両の開発も行われている。軌間可変電車の実用化は2008年頃の予定。
試験車のGCT-01は「車両」籍を持っていない。保守用のモーターカーと同じ扱いなので、試験時には線路閉鎖をしなければならない。
スペインのタルゴ客車の技術をそのまま利用するという手段もあるようにも見える。事実、タルゴはスペインの高速新線「AVE」において、専用機関車で高速走行する実績を上げている。また、在来線区間では余剰気味の既存の機関車をそのまま使用できるメリットもある。軌間の変わり目で機関車を付け替えるのであるから、集電装置の考慮も必要ない。しかしながら、日本の新幹線では、加速性能のよい動力分散方式(多くの車両にモーターが取り付けられている)がとられており、現在の東海道新幹線や東北・上越新幹線の東京-大宮間の過密なダイヤの中に、加速性能の劣る動力集中方式(機関車が客車を牽引する)を持ち込むことは非現実的であると考えられている。というのは、加速性能が異なる列車同士は、時間間隔を広げなければならないからである。その他、重量の重くなる機関車を高速列車に使用することは、地盤の弱い日本では震動の問題を多く引き起こしてしまう。このため、タルゴ客車の技術をそのまま導入して営業列車に供することは現時点では事実上不可能とされている。
[編集] 整備新幹線に関する政府与党合意
- 「整備新幹線の取り扱いについて」平成12年12月18日政府・与党申合せにおいて、「軌間可変電車の技術開発を推進し、早期実用化を図る。」との文言が掲げられた。
- 同じく「整備新幹線の取り扱いについて」平成16年12月16日政府・与党申合せにおいて同様の文言が掲げられるとともに、九州新幹線(長崎ルート)武雄温泉-諫早間につき「軌間可変電車方式による整備を目指す。」とされた。
[編集] 関連項目
- 作品中に開発中の軌間可変電車が登場する。
[編集] 外部リンク
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